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日本の武道
“神無月と神有月と日本の神“でも述べている神道をはじめ、日本には様々な「○○道」がある。その中でも古代の戦士の技を起源とする武道には様々なものがある。武道は、身体を鍛えることや技術の習得だけでなく、精神的な鍛錬も含まれるもので、日本の代表的な武道としては、以下のようなものがある。
1.柔道:相手の力を利用して投げ倒す技術を中心とした武道。嘉納治五郎によって創始され、現在は世界中で広く行われている。
2.剣道:竹刀と防具を使い、相手の心を制する技術を中心とした武道。日本古来の武器である刀剣を基礎とし、現在は世界中で競技として行われている。
3.居合道:刀を抜いた状態から攻撃する技術を中心とした武道。江戸時代に剣術や刀術の一部として発展し、現在では独立した武道として練習されている。
4.空手道:手足を使った打撃技を中心とした武道。沖縄の伝統的な格闘技を基礎とし、現在は世界中で広く行われている。
5.合気道:相手の攻撃を受け止め、その力を利用して投げたり、制御したりする技術を中心とした武道。横山道場の創始者である横山秀夫によって創始され、現在は世界中で広く行われている。
このような武道の中には、現在の競技には現れなかったり、特殊で難易度の高い技などの、いわゆる「幻の技」や「失われた技」が存在している。今回はこれらの幻の技について述べたいと思う。
武道の幻の技
<柔道>
1. 山嵐(やまあらし): 山嵐は、嘉納治五郎の直弟子であり、昭和初期の名選手である三船久蔵が得意とした投げ技で、通常の投げ技と異なり、相手を一方の手で肩から押し、もう一方の手で足を払いながら倒す非常に独特な技となる。この技は力強さとスピードが求められ、形や技のタイミングが非常に難しいため、非常に熟練した選手でなければ習得が難しいと言われている。
2. 隅落(すみおとし): 隅落は投げ技の一種で、相手の体を引き込んで後ろに崩し、体の隅の方に落としながら倒す技で、足技として分類されることもあるが、通常の足払いとは異なり、重心移動とタイミングの駆け引きが重要な技となっている。
3. 空気投げ(くうきなげ): 空気投げは相手に直接触れることなく、気合や間合いの取り方で相手のバランスを崩して倒す技として伝えられている。空手や合気道にも似た技法が存在するが、柔道の中では三船久蔵が「空気投げ」を披露したとされている。この技は、相手の動きを完全に読み切り、呼吸を合わせることで自然に相手が崩れ、倒れていくと言われている。
<剣道>
1. 霞剣(かすみけん): 相手に刃の動きを読ませないため、曖昧な動きの中に攻撃を隠す技。攻撃の意図を悟らせないのが特徴。
2. 燕返し(つばめがえし): 一撃を繰り出しつつ、瞬時に二撃目を重ねる技。相手が一撃目を防いだ瞬間に二撃目が命中するため、「幻の技」と称されている。宮本武蔵と巌流島で対決した佐々木小次郎が得意としていた技。
3. 影抜き(かげぬき): 江戸時代の実戦剣術で用いられた技法で、相手に影を抜かせるようにして斬撃を避ける技。素早い足捌きで相手の斬撃をかわし、反撃の機会を作り出し、影のように身を動かすため「影抜き」と呼ばれる。
<合気道>
1. 空気投げ(くうきなげ): 相手を触れずに空気のように流れるように投げる技で、相手の力を完全に利用するため、こちらの力はほとんど使わない。相手が攻撃してくる瞬間、わずかに間合いを外して相手の力を逃がすことで、相手が自ら崩れるように誘導してかける。
2. 無念無想(むねんむそう)の技:「無念無想」とは、意識を完全に空にし、考えなしに反応することで、相手の動きに対して無意識に対応し、相手の攻撃を流すように受け流して投げる技。事前に技を考えず、相手の動きに即応して自然と技が出るようにする高度な技法。
3. 影の技(かげのわざ): 自分の存在感を消し、影のように相手に近づいて技をかける技法。影のように気配を悟らせないため、相手の注意を別の方向に引きながら技をかけることが求められる。相手の後方や側面に素早く入り込み、相手が反応できない角度や方向から投げることで、突然の崩しを生み出す。
幻の技に共通するもの
これらの幻の技には、以下に示すような共通する特徴があり、それは高度な武道や身体操作技術の本質を示している。
1. 精神的な集中と統一: 幻の技には、強い精神集中や統一が不可欠で、特に合気道のような「気」を重視する武道では、心が乱れると技も乱れる。これらの技では、相手の動きや気配を感じ取るために精神を静め、不動心(動じない心)で対峙する必要がある。
2. 呼吸の重要性: 呼吸を合わせることが多くの幻の技に共通している。”呼吸について(禅と認知活動とスポーツとの関係)“でも述べているように呼吸は単に身体の動きと連携するだけでなく、相手の呼吸のリズムに合わせたり、タイミングを見極めたりする要素でもあり、呼吸が技のタイミングや力の流れに深く関わっているため、「呼吸力」が求められる。
3. 力に頼らない技術: 幻の技は「力を使わずに相手を制する」ことが基本。相手の力や勢い、バランスを巧みに利用するため、自分の力で押し返すのではなく、あくまで「相手の力を活かす」ように動く。これにより、見た目以上に少ない力で大きな効果を生み出す。
4. 相手との一体感と「気」の融合: 相手と一体となり、互いの「気」を融合させるような動きが重要視される。これによって相手の動きを先読みし、自然に技を繰り出すことが可能になり、この一体感を持つことで、触れずとも相手を崩したり、流れるように技を掛けたりすることができるようになる。
5. 間合い(距離感)の完璧な把握: 幻の技には、相手との絶妙な間合いを保つことが必要となる。間合いを適切に保ち、攻撃を受け流すためには、相手の攻撃や意図を読む観察力と、瞬時の反応が求められる。間合いが正確であるほど、自分にかかる負担が少なく、技がスムーズに決まる。
6. 高度な身体操作と体さばき: 力に頼らない一方で、自分の身体を巧みに使うことが求められる。自分の重心を意識し、相手の力に合わせて最適な位置に移動する体さばきは幻の技の核心で、これにより、力を入れずに自然に相手の重心を崩すことができるようになる。
7. 無意識の動き(無念無想): 多くの幻の技は、意識的に動くのではなく「無念無想」の状態、つまり無意識に技が出る状態で発動する。これには長年の鍛錬が必要で、体が反射的に動くように訓練された達人だけが無意識に発揮できる。
幻の技は、技術だけでなく心身の鍛錬、精神的な集中と呼吸、そして相手との一体感が重要で、これらの要素は、単に戦いの技術としてだけでなく、武道の精神性や奥深さを体現していルものと言える。武道の熟達者が一歩一歩積み上げて到達する境地が「幻の技」であということができる。
参考図書
「幻の技」や武道に関する高度な技術、精神的な側面についての参考図書について述べる。
1. 『合気道』
2. 『武道極意』
7. 『武士道』
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