読書の秋と文学史

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読書の秋と文学史

イェール大学の若い読者のための文学史』(A Little History of Literature)は、イギリスの作家であり、文学者であるジョン・サザーランド(John Sutherland)によって書かれた本で、

文学に興味を持ち始めた若い読者や文学の初心者を対象に、文学の歴史や主要な作家、作品について分かりやすく紹介したものとなる。

この本の特徴は、文学史を複雑な学術的な言葉で説明するのではなく、親しみやすい語り口で展開し、古代から現代までの文学を簡潔に説明、各時代の代表的な作家や作品を紹介しつつ、文学がどのように発展し、社会や文化に影響を与えてきたかを説明したものとなる。

文学とは、人間の経験や感情、思想を言葉を通じて表現する芸術の一つであり、詩、小説、戯曲、エッセイなど、さまざまな形で書かれた作品が含まれるものとなる。

サザーランドは、文学とは、私たちを取り囲む世界を表現し解釈する最高の人知であり、最高の文学は決して物語を単純化せず、複雑な世界を受け入れられるように、心と感受性を広げてくれると述べている。そして、文学を読むことで、さらに人間らしくなり、じょうずに読めれば読めるほど、より多くの恩恵が得られるとも述べている。

今回は、この本からピックアップした話題について述べたいと思う。

Chapter2 すてきなはじまり-神話

この本の2章では、文学の始まりとして神話を取り上げている。神話とは、古代の人々が自然現象や世界の成り立ち、人間の起源などについて説明するために語り伝えてきた物語のことで、日本では”街道をゆく – 葛城みち“等で述べている古事記などがあり、西洋ではゼウスやヘラクレスなどが現れるギリシャ神話や、オーディンやトールが現れる北欧神話、またアジアではオシリスやラーが現れるエジプト神話などがある。

サザーランドは、この神話が作られる原因として、「私たちは精神的な形やパターンを周囲のさまざまなものから本能的に形成する — 赤ん坊は何もかもが一斉に咲き誇るような、めりるめく混沌のなかに生まれ落ちる。人間は、そうした恐ろしいまでの混沌とおりあいをつけなければならず、神話は世界を理解する一助となる。— 本質的な神話の働きは、あるパターンをみつけることで物事がわかりやすくなるから、実際に存在しないパターンを作り出す(そのほうが覚えやすい) — 神話(物語)により意味がないと感じられる人生に意味を加える。」などと述べている。

これは”情報としての生命 – 目的と意味“で「生体が、組織化された複雑なシステムとして効果的に機能するためには、自分達が住む外の世界と身体の内側世界との、両方の状態について、情報を絶えず集めて利用する必要がある。内側と外側の世界は変化するから、生命体にはその変化を検出して反応する方法が必要となる。そうでなければ、あまり長生きできないだろう」と述べているように、生物が生きていくために必要な情報への依存と、それを利用して特定の目的を達成するために、情報のパターンを作り出し、そこに意味を付与していく行為にあたるものと考えることができる。

Chapter40 文学とあなたの人生 – そしてその向こう

本書の最終章では、500年以上続く、紙とインクで出来上がった印刷された本が、近年では電子書籍となり大幅に進化し、さらにその先に文学がどのようになるのかについて述べられている。

この問いに対して、サザーランドは、未来ではこれまでと違った方法(オーディオ、ビジュアル、ヴァーチャル等)で多くの文学が読めるようになりさらに、ファンフィクションのような非常にパーソナルな文学がインターネットの恩恵を受けて消費されるようになると述べている。

特に最後のものは、最終的には定まった形を持たず、その時の環境に合わせて水のように形が変わっていく、大勢の会話によって生み出された商品でもプロの作品でもないものが生み出されていると述べている。言語は元来変化するものであり、この流れは文学がそもそも持っていた流動性を復活させる動きで、これが作り手と読み手の一体感を取り戻すための大きな変化になるのではないかともサザーランドは述べている。

この本では、読者が大量の情報に押しつぶされて、それを知識に変換できなくなる危険性は、人間の精神のすばらしい想像力により克服され、文学による思考の交わりは、より強く、より密に、より活発になるであろうという希望が終わりの言葉となっている。

本を読むことで、想像力を育み過ごす秋の夜を過ごすことも実りの多い人生の1ページとなるのではないだろうか。

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