GraphSAGEについて
GraphSAGE(Graph Sample and Aggregated Embeddings)は、グラフデータからノードの埋め込み(ベクトル表現)を学習するためのグラフ埋め込みアルゴリズムの一つであり、ノードの局所的な隣接情報をサンプリングし、それを集約することによって、各ノードの埋め込みを効果的に学習するものとなる。このアプローチにより、大規模なグラフに対しても高性能な埋め込みを獲得することが可能となる。
GraphSAGEはHamiltonらによって”Inductive Representation Learning on Large Graphs“にて報告されたもので、従来のtransductiveな(特定の事例から特定の事例への)エンべディング手法では、すべてのノードが訓練中に見えている必要があるのに対して、未知あるいは未観測のノードや部分グラフに対するinductive(特定の事例から一般的な事例への)エンべディングを実現しているものとなる。
以下にGraphSAGEの主な特徴と要素について述べる。
1. サンプリング:
グラフのノードの表現学習にあたり、GraphSAGEではすべての近傍を用いずに、サンプリングによって近傍ノードの数を固定する。GraphSAGEでは、グラフが同型(isomorphic)かどうかを調べるWeisfeiler-Lehman(WL)同型テストの近似を用い、WL同型テストにおけるハッシュ関数を学習可能なニューラルネットの集約と置き換えたものを利用している。
GraphSAGEは、各ノードの周りの隣接ノードをサンプリングする場合に、ランダムサンプリングや重み付けサンプリングなど、さまざまなサンプリング戦略を使用でき、サンプリングによって、ノードの局所的な構造情報が取得される。
2. 集約:
GraphSAGEでは、近傍ノードの表現を集約(aggregation)して、自身のノードの表現を更新している。集約方法には、平均、プーリング、注意機構(注意を払うノードの重みづけ)などがあり、集約によって、ノードの埋め込みが更新され、グラフ全体の情報を考慮することができる。
論文では、集約の際の近傍の距離としてはK=2がよく、それ以上はわずかな性能向上に比べて計算時間が非常に増大すると報告されている。集約のやり方としては、平均、再帰型ニューラルネットの一種であるLSTM、プーリングの3種類を実験し、平均に比べてLSTMとプーリングによる性能が若干良かったことや、LSTMは計算時間がかかることが報告されている。
3. 深層学習モデル:
GraphSAGEは、多層のニューラルネットワークを使用して埋め込みを学習する。各層では、サンプリングと集約が交互に行われ、埋め込みが階層的に更新され、この深層学習モデルにより、より豊かな表現が獲得される。
4. 非同次グラフへの適用:
GraphSAGEは非同次グラフ(異なるノード間のエッジに異なる意味がある場合)にも適用できる。各エッジに異なる重みを割り当てることにより、エッジのタイプに応じた埋め込みを学習することが可能となる。
5. 様々なアプリケーションへの適用:
GraphSAGEは、ノードのクラスタリング、分類、リンク予測、推薦など、さまざまなグラフデータ関連のタスクに適用できる。特に、ソーシャルネットワーク分析やウェブページリンクグラフ分析などの分野で広く使用されている。
論文では得られた表現をもとに、引用ネットワーク、Redditの投稿ネットワーク、タンパク質インタラクションネットワークを用いたノード分類及びグラフ分類を行い、”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べられているDeepWalk等に比べて高精度の分類を実現していることが報告されている。
GraphSAGEは、DeepWalkなどの他のグラフ埋め込みアルゴリズムと比較して、より局所的な情報と大域的な情報を組み合わせて効果的なノード埋め込みを学習することができるため、Spatialなグラフ畳み込みの代表的な例として知られており、グラフニューラルネットワークの研究におけるベースラインとして知られている。
HamiltonらによるGraphSAGEのコードはgitページにて公開されている。
GraphSAGEの具体的な手順について
GraphSAGEの具体的な手順は以下のようになる。これは、ノードの埋め込みを学習するための基本的なフレームワークであり、アプリケーションに合わせて調整できる。
1. グラフの準備:
グラフデータを取得または構築する。ノードとエッジ(ノード間の接続)からなるグラフが必要で、これは、ソーシャルネットワーク、ウェブページリンクグラフ、推薦システムなど、さまざまなアプリケーションで使用されるデータとなる。
2. ノードの隣接ノードのサンプリング:
各ノードの周りから隣接ノードをサンプリングする。このサンプリングは、ノードの局所的な構造情報をキャプチャするために行われ、サンプリング方法は、ランダムサンプリング、重み付けサンプリング、近傍ノードのサンプリングなどが考えられる。
3. 集約:
サンプリングした隣接ノードの情報を集約する。集約方法には、平均プーリング、最大プーリング、注意機構などが使用でき、これにより、各ノードに隣接ノードの情報が集められ、埋め込みが更新される。
4. ニューラルネットワークモデルの設計:
GraphSAGEは、多層のニューラルネットワークを使用して埋め込みを学習する。各層では、サンプリングと集約が交互に行われ、各層の出力は、次の層への入力として使用されます。通常、各層の出力次元や活性化関数はハイパーパラメータとして調整される。
5. モデルのトレーニング:
ニューラルネットワークモデルをトレーニングする。トレーニングデータは、サンプリングしたノードとその隣接ノードから構成され、目標は、埋め込みを学習し、ターゲットタスク(例: クラス分類、リンク予測)に適した埋め込みを獲得することとなる。
6. 埋め込みの取得:
トレーニングが完了すると、各ノードに対する埋め込みが得られる。これらの埋め込みは、ノードの低次元ベクトル表現であり、ターゲットタスクに使用できる。
7. 応用タスクへの利用:
学習した埋め込みを使用して、さまざまなグラフデータ関連のタスクを解決する。例えば、ノードのクラスタリング、分類、リンク予測、推薦などのタスクに利用できる。
GraphSAGEの実装例について
GraphSAGEの実装例を示す。以下のコード例では、PythonとPyTorchを使用して、GraphSAGEを実装している。
import torch
import torch.nn as nn
import torch.nn.functional as F
import torch.optim as optim
import random
import numpy as np
import networkx as nx
from sklearn.preprocessing import OneHotEncoder
from sklearn.metrics import accuracy_score
# グラフの読み込みまたは生成
G = nx.karate_club_graph()
# ノードの特徴量をランダムに生成
node_features = {node: np.random.rand(5) for node in G.nodes()}
# サンプリングパラメータ
num_neighbors = 5 # 隣接ノードの数
num_samples = 10 # サンプリング回数
num_epochs = 100
learning_rate = 0.01
# ノードのクラスラベルを生成
labels = {node: 0 if G.nodes[node]['club'] == 'Mr. Hi' else 1 for node in G.nodes()}
# クラスラベルをOne-Hotエンコーディング
labels = np.array(list(labels.values())).reshape(-1, 1)
encoder = OneHotEncoder(sparse=False)
labels_onehot = encoder.fit_transform(labels)
# グラフの次数を計算
degrees = dict(G.degree())
# GraphSAGEモデルの定義
class GraphSAGE(nn.Module):
def __init__(self, input_dim, hidden_dim, output_dim):
super(GraphSAGE, self).__init__()
self.fc1 = nn.Linear(input_dim, hidden_dim)
self.fc2 = nn.Linear(hidden_dim, output_dim)
def forward(self, node_features, sampled_neighbors):
aggregated = torch.mean(node_features[sampled_neighbors], dim=1)
x = F.relu(self.fc1(aggregated))
x = self.fc2(x)
return x
# モデルの初期化
input_dim = 5
hidden_dim = 16
output_dim = 2
model = GraphSAGE(input_dim, hidden_dim, output_dim)
# 損失関数と最適化アルゴリズムの設定
criterion = nn.CrossEntropyLoss()
optimizer = optim.Adam(model.parameters(), lr=learning_rate)
# トレーニング
for epoch in range(num_epochs):
loss_accumulated = 0.0
for node in G.nodes():
for _ in range(num_samples):
# ランダムに隣接ノードをサンプリング
sampled_neighbors = random.sample(list(G.neighbors(node)), num_neighbors)
sampled_neighbors = torch.tensor(sampled_neighbors)
# フォワードパス
logits = model(torch.tensor(node_features[node], dtype=torch.float32),
sampled_neighbors)
# 損失計算
loss = criterion(logits.view(1, -1), torch.tensor([labels[node]], dtype=torch.long))
loss_accumulated += loss.item()
# バックプロパゲーション
optimizer.zero_grad()
loss.backward()
optimizer.step()
print(f"Epoch [{epoch+1}/{num_epochs}] Loss: {loss_accumulated}")
# 推論
predicted_labels = []
true_labels = []
for node in G.nodes():
sampled_neighbors = list(G.neighbors(node))
logits = model(torch.tensor(node_features[node], dtype=torch.float32), sampled_neighbors)
predicted_label = torch.argmax(logits).item()
true_label = labels[node][0]
predicted_labels.append(predicted_label)
true_labels.append(true_label)
# 精度の評価
accuracy = accuracy_score(true_labels, predicted_labels)
print(f"Accuracy: {accuracy}")
このコード例では、簡単なKarate Clubグラフを使用している。GraphSAGEモデルを定義し、指定された数のサンプリングとエポックでモデルをトレーニングし、最終的な分類精度を評価している。
GraphSAGEの課題について
GraphSAGEは優れたグラフ埋め込みアルゴリズムだが、いくつかの課題が存在する。以下にそれら課題について述べる。
1. サンプリングバイアス:
GraphSAGEは、ランダムサンプリングなどの方法で隣接ノードをサンプリングするが、これにより一部のノードが頻繁にサンプリングされ、他のノードが無視される可能性があり、ノードの埋め込みが不均衡になって、性能の低下につながることがある。
2. ノードの表現力の制約:
GraphSAGEは隣接ノードの情報を集約する際に平均などの単純な集約方法を使用する。これにより、ノードの表現力が制約される場合があり、複雑な構造や特徴をキャプチャするのが難しいことがある。
3. 隣接ノードの選択:
GraphSAGEでは、隣接ノードのサンプリングが重要となる。ランダムサンプリングや重み付けサンプリングなどの方法があるが、どのノードをサンプリングするかの選択がタスクに大きな影響を与えるため、適切なサンプリング方法を選ぶことが難しくなる。
4. グラフの非同次性への対応:
GraphSAGEは同質グラフ(全てのエッジが同じタイプの場合)に適しているが、非同質グラフ(異なるエッジタイプが存在する場合)には直接適用できない。非同質グラフに対応するためには、モデルの拡張が必要となる。
5. ハイパーパラメータの調整:
GraphSAGEにはいくつかのハイパーパラメータ(サンプリング回数、埋め込み次元数、学習率など)が存在し、これらのパラメータを適切に調整する必要がある。ハイパーパラメータの選択がタスクによって異なるため、調整が必要となる。
これらの課題に対処するために、サンプリング方法の改善、集約方法の改良、非同質グラフへの拡張、ハイパーパラメータのチューニングなどが行われている。また、より高度なグラフ埋め込みアルゴリズムやモデルの開発も進行中であり、特定のタスクやデータに合わせて選択することが重要となる。
GraphSAGEの課題への対応策について
GraphSAGEの課題に対処するために、以下のような対策策が提案されている。
1. サンプリングバイアスの削減:
サンプリングバイアスを削減するために、ランダムサンプリングではなく、よりスマートなサンプリング方法を採用する。例えば、”Metapath2Vecの概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているMetapath2Vecのような手法では、メタパスと呼ばれる特定のパスに基づいてサンプリングを行い、バイアスを軽減することができる。
2. 集約方法の改善:
より高度な集約方法を採用することで、ノードの表現力を向上させることができる。例えば、”深層学習におけるattentionについて“で述べている注意機構(Attention Mechanism)を用いて、重要な隣接ノードに重みを付ける方法や、CNNの概要とアルゴリズム及び実装例について“でも述べている畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を適用する方法がある。
3. 多層モデルの使用:
より多層のモデルを使用することで、より複雑なノード表現を学習できる。グラフサンプリングと集約を交互に行う多層モデルは、GraphSAGEの性能向上に寄与する。
4. 非同質グラフへの拡張:
非同質グラフに対処するために、モデルを拡張する方法がある。例えば、”メタパスを定義して非同質グラフの異なるエッジタイプを扱う方法について“で述べているメタパスを定義して非同質グラフの異なるエッジタイプを扱う方法や、”R-GCNの概要とアルゴリズム及び実装例“でも述べているR-GCN(Relational Graph Convolutional Networks)などのモデルを使用する方法がある。
5. リアルタイムトレーニングとインクリメンタルトレーニング:
グラフが動的に変化する場合、リアルタイムトレーニングまたはインクリメンタルトレーニングを使用して、埋め込みを最新の情報に適応させることが必要となる。
6. ハイパーパラメータチューニング:
ハイパーパラメータの適切な調整は、GraphSAGEの性能向上に寄与する。クロスバリデーションなどの手法を使用して、最適なハイパーパラメータを見つけることが重要となる。
7. 多様なデータセットでの評価:
グラフデータセットは異なる性質を持つため、多様なデータセットでモデルを評価し、汎用性を確認することが重要となる。
参考情報と参考図書
グラフデータの詳細に関しては”グラフデータ処理アルゴリズムと機械学習/人工知能タスクへの応用“を参照のこと。また、ナレッジグラフに特化した詳細に関しては”知識情報処理技術“も参照のこと。さらに、深層学習全般に関しては”深層学習について“も参照のこと。
参考図書としては”グラフニューラルネットワーク ―PyTorchによる実装―“
“Graph Neural Networks: Foundations, Frontiers, and Applications“等がある。
コメント
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