バイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン電池

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はじめに

寿命は100万kmってマジ? トヨタの新型電池が日本を救う!! 2027年登場バイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン電池って何よ?“より。

「先般のトヨタ新技術発表会で突如として発表されたバイポーラ構造のリン酸鉄リチウム電池。bZ4Xの三元系リチウムイオン電池より2割航続距離を伸ばし、コスト4割減になるという。

現在日本製電気自動車の主流になっているbZ4Xなどに搭載される三元系リチウムイオン電池と比べ、航続距離を20%伸ばせるという。つまり、三元系リチウムイオン電池より20%も大きなエネルギーを貯められるワケ。電池に詳しい人ならわかるとおり、今までリン酸鉄リチウムの弱点は性能の低さだった。」

今回は、近年注目を浴びているこのリン酸鉄リチウムイオン電池について述べみたいと思う。まずは、ベースとなる現在主流のリチウムイオン電池について。

リチウムイオン電池

電池は、内部の物質に電子を放出させ、その電子が正極から負極へ回路を通って流れることで、電気を発生するしくみとなる。高性能な容量の大きい電池は、より多くの電子を蓄えることのできる材料を使用しており、これまでに様々な元素が電池の材料に使用されてきた。その中でリチウム元素は非常に多くの電子を蓄えることができ、非常に有望な電池材料であった。

リチウムイオン電池における特許をめぐる戦いより

リチウムを使用して電池をつくるアイデアは、1960年代からあったが、広く製品化されたのは1990年代からとなる。リチウムイオン電池は、主に電極材料や構造に様々な改良が加えられ、現在主流のものは三次元リチウムイオン電池と呼ばれる電極構造を3次元化した電池となる。

通常の電池では平面状に加工した正極と負極,セパレータを電解質とともに巻き,円筒形または角形の外装缶やラミネート・パッケージに収納する構造となる。

これに対して3次元電池の場合,Si材料などを使って成形した突起物の表面に,正極や負極,固体電解質の層を形成する。突起物は直径が数10μmでアスペクト比が非常に高い。固体電解質を挟んで正極と負極が向かい合う格好となる。

電極構造を3次元化することで単位面積当たりの電極材料の比表面積が増える。これにより電流容量を高め,エネルギー密度が向上するとされている。さらに従来の電池構造に比べて,正極と負極の距離が縮まりイオン拡散速度が高まるため,出力密度の増加も期待できる

既存のリチウムイオン電池の課題

このような三次元リチウムイオン電池は、二次元リチウムイオン電池に比べて利点だけではなく、いくつかの課題も抱えている。以下にそれら主な課題について述べる。

  • 電解液の拡散:三次元リチウムイオン電池では、電極材料が三次元的に配置されている。このため、電解液が均一に電極全体に拡散することが課題となり、十分な電解液の拡散が行われない場合、電池の性能や寿命に影響を及ぼす可能性がある。
  • 電極のボリューム変化:リチウムイオン電池では、充放電時に電極材料がリチウムイオンの挿入・抽出に伴い膨張・収縮する。これにより三次元リチウムイオン電池では、電極材料がより大きなボリューム変化を経験することがある。このボリューム変化は、電極の構造的な安定性や電極材料の寿命に影響を与える。
  • 高い電極間抵抗:三次元リチウムイオン電池では、電極がより複雑な構造を持ち、電極間により多くの界面が存在する。このため、電極間の抵抗が増加し、電池の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。高い電極間抵抗は、充放電効率の低下や発熱の増加などの問題を引き起こす。

このようなリチウムイオン電池の課題を解決し、性能を飛躍的に改善できる電池と言われているものがリン酸鉄リチウムイオン電池となる。

リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)について

<リン酸鉄リチウムイオン電池の概要>

リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を正極材料として使用し、リチウムイオンを電池の充放電に関与させる二次電池の一種となる。LFP電池は、高い安定性、長い寿命、高いエネルギー密度、優れた安全性などの特徴を持ち、広範な応用分野で使用されている電池となる。(例:市販のLFP電池BLUETTI)

LFP電池は中国の大学や研究機関のコンソーシアムにより主要特許が押さえられていたため、CATL等の中国メーカーでしか作られていなかった。これら特許の存続期間は2022年で満了するため、テスラやford、VWなどの車メーカーがこぞって採用にシフトし始めている。

LFPの構造を現在主流である三次元リチウムイオン電池と比べたものを以下に示す。

LFP電池は上図に示すように、リチウムイオン電池よりも複雑な結晶構造(オリビン構造)を持ち、より安定性に優れた電池となっている。オリビン構造とは結晶構造の一つであり、六方密充填酸素骨格を持ち、天然のかんらん石 (olivine) がこの構造をもつことから、オリビン構造と呼ばれる。

このような複雑な構造は、”太陽電池の概要と課題とペロブスカイト太陽電池“でペロブスカイト構造や、”半導体の設計プロセスへのAIの適用およびAIアプリケーション用半導体チップについて“で述べた2nmスケールでのGAA(Gate All Around)構造等、近年ブレークスルーしている技術でも同様に現れるものであり、非常に微細な分子レベルでの構造制御が必要で、材料制御技術が重要な役割を示すという事が言える。

<リン酸鉄リチウムイオン電池の利点>

そのようなLFP電池の利点としては以下のようなものがある。

  • 高い安全性: LFP電池は高い熱安定性を持ち、過充電や高温などの過酷な状況下でも発火や爆発のリスクが低い。そのため、電気自動車やハイブリッド車などの高い安全性が求められる用途に適している。
  • 長いサイクル寿命: LFP電池は充放電サイクル数が多く、通常数千回以上の充放電が可能となる。他の一般的なリチウムイオン電池と比較しても、LFP電池はサイクル寿命が優れています。
  • 高いエネルギー密度: LFP電池のエネルギー密度は他のリチウムイオン電池と比較してやや低いが、十分に高いレベルであり、多くの応用に適している。
  • 広い動作温度範囲: LFP電池は、-20°Cから60°Cまでの広い温度範囲で正常に動作することができ、様々な気候条件下で使用できる。
  • 環境への影響が少ない: LFP電池は、鉛やコバルトなどの材料を使用しないため、環境への影響が比較的少なく、リン酸鉄は安価な材料であり、供給が安定している。

<リン酸鉄リチウムイオン電池の課題と解決手段>

このように様々な利点があるLFP電池だが以下のような課題が存在している。

  • 低いエネルギー密度: LFP電池は他の一般的なリチウムイオン電池と比較してエネルギー密度がやや低い。これは、LFPの正極材料であるリン酸鉄の結晶構造が比較的安定しているためである。
  • 高い内部抵抗: LFP電池は内部抵抗が比較的高く、高い充放電率での性能が制限される場合がある。
  • 自放電の影響: LFP電池は一般的に自放電が比較的大きく、充放電サイクルを経ることで容量が減少する傾向がある。
  • リン酸鉄の材料コスト: リン酸鉄は他の一般的な正極材料(例:コバルト)に比べて安価だが、それでも材料コストが課題となる場合がある。
バイポーラ形リチウム酸鉄電池

先のトヨタの発表ではこれらの課題に対して”バイポーラ形リチウム酸鉄電池”というアプローチで大幅に改善している。

<バイポーラ形電池>

バイポーラ形電池は、陽極と陰極が同じ場所に存在する特殊な構造を持った電池であり、通常の電池では陽極と陰極が別々の場所にあり、それぞれ電解質を介してイオンの移動が行われているのに対して、バイポーラ形電池では陽極と陰極が同じ領域に配置され、電解質を通じてイオンが直接移動するものとなる。このような構造とする事で、従来のセルは下図のように個別のセルを構築して繋げていたものに対して、セル内部で電池を繋げる事が可能となり、電池の内部抵抗が低く、高い電流を供給することが可能で、電気自動車やハイブリッド車のような高出力を要求されるシステムで利用する事が可能となる。

バイポーラ形電池は一般的に高度な技術や設計が必要であり、製造コストが高い場合もあり、電池内のイオンの移動距離が短くなるため、内部抵抗の低減に寄与する一方で、電池容量の減少や劣化の可能性もあるなどの課題も存在している。

<バイポーラ形リチウム酸鉄電池>

バイポーラ形リチウム酸鉄電池は、このようなバイポーラ形構造をリチウム酸鉄電池に適用したものとなる。バイポーラ形構造を持つリチウム酸鉄電池は、陽極と陰極が同じ領域に配置されており、この構造により、電解質を通じてイオンが直接移動するため、内部抵抗が低くなって、高い電流を供給できる利点がある。さらに、バイポーラ形構造によって電極の活性材料の利用効率が向上し、電池のエネルギー密度や出力特性が改善されるという利点がある。

トヨタではこの形の電池の量産を2027年までに完了させ、カローラサイズの電気自動車に400km程度の航続距離を持たせたうえ、今のハイブリッド車と大差のない価格設定にして、寿命は100万kmを優に超えるものを作るとしている。

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