レーザー方式による核融合の実現

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核融合のもう一つのアプローチであるレーザー核融合方式

核融合とAI技術“で述べている核融合技術は次世代の発電技術として注目を集め、様々な研究が行われている。前述のブログでは発電の為の点火プロセスとして、主にトカマク構造のプラズマ閉じ込め技術について述べた。

核融合研究より

ここではもう一つの点火方法であるレーザーや粒子線を燃料球に照射する慣性方式について述べたいと思う。慣性方式は別名レーザー核融合と呼ばれる。

レーザー核融合方式は、核融合燃料として、重水素(デュテリウム, )と三重水素(トリチウム, )を含む直径数ミリ程度の小さな球形のペレットを使用し、そこに高出力のレーザー光をペレット表面に照射、それによりペレットの表面がプラズマ化されて爆発的に膨張、その反作用でペレット内部が急激に圧縮し、中心部分に高温(数千万度)高圧(数百気圧)状態を作り出し核融合が開始するという原理となる。

レーザー方式の核融合はどこまで進んでいるか

この方式は、磁場閉じ込めの方式と比較して、炉の構造が単純に出来、設備を高真空にする必要もなく、燃料のサイズも小さく済むため設備を小型化できる。また、爆縮の頻度を変えることで電力を変動させることができるなどの利点を持つ。

一方で様々な課題が存在し、点火で実現することが難しく「実用まで永遠の30年」と揶揄される技術でもあった。

これに対して、2021年にアメリカのローレンス・リバモア国立研究所が、重水素とトリチウムでできた燃料ペレットに192本のレーザーを集中させて核融合反応を起こし、約2メガジュールの入力パワーに対して、3.15メガジュールの出力(差分で1.15メガジュール)を初めて得ることに成功した。このエネルギーはやかん10個ほどの水を沸騰させるエネルギーに相当するなど微々たるエネルギーではあるが、実験室内で点火の『存在証明』ができたとして画期的な報告となった。

Phys. Rev. Lett. 129, 075001 (2022) – Lawson Criterion for Ignition Exceeded in an Inertial Fusion Experiment
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.075001

Phys. Rev. E 106, 025201 (2022) – Design of an inertial fusion experiment exceeding the Lawson criterion for ignition
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.106.025201

Phys. Rev. E 106, 025202 (2022) – Experimental achievement and signatures of ignition at the National Ignition Facility
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.106.025202

Three peer-reviewed papers highlight scientific results of National Ignition Facility record yield shot | Lawrence Livermore National Laboratory
https://www.llnl.gov/news/three-peer-reviewed-papers-highlight-scientific-results-national-ignition-facility-record

この高音高圧を一度に作る従来の中央点火方式(Central Ignition)に対して、大阪大学のLFEX(Laser for Fast Ignition Experiments)を使った研究チームは、ペレットの圧縮と点火のプロセスを分離することで、より効率的に高エネルギー密度を達成する方法を提案している。

この方法は、一旦ペレットにレーザーを当て蒸発した外殻が反作用によってペレットの中心部を圧縮する状態を作った後(この時の目的はペレットの密度を上げることが主目的で、点火に必要な高温条件は達成されていない)、追加の高エネルギーをペレットの中心に当て点火させるというもので、中央点火方式が圧縮のみで自然発火させるディーゼルエンジンに例えられるのに対して、圧縮した後に点火プラグで点火するガソリンエンジンに例えられるものとなる。

大阪大学の報告では1000万度までの加熱を、ニュートリノの観測を実現させたカミオカンデを構成している光電子増倍管を作成した浜松ホトニクス製のレーザーダイオードと、レーザー媒質として神島化学工業のYAGセラミック結晶を組み合わせて実現している。

特に神島化学工業のYAGセラミック結晶は、核融合を実現させる耐熱性と高い熱伝導性に加え、独自の透明化技術を持ったものとして近年大きく話題となっている

核融合発電は化石燃料ではなく水素を燃料とし、排出されるのも温室効果ガスや放射性廃棄物ではなく工業分野で利用価値が高いヘリウムとなる環境にやさしい夢のエネルギーであり、そんな核融合発電の実現にこの数年の間に大きく進歩したことになる。

参考図書

レーザー核融合技術についての参考図書を以下に述べる。

1. basic theory and background
– ‘An Introduction to Inertial Confinement Fusion

– ‘Plasma Physics and Fusion Energy’ by Jeffrey P. Freidberg

2. aspects of laser technology.
– ‘High-Power Laser-Plasma Interaction’ by C. S. Liu and V. K. Tripathi

– ‘Fundamentals of Photonics’ by Bahaa E. A. Saleh and Malvin Carl Teich

3. experimentation and applications
– ‘Laser-Plasma Interactions and Applications’ edited by Paul McKenna, Dmitri Batani, and Lucca Lancia

– ‘Fusion: Science, Policy, and Politics’ by Robin Herman

4. professional resources
– ‘Introduction to Inertial Confinement Fusion’ by Susanne Pfalzner

– ‘Progress in Inertial Fusion Energy’ edited by Mitsuru Kikuchi and Kenro Miyamoto.

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