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経済と経済学
<経済とは>
経済とは、財やサービスの生産、分配、消費の仕組みや状態を指し、人々や企業、政府が、限られた資源を使ってどのように物を生産し、分配し、消費しているかを表すものとなる。経済の概念には、生活や企業活動のほか、国家の富や成長、失業率やインフレーションなどのさまざまな側面が含まれ、例えば、日本経済、世界経済、地域経済などと使われ、個人や組織、国際的な規模での経済活動の総称として扱われる。
<経済学とは>
経済学は、経済の働きを理解し、解明しようとする学問分野で、経済学者は、経済活動の仕組みや傾向を分析し、理論やモデルを使って現象を説明する。経済学は大きくミクロ経済学(個人や企業の行動)とマクロ経済学(国全体や世界経済の流れ)に分けられ、ミクロ経済学は需要と供給、価格形成、消費者行動など、個別の市場や消費者に関する理論を扱い、マクロ経済学は経済成長、失業率、インフレーション、財政政策や金融政策など、国全体の経済指標や現象を分析する。
経済学は単に理論を学ぶだけでなく、実社会の問題を解決するための手段でもあり、経済学の理論を基に、政策立案者はより良い経済政策を設計し、社会の福祉を向上させるための方法を模索することができる。
「経済」は活動そのものや現象を指し、「経済学」はそれを研究し、理解し、改善しようとする学問分野ということができる。
若い読者のための経済学史 – 第一章 冷静な頭脳と温かい心
イェール大学出版の『若い読者のための経済学史: A Little History of Economics』は、若い読者を対象に経済学の歴史を分かりやすく紹介する書籍で、古代から現代に至るまでの経済学の主要な思想や出来事をわかりやすい言葉で解説し、アダム・スミスやカール・マルクスなどの経済思想家も取り上げたものとなっている。今回は、この図書から述べ始めたい思う。
第一章”冷静な頭脳と温かい心”では、経済学とは「社会が資源をいかに使うかを研究する」ものであると述べている。ここでの資源は、パンや靴といった有用なもの(経済学では”財”と定義されている)や、土地や石炭、人や機械などを指す。
また,西アフリカの貧困国ブルキナファソで、若者の半数以上、女子の3分の2以上が次を読めず、算数や国語を学ぶ代わりに、一日がかりで家族が住む小屋に水を運んでいる状況を挙げ、経済学により「ブルキナファソの人々が貧しいのは、彼らのうち少なくとも一部の人が怠け者だからである」という考えが全くの間違いであるということについて、ブルキナファソの人は懸命に働いているが、モノの生産に向かない経済下に生まれたために貧しいのである、という理由を明らかにするとしている。
このように、経済学は、無味乾燥で退屈な統計や数学ではなく、”どうすれば人々が生きながらえ、健康でいられ、教育を受けられるのか”、”幸せで満たされた生活を送るために必要なものを、いかにすれば手に入れることができるのか”、”それらを手に入れられない人がいるのはなぜか”などについての問題を解決するものとも述べられている。
この本では、経済学が対象とする資源は”数が限られている有限なもの”であり、それを手に入れるためには”費用(コスト)”がかかる。このコストは、単にそれを得るために使ったお金だけではなく、数が限られた資源をえたために逃した選択肢”機会費用(oppotunity cost)”であると述べられ、何を選択するのが正しいのか、どうすればよかったのかを考え説明することも、経済学の役割の一つであると述べられている。
この説明のアプローチには、科学的な法則を見つけようとする”実証経済学”、それが良いか悪いかについて述べる”規範的経済学”など様々なものがあり、本書では時代的な推移を入れた37章に分けてそれらのアプローチに関して述べられている。
現実世界における経済学 – マーケットデザイン
37章現実世界における経済学ではマーケットデザインに関して述べられている。マーケットデザインは、効率的で公平な取引を実現するために市場の構造やルールを設計する学問分野で、経済学の理論に基づきながら、実際の市場での需要と供給のマッチングや取引の仕組みを最適化し、資源の効率的な配分を目指すものとなっている。
これは、それまで売られたことがなく、どれだけの価値があるのかを誰も知らないものに対して、どのような交換の場を提供するかというものとなる。
これらの具体的な例としては、周波数オークション(携帯通信事業者が使用する電波周波数の割り当て)やオンライン広告の入札システムなどの競争的な価格形成を通じて、資源を効率的に分配する方法であるオークション、医療分野での「レジデント・マッチング」(医師と病院のマッチング)や、教育分野での「スクール・チョイス」(生徒と学校のマッチング)、シェアリングエコノミーの分野(Uber、Airbnbなど)での、利用者と提供者が効率よく取引できるためのプラットフォーム設計、オンライン広告市場など、デジタル時代において新たな市場を構築するための基盤としても重要視されたものとなっている。
マーケットデザインとアルゴリズム
このようなマーケットデザインは、アルゴリズム、ゲーム理論、経済学などの学際的な知識と統合されており、特にアルゴリズムと密接に関係している。マーケットデザインでは、効率的で公平な市場の設計が求められ、その際に複雑な問題を解決するためにアルゴリズムが不可欠で、それらはコンピューターを用いた計算処理に依存する。
以下に、マーケットデザインとアルゴリズムの関わりの例について述べる。
1. オークションと入札アルゴリズム: マーケットデザインの重要な応用分野として「オークション」がある。オークションでは、出品者と入札者の双方にとって最適な結果を得るために、入札戦略と価格設定を最適化するアルゴリズムが活用され、たとえば、GoogleやFacebookの広告オークションでは、膨大な広告枠と多数の入札者に対して、適切な入札価格を計算し、広告の表示順位を決定するアルゴリズムが設計されている。これには、”探索アルゴリズムの概要と各種アルゴリズムおよび実装“で述べている探索アルゴリズムや”マルチアームドバンディット問題の概要と適用アルゴリズム及び実装例について“で述べている多腕バンディット問題のアルゴリズムが用いられている。
2. マッチングアルゴリズム: マーケットデザインで用いられるマッチングアルゴリズムは、需要側と供給側の効率的なマッチングを行うための方法となる。たとえば、病院と医学生のマッチングや、企業と求職者のマッチングなどで活用されており、有名なアルゴリズムとしては、”安定結婚問題アルゴリズムの概要と適用例及び実装例“で述べている「安定結婚問題」を解くためのゲイル=シャプレー・アルゴリズムがある。これにより、双方が最も満足するマッチングが可能となり、システム全体の効用が最大化される。
3. 価格最適化と動的価格設定: シェアリングエコノミーやオンラインマーケットプレイスでは、価格が需要と供給のバランスを取るために動的に変動する。たとえば、UberやAirbnbでは、利用者が多い時間帯や特定の地域で価格を上げる”サージ・プライシングに用いられる機械学習やアルゴリズムと実装例“でも述べている「サージ・プライシング」が導入されている。これを実現するために、機械学習や最適化アルゴリズムが使われ、リアルタイムで価格を調整して需要に応じた適正な価格を計算します。
4. 推薦システムとパーソナライゼーション: AmazonやNetflixなどのプラットフォームでは、”推薦技術“でも述べているユーザーの好みや購買傾向に応じた商品やサービスを推薦するアルゴリズムが市場設計に重要な役割を果たしている。これにより、ユーザーは関連性の高い商品を簡単に見つけることができ、企業は売上向上を図ることができ、推薦システムには、協調フィルタリングやディープラーニングのアルゴリズムが活用されている。
5. 最適化と公平性のためのアルゴリズム: マーケットデザインでは、市場が効率的かつ公平に機能するような最適化アルゴリズムも重要となる。たとえば、配分の公平性や利益の最適化のために、”ケリー基準や公平性を考慮した最適化アルゴリズムの概要と実装例及び適用事例“でも述べているケリー基準や公平性を考慮した最適化アルゴリズムが使用される場合がある。こうしたアルゴリズムにより、ある特定の集団や地域が不当に不利にならないようにし、経済的な不平等を緩和する工夫が施されている。
6. ブロックチェーンと分散型市場: 最近では、”有向非巡回グラフの適用事例と実装例およびブロックチェーン技術について“等で述べているブロックチェーン技術によって構築される分散型市場において、スマートコントラクトが市場設計に使用されている。これにより、第三者の介在なしに安全で信頼性のある取引が実現され、取引の透明性が保たれる。スマートコントラクトのアルゴリズムは、取引条件をプログラムにより実行し、契約の自動化と改ざん防止を可能にしている。
マーケットデザインにおけるアルゴリズムの役割は、単に効率を高めるだけでなく、参加者が安心して公平な取引を行えるよう市場の構造を整えることにある。アルゴリズムによって、多様な参加者のニーズや条件を反映し、理想的な市場を創出することが目指されている。
参考図書
マーケットデザインにおけるアルゴリズムに関する参考図書について述べる。
1. “Market Design: A Linear Programming Approach”
– 著者: Paul Klemperer
– 内容: マーケットデザインにおける線形計画法の応用について説明しており、オークションや競争市場の設計に関連するアルゴリズムが紹介されていね。
2. “Algorithmic Game Theory”
– 著者: Tim Roughgarden
– 内容: ゲーム理論とアルゴリズムの交差点を探求し、マーケットデザインにおける戦略的行動とその影響を解説している。特に、オークションやリソースの配分に関する章がある。
3. “Market Design: Theory and Applications”
– 著者: David Gale, Shmuel Kariv
– 内容: マーケットデザインの理論的基礎と、その応用に関する多様なトピックを扱っており、特にアルゴリズムに焦点を当てている。
4. “Algorithms”
– 著者: Sedgewik Robert, Wayne Kevin
– 内容: アルゴリズム一般の参考図書。
5. “Mechanism Design: A Linear Programming Approach”
– 著者: Kevin Leyton-Brown, Yoav Shoham
– 内容: 機構設計の基本原理と、マーケットデザインにおけるアルゴリズムの重要性について述べている。特に、効率的なリソース配分とインセンティブ設計に関する理論的背景がある。
6. “The Handbook of Market Design”
– 編集者: Nirvikar Singh, David C. Parkes
– 内容: マーケットデザインの全体像を網羅的に扱ったハンドブックで、様々なアルゴリズムや実践例についての章がある。
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