シャノンの情報理論の概要
シャノンの情報理論は、1948年にクロード・シャノンによって提唱された、情報の量や伝送の信頼性などを定量的に扱うための理論となる。
この理論は、情報を「信号」や「データ」として捉え、それを送信する際の誤りやノイズについて考えるもので、情報の量は「ビット」(binary digitの略)という単位で測定され、1ビットは2つの可能性のある状態を表すものとなる。例えば、コインを投げる場合は表か裏かの2つの状態があり、1ビットの情報を持っているといえる。
シャノンの情報理論では、情報の量を「情報量」として定義する。情報量は、情報源が出力するメッセージの不確かさを表す指標であり、情報量が大きいほどメッセージが不確かであることを意味する。
情報量は、メッセージが持つ「選択肢の数」に関係している。たとえば、あるメッセージが「はい」と「いいえ」の2つの選択肢を持つ場合、その情報量は1ビットとなる。なぜなら、1ビットは2つの選択肢を表すことができるためである。
一般的に、ある情報源がn個の異なるメッセージを出力する場合、情報量Hは以下の式で表される。
\[H = log2 n\]
この式は、n個の選択肢がある場合、それらを表すのに必要なビット数を表している。たとえば、サイコロを振った結果を伝える場合、サイコロの目は1から6までの6つの選択肢があり、情報量は約2.58ビットとなる(H = log2 6 ≒ 2.58)。
情報量は、情報源が持つ情報の不確かさを表すため、情報源が出力するメッセージが予測可能であるほど情報量は小さくなる。逆に、メッセージが予測困難であるほど情報量は大きくなる。
またシャノンの情報理論では、情報伝送の信頼性についても考慮されている。情報伝送には、誤りやノイズなどの影響があるため、送信された情報が正確に受信される保証がない。このような場合に対応するため、情報伝達の信頼性を高めるための手法が研究されている。
情報伝送における誤り率は、送信された情報が誤って受信される確率を表し、シャノンの情報理論では、誤り率を下げるための手法として、誤り訂正符号(error-correcting codes)や符号化(coding)などが研究されている。
誤り訂正符号は、送信された情報に冗長な情報を加えることで、誤りが生じた場合でも正確に復元することができるようにする手法で、符号化は、送信する情報を別の形式に変換することで、誤りの影響を軽減する手法となる。これはたとえば、音声データをデジタル信号に変換することで、ノイズの影響を受けにくくなることに当たる。
情報伝送における誤り率は様々な手法を用いることで下げることができる。しかし、誤り率が完全に0になることはあり得ないため、誤り率がある程度以上になると、情報伝送の信頼性が低下し、情報量や伝送速度などの最適化に影響を与えることになる。
適用例
シャノンの情報理論は、情報通信技術の分野で幅広く応用されている。以下に、その具体的な適用事例をいくつか述べる。
- 音声通信: シャノンの情報理論は、音声通信における圧縮技術の開発に役立っている。音声データは、高いビットレートで送信する必要があるが、シャノンの情報量の理論を用いることで、データ圧縮を行い、ビットレートを低下させることができる。これにより、帯域幅を節約しながら高音質の音声通信が可能になる。
- データ圧縮: シャノンの情報理論は、データ圧縮における圧縮アルゴリズムの開発に役立っている。データ圧縮は、ファイルサイズを小さくすることでストレージや帯域幅の節約につながり、シャノンの情報理論を用いることで、データ圧縮の最適化が可能になる。
- インターネット通信: シャノンの情報理論は、インターネット通信におけるエラー訂正技術の開発にも役立っている。インターネット通信は、ノイズや誤りが生じやすいため、エラー訂正技術が必要であり、シャノンの情報量の理論を用いることで、エラー訂正技術の最適化が可能になる。
- 暗号化: シャノンの情報理論は、暗号化技術の開発にも応用されている。暗号化は、通信内容を秘匿するための技術であり、シャノンの情報量の理論を用いることで、暗号化技術の最適化が可能になる。
- 生命科学: シャノンの情報理論は、生命科学における遺伝子情報の解析にも応用されている。DNAやRNAの配列情報は、シャノンの情報量の理論を用いることで、解析や比較が可能になる。
シャノンの情報理論とAI技術
シャノンの情報理論は、AI技術の分野でも幅広く応用されている。以下に、その具体的な適用事例について述べる。
- 情報検索: 情報検索は、大量のデータから特定の情報を抽出する技術であり、機械学習や自然言語処理などのAI技術が応用されている。シャノンの情報量の理論を用いることで、検索結果のランキングを最適化することができる。
- データ圧縮: データ圧縮においても、AI技術が応用されている。深層学習を用いたデータ圧縮技術が開発されており、より高い圧縮率が実現されている。また、シャノンの情報量の理論を用いることで、データ圧縮技術の最適化が可能になる。
- 自然言語処理: 自然言語処理は、人間の言語をコンピュータが処理する技術であり、AI技術が不可欠なものとなる。シャノンの情報量の理論を用いることで、例えば、文書の圧縮において、文書の特徴を最適に抽出することができるなどの自然言語処理の最適化が可能になる。
- データ転送: AI技術を用いたデータ転送においても、シャノンの情報量の理論が応用される。例えば、深層学習を用いたデータ圧縮技術を組み合わせることで、高速なデータ転送が実現される。
- 画像処理: 画像処理においても、シャノンの情報量の理論が応用される。例えば、画像の圧縮において、シャノンの情報量の理論を用いることで、圧縮率を最適化することができ、また、深層学習を用いた画像認識技術においても、シャノンの情報量の理論を適用することができる。
参考図書
シャノンの情報理論の入門図書として「シャノンの情報理論入門」がある。
「情報とはなにか? どのように量るのか? 情報エントロピーとは? 圧縮とはなにか?
高校生でも分かる、シャノン情報理論の入門書。
情報は、なぜディジタル化できるのだろうか?
現代の巨大な情報社会を支える情報科学の基礎はシャノンによって作られた。
形のない情報をどのように表現し、情報の価値をどのように表すのか?
シャノンの築いた情報理論を分かりやすく解説する。」
シャノンの情報理論入門
まえがき
第1章 情報科学の歴史
コンピュータが人だった頃
計算する機械としてのコンピュータの歴史
20世紀前半の情報科学者たち
シャノンによる情報の定義
シャノンの功績
情報を符号化(コード化:処理・伝達などを効率よく行うために、本来の形から変換すること)した
情報の宰相単位を提唱
あらゆる情報は数値に置き換えることができる
価値ある情報を高速に正確に送りたい
第2章 情報とはなにか
情報とは何か
情報の定義
情報の最小単位
シャノンの情報理論のエッセンス : 高速で正確な通信を担う役者たち
情報符号化
通信路符号化
受信機と受信者
第3章 情報の価値?
「価値ある情報」をどう表現する?
期待値
情報エントロピー
ここの情報が持つ大きさ:情報量
情報が出現する確率
情報エントロピーと通信容量
アルファベットの記号が出現する確率
第4章 通信料を減らす? : 情報符号化定理
符号化と情報量
複合可能 一意符号可能と瞬時符号
平均符号長
情報源符号化定理といろいろな符号化法
シャノン・ファノ符号化法
ハフマン符号化法
情報源符号化定理についてのまとめ
第5章 伝言ゲームでは困る 誤りを減らす
5-1 通信路はどれくらいの処理スピードを持つのか
通信路と相互情報量
相互情報量とデータマイニング
どれくらいの処理スピードを持つか 通信路容量
相互情報量が通信路の評価基準となるわけ
相互情報量の計算の方法
通信路容量
5-2 誤りを減らすためにはどうしたら良いか
通信路符号化定理
通信路を符号化すること
通信路符号化定理の真髄
5-3 連続した情報を扱う 標本定理
波を周波数で捉えるか?時間で捉えるか?
標本化定理
何故2倍以上必要か?
連続量へ応用
シャノンの情報理論のエッセンス
第6章 情報科学の歴史の中情報理論
情報科学の中の情報理論
コンピュータ史
チューリングとシャノン
チューリングマシンと計算可能性
チューリング・マシンから フォン・ノイマン型コンピュータへ
最初のコンピュータ」は?
コンピュータの万能性
シャノンの情報理論の応用
あとがき
コメント
[…] 天才シャノンのひらめき シャノンによるプール代数の回路による実現 A Symbolic Analysis of Relay and Switching Circuits […]
[…] 絵画は言葉にならない情報を伝達するのに適したメディアだと思う。単純に画像特徴量が持つシャノンの情報理論的な情報量を考えると、白黒の絵画一枚ではせいぜい数百Mバイト程度となるが、それらが持つ抽象的な意味の世界まで解釈を広げると無限大の情報量となるだろう。 […]
[…] シャノンの情報理論の概要と参考図書 […]