WoTの具体的な実装例について

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WoT(Web of Things)技術について“でWoTの概要について述べた。今回はそれらの具体的な実装について述べてみたいと思う。まずはWoTの概要と適用事例のおさらいから。

WoTの概要

WoT(Web of Things)は、インターネット上のさまざまなデバイスを相互に接続し、デバイス間の通信や相互作用を可能にするための標準化されたアーキテクチャとプロトコルとなる。WoTは、IoT(Internet of Things)を拡張し、デバイスとのやり取りを簡素化し、相互運用性を高めることを目的としている。

WoTの主な特徴と利点は以下のようになる。

  • 標準化されたインターフェース: WoTは、デバイスの機能や属性、メソッド、イベントなどを記述するための共通のメタデータフォーマットである「Thing Description(TD)」を提供している。TDにより、異なるデバイス間で共通のインターフェースを定義することが可能となる。
  • 相互運用性: WoTは異なるベンダーが提供するデバイスやサービスを統一的に扱うことができる。TDによってデバイスの機能や特性が明示されるため、異なるプラットフォームやプロトコル間での相互運用性が向上する。
  • シームレスなデバイス間通信: WoTは、デバイス間の通信を簡素化する。WoTを実装したデバイスは、HTTP、CoAP、MQTTなどの標準的なプロトコルを使用して、他のデバイスやアプリケーションと直接通信することができる。
  • クラウドとの連携: WoTは、クラウドベースのサービスやアプリケーションとの連携も容易にし、クラウド上のアプリケーションとデータのやり取りを行うことができる。
  • セキュリティとプライバシー: WoTは、セキュリティとプライバシーの観点からも設計されている。これらの中には、認証、権限管理、データの暗号化などのセキュリティ機能が組み込まれており、デバイスとの通信を安全に行うことを可能とする。
WoTの適用事例

WoTは、以下に示すようなさまざまな領域で広範な適用事例がある。

  • スマートホーム: WoTを使用して、スマートホームデバイスを統合し、制御することができる。例えば、照明、温度制御、セキュリティシステム、エネルギー管理などのデバイスをWoTで接続し、統一的なインターフェースを提供することが可能となる。
  • スマートシティ: WoTを使用して、スマートシティのインフラストラクチャやサービスを統合することができる。具体的な例としては、公共交通システム、駐車場管理、ゴミ収集、照明制御などのデバイスやサービスをWoTで接続し、データの収集や効率的な運営を行うようなものがある。
  • 産業用制御: WoTを使用して、産業用制御システムを統合し、モニタリングや制御を行うことができる。具体例としては、製造プロセスの監視、機械の制御、センサーデータの収集などがある。
  • 農業: WoTを使用して、農業のプロセスや機器を統合し、農作物の管理や効率化を行うことができる。具体例としては、土壌センサー、水やりシステム、温室制御などのデバイスをWoTで接続し、農業生産の最適化を図るようなものがある。
  • ヘルスケア: WoTを使用して、ヘルスケアデバイスやシステムを統合し、医療や健康管理をサポートすることが可能となる。具体例としては、モニタリングデバイス、医療機器、パーソナルウェアラブルなどをWoTで接続し、リアルタイムのデータ収集や遠隔ヘルスケアを実現するようなものがある。
WoTと人工知能技術の組み合わせ

WoTと人工知能(AI)技術を組み合わせることで、より高度なスマートシステムやインテリジェントなデバイスを実現することができる。以下に、その組み合わせによる具体的な事例について述べる。

  • スマートホームの自己学習: WoTを使用して接続されたスマートホームデバイスにAI技術を組み込むことで、デバイスが環境や利用者の行動を学習し、最適な設定や快適性を提供することが可能となる。これは具体的には、照明や温度制御システムが利用者の嗜好や習慣を学習し、自動的に最適な環境を提供するようなものとなる。
  • スマートシティのデータ分析: WoTで接続されたスマートシティデバイスから収集された大量のデータをAI技術を用いて分析することで、交通流量の最適化、エネルギー消費の最適化、都市計画の改善などを実現することができる。AIアルゴリズムはデータのパターンや傾向を抽出し、より効率的な意思決定や予測をサポートする。
  • 産業用制御の最適化: WoTデバイスとAI技術を組み合わせることで、産業用制御システムの最適化や予知保全が可能になる。センサーデータのリアルタイムなモニタリングとAIアルゴリズムによる解析により、異常検知や故障予測、生産効率の最適化などを実現することが可能となる。
  • ヘルスケアのパーソナライズ: WoTデバイスとAI技術を組み合わせることで、個別の健康管理や医療サービスのパーソナライズが可能になる。パーソナルウェアラブルデバイスや医療センサーから得られたデータをAIアルゴリズムが解析し、健康状態のモニタリングや予測、個別の治療計画の提案などを行うことができるようになる。

このように、WoTとAI技術の組み合わせは、よりスマートでインテリジェントなシステムやデバイスを実現するための有力な手段となり、これらのデバイス間の相互運用性とAIのデータ解析や意思決定能力を組み合わせることで、より高度な自動化や最適化が可能になる。

次にこれらのWoTを実装する手順について述べる。

WoTの実装手順

WoTは、インターネット上のさまざまなデバイスを接続し、相互にやり取りするための標準化されたプロトコルとアーキテクチャとなる。以下にそれらを実装する手順について述べる。

  1. デバイスの準備: WoTを実装するデバイスを選択する。これは、センサー、アクチュエータ、マイクロコントローラ、または他の組み込みシステムである場合がある。デバイスがWoTをサポートしているか確認し、必要なソフトウェアやハードウェアの要件を満たしていることを確認する。
  2. WoTプロトコルの選択: WoTを実装するためには、WoTの標準化されたプロトコルを選択する必要がある。一般的には、WoT Thing Description(TD)と呼ばれるJSON-LD形式のメタデータフォーマットが使用される。また、WoT実装には、HTTP、CoAP、MQTTなどのさまざまなプロトコルが利用できる。
  3. Thing Description(TD)の作成: デバイスの機能、属性、メソッド、イベントなどの情報を記述するために、Thing Description(TD)を作成する。TDは、デバイスの機能を記述するメタデータであり、デバイスをWoTフレームワークに公開するための重要な要素となる。
  4. WoTサーバーの構築または利用: WoTデバイスを制御するためのWoTサーバーを構築するか、既存のWoTサーバーを利用する。WoTサーバーは、デバイスが接続され、WoTアプリケーションと対話するためのインターフェースを提供する。
  5. WoTアプリケーションの開発: WoTデバイスと対話するためのクライアントアプリケーションを開発する。アプリケーションは、TDを使用してデバイスの機能を検索し、アクセスすることができる。
  6. デバイスの接続と相互作用: WoTデバイスをWoTサーバーに接続し、デバイスのTDを公開する。WoTアプリケーションは、TDを使用してデバイスの機能にアクセスし、デバイスとの相互作用を行う。
WoTに利用することができるライブラリやプラットフォームについて

WoTを実装するために利用できるさまざまなライブラリやプラットフォームがある。以下にそれらの中からいくつかの一般的な選択肢について述べる。

  • Thing Description(TD): WoTの中核となる仕様であるThing Descriptionは、デバイスやサービスの機能、インターフェース、プロパティなどのメタデータを記述するものとなる。これらThing Descriptionを作成・解析するためのライブラリやツールがW3C等より提供されている。
  • Node-WoT: Node-WoTは、WoTアプリケーションを構築するためのJavaScriptライブラリとなる。Node.js上で動作し、WoTの機能を実装・操作するためのメソッドやAPIを提供している。
  • Eclipse Thingweb: Eclipse Thingwebは、WoTプラットフォームの一つで、WoTアプリケーションを開発するためのフレームワークやツールを提供している。これは、Thing Descriptionの解析や生成、WoTサーバーの構築などをサポートしている。
  • Wakaama : Wakaama(ワカーマ)は、Eclipse Foundationが提供するオープンソースのライブラリであり、Constrained Application Protocol (CoAP) ベースのWoT(Web of Things)アプリケーションを開発するために使用されるものとなる。
  • Thingsboard: Thingsboardは、オープンソースのIoTプラットフォームであり、WoTの機能を実装・管理するためのツールや機能を提供するものとなる。この中には、デバイスの接続、データの収集・可視化、ルールエンジンなどが含まれている。
  • FIWARE: FIWAREは、オープンソースのプラットフォームで、IoTやスマートシティなどのアプリケーション開発をサポートするものとなる。FIWAREを使用することで、WoTのデバイスやサービスを統合・管理するためのツールやコンポーネントが利用できる。
  • Webthing GateWay: Web Thing Gatewayは、WoTデバイスやサービスを統合・制御するためのプラットフォームであり、Mozillaが開発したオープンソースのプロジェクトであり、Webブラウザを介してWoTデバイスの管理や操作を行うことができるものとなる。
  • pywot : MozillaのThings Gatewayと提携しているwebthingモジュールは、Web of Things(WoT)APIを実装したPython 3モジュールとなり、PythonモジュールがWoTプロトコルを介して通信するシステムと会話することを可能にしている。pywotモジュールはwebthingをよりPythonicなインターフェイスでラップしているものとなる。

最後に、具体的な実装例について述べる。

WoTのpythonによる基本的な実装例

WoTのPythonによる実装例として、下記のステップを通じてシンプルなWoTデバイスを作成する方法について述べる。

  1. 必要なライブラリのインストール: PythonでWoTデバイスを実装するためには、pywotライブラリをインストールする。
    • pywot: WoT APIを提供するPythonライブラリ
  2. WoTデバイスの作成: Pythonスクリプトを作成し、WoTデバイスを定義する。以下は、簡単な例となる。
from pywot import WoT, Thing

# WoTデバイスの定義
thing = Thing()
thing.add_property("temperature", 25.0)

# WoTデバイスのエクスポート
wot = WoT()
wot.add_device("my-device", thing)

上記の例では、”temperature”というプロパティを持つWoTデバイスを作成している。

  1. WoTサーバーの起動: WoTデバイスを提供するために、WoTサーバーを起動する。以下は、簡単な例となる。
# WoTサーバーの起動
wot.start()

これにより、WoTサーバーが起動し、作成したWoTデバイスが提供される。

  1. WoTデバイスへのアクセス: 他のクライアントやアプリケーションからWoTデバイスにアクセスするために、WoT APIを使用する。以下は、簡単な例となる。
from pywot import WoT

# WoTクライアントの作成
wot = WoT()

# WoTデバイスへのアクセス
my_device = wot.get_thing("my-device")
print(my_device.properties["temperature"].get())

上記の例では、WoTクライアントを作成し、”my-device”という名前のWoTデバイスにアクセスして、”temperature”プロパティの値を取得している。

この例では、簡単なプロパティの追加と値の取得のみを示していますが、より複雑な操作や他のWoT機能(メソッド、イベントなど)を追加することも可能となる。

CとWakaamaを用いたWoTの実装例

次に、C言語とWakaamaを使用したWoTの実装例を示す。この例では、Wakaamaを使用して単純な温度センサーデバイスを作成し、CoAPプロトコルを介して温度値を提供している。

まず、Wakaamaのソースコードをダウンロードしてビルドする。

  1. Wakaamaのソースコードをダウンロードする。それらは、GitHubのリポジトリ(https://github.com/eclipse/wakaama)から入手できる。
  2. ダウンロードしたソースコードを展開し、ビルドする。ビルド方法は、WakaamaのREADMEファイルに記載されている。

ビルドが完了したら、次のCコードを使用して温度センサーデバイスを実装する。この例では、温度値をランダムに生成し、CoAPプロトコルを介してクライアントに応答している。

#include 
#include 
#include 

#include "wakaama/liblwm2m.h"
#include "wakaama/network.h"

#define SERVER_URI "coap://localhost:5683"
#define ENDPOINT_NAME "temperature-sensor"

// オブジェクトIDとリソースID
#define TEMP_OBJECT_ID 3303
#define TEMP_SENSOR_ID 5700

// デバイスの情報を設定
static uint16_t deviceId = 1234;
static char* manufacturer = "Example Inc.";
static char* modelNumber = "1.0";
static char* serialNumber = "001";
static char* firmwareVersion = "1.0";
static uint8_t powerSource = 1;

// センサーの温度値を取得
float getTemperature()
{
    // 仮の温度値をランダムに生成(0°Cから40°Cまで)
    float temperature = (rand() % 401) / 10.0;
    return temperature;
}

// オブジェクトのリソース値を設定
static void setTemperature(lwm2m_data_t *data)
{
    float temperature = getTemperature();
    lwm2m_data_encode_float(temperature, data);
}

// オブジェクトのコールバック関数
static uint8_t objectCallback(uint16_t instanceId,
                              int *numDataP,
                              lwm2m_data_t **dataArrayP,
                              lwm2m_object_t *objectP)
{
    uint8_t result = COAP_205_CONTENT;

    if (*numDataP == 0)
    {
        *dataArrayP = lwm2m_data_new(1);
        if (*dataArrayP == NULL)
            return COAP_500_INTERNAL_SERVER_ERROR;
        *numDataP = 1;
        (*dataArrayP)[0].id = TEMP_SENSOR_ID;
    }

    for (int i = 0; i < *numDataP; i++) { switch ((*dataArrayP)[i].id) { case TEMP_SENSOR_ID: setTemperature(&((*dataArrayP)[i])); break; default: result = COAP_404_NOT_FOUND; break; } } return result; } int main(int argc, char* argv[]) { srand(time(NULL)); // サーバーへの接続設定 lwm2m_context_t *lwm2mH = lwm2m_init(NULL); if (lwm2mH == NULL) { fprintf(stderr, "lwm2m_init() failed\n"); return -1; } // サーバーのURIを設定 lwm2m_set_bootstrap_server(lwm2mH, 0, SERVER_URI); // デバイスの情報を設定 lwm2m_security_t security; memset(&security, 0, sizeof(lwm2m_security_t)); security.serverUri = strdup(SERVER_URI); security.bootstrapServer = false; security.securityMode = LWM2M_SECURITY_MODE_NONE; security.publicIdentity = NULL; security.secretKey = NULL; security.publicKey = NULL; security.serverId = 123; lwm2m_add_server(lwm2mH, &security); // デバイスオブジェクトを作成 lwm2m_object_t* deviceObj = lwm2m_object_create(); deviceObj->objID = LWM2M_DEVICE_OBJECT_ID;
    deviceObj->instanceList = lwm2m_list_new(1);
    lwm2m_list_t* instance = lwm2m_list_new(1);
    instance->id = 0;
    deviceObj->instanceList = instance;
    lwm2m_object_instance_t* deviceInstance = lwm2m_object_instance_create(0, deviceObj);
    lwm2m_object_instance_add(deviceObj, deviceInstance);

    // デバイス情報を設定
    lwm2m_device_set_manufacturer(deviceInstance, manufacturer);
    lwm2m_device_set_model_number(deviceInstance, modelNumber);
    lwm2m_device_set_serial_number(deviceInstance, serialNumber);
    lwm2m_device_set_firmware_version(deviceInstance, firmwareVersion);
    lwm2m_device_set_power_source(deviceInstance, powerSource);
    lwm2m_device_set_device_id(deviceInstance, deviceId);

    // センサーオブジェクトを作成
    lwm2m_object_t* tempSensorObj = lwm2m_object_create();
    tempSensorObj->objID = TEMP_OBJECT_ID;
    tempSensorObj->readFunc = objectCallback;
    tempSensorObj->writeFunc = objectCallback;
    lwm2m_object_instance_t* tempSensorInstance = lwm2m_object_instance_create(0, tempSensorObj);
    lwm2m_object_instance_add(tempSensorObj, tempSensorInstance);

    // オブジェクトをコンテキストに追加
    lwm2m_add_object(lwm2mH, deviceObj);
    lwm2m_add_object(lwm2mH, tempSensorObj);

    // メインループ
    while (1)
    {
        lwm2m_step(lwm2mH, 1000);
    }

    // 後処理
    lwm2m_close(lwm2mH);

    return 0;
}

上記のCコードは、Wakaamaを使用して温度センサーデバイスを実装している。getTemperature関数で温度値をランダムに生成し、setTemperature関数でセンサーオブジェクトのリソース値を設定している。objectCallback関数は、オブジェクトのリソース操作に対するコールバック関数となる。

このコードをビルドして実行すると、CoAPプロトコルを介して温度センサーデバイスが提供される。他のWoTクライアントやサービスは、CoAPを使用してデバイスにアクセスし、温度値を取得する。

参考情報と参考図書

WoTに関する情報としては”WoT(Web of Things)技術について“も参照のこと。また、IoT全般に関しては”センサーデータ&IOT技術“、ストリームデータ処理に関しては”データストリームの機械学習とシステムアーキテクチャ“も参照のこと。

参考図書としては、”Managing the Web of Things: Linking the Real World to the Web

Building the Web of Things: With examples in Node.js and Raspberry Pi

Smart Innovation of Web of Things (Internet of Everything“等がある。

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