動的グラフのエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例

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動的グラフのエンべディングの概要

グラフ畳み込みニューラルネットワーク(Graph Convolutional Neural Networks, GCN)の概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているグラフ畳み込み、”グラフエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているグラフエンべディング、”Structural Deep Network Embedding(SDNE)の概要とアルゴリズム及び実装例“に述べているグラフオートエンコーダ等では、主に静的グラフを対象にモデルを構築していた。それに対して、現実のデータでは動的なグラフで表される関係性が数多く存在しており、”時間と共に変化していくグラフデータを解析する手法について“に述べているようにさまざまなアプローチが行われている。

動的グラフのエンベディングを行うには、グラフの構造とその動的変化の両方を反映させたベクトル表現にする必要があり、動的グラフの表現方法としては以下の2つに分けられる。

  • 離散時間動的グラフ (Discrete-time dynamic graph, DTDG): グラフの動的変化を一定時間ごとに区切り、 各区切りをスナッ プショットで表したグラフの列(上図左)
  • 連続時間動的グラフ (Continuous-time dynamic graph, CTDG): グラフのノードやエッジごとに、 出現・ 消滅時刻のタイムスタ ンプを付与したもの(上図右)

従来の静的グラフに対するエンベディングと動的グラフのエンベディングの相違点は、従来の静的グラフに対するみのが、ノードの固定された表現を得ることに焦点を当てたものなのに対して、動的グラフのエンベディングでは、グラフの時間的変化に対応した表現を得ることが目的となる点にある。

動的グラフエンベディングには以下の様なアプローチがある。

スナップショットベースの手法: 

1. Static Embedding + Temporal Alignment: 静的グラフエンベディング手法を使って、各時刻のグラフに対するエンベディングを独立に取得し、その後時系列のアラインメントを行う方法となる。この手法では、各スナップショットのノード表現が独立しているため、グラフ間のリンク予測などのタスクに適している。

2. Dynamic Triad Embedding: 三角形の概念を用いてノード間の動的な関係を捉える手法となる。あるノードが三角形を形成する他のノードとどのようにつながっているかをモデル化し、時間的な変化を反映させる。

時間依存性を考慮した手法: 

1. Dynamic Structural Deep Network Embedding (DSDNE): 時間に関連する情報を考慮しながら、グラフのノード表現を学習する手法となる。静的なネットワークの構造情報に加えて、時間ステップ間のネットワークの変化を捉えるための項を組み込んでいる。

2. Dynamic Graph Convolutional Networks (DGCN): 動的グラフのための畳み込みニューラルネットワークを使用した手法となる。畳み込み層を時間ステップごとに適用し、グラフの時間的変化を反映させたエンベディングを得ている。

動的グラフのエンべディングに関連するアルゴリズム

以下に動的グラフのエンベディングに関連するアルゴリズムについて述べる。

1. Dynamic DeepWalk (DDW): Dynamic DeepWalkは、静的グラフのエンベディング手法であるDeepWalkを動的グラフに適用した手法となる。DeepWalkは、ランダムウォークとSkip-gramモデルを組み合わせてノードの表現を学習したもので、DDWでは、各時刻のグラフに対してDeepWalkを適用し、時間的な変化を反映したエンベディングを得るアプローチとなる。DeepWalkの詳細は”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

2. Dynamic Node2Vec: Node2VecはDeepWalkに類似した手法であり、ランダムウォークとSkip-gramモデルを用いてノードの表現を学習するものとなる。Dynamic Node2Vecは、Node2Vecを動的グラフに拡張したものであり、時間的な変化を考慮してノードの表現を学習している。Node2Vecの詳細は”Node2Vecの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

3. Dynamic Graph Convolutional Networks (DGCN): DGCNは、動的グラフに対する畳み込みニューラルネットワーク(GCN)を利用した手法で、時間ステップごとに畳み込み層を適用し、動的グラフの時間的な変化を反映させたエンベディングを学習するものとなる。GCNの詳細は”グラフ畳み込みニューラルネットワーク(Graph Convolutional Neural Networks, GCN)の概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

4. Dynamic Structural Deep Network Embedding (DSDNE): DSDNEは、静的グラフのエンベディング手法であるSDNEを動的グラフに適用した手法となる。SDNEは、オートエンコーダを用いてノードの表現を学習するが、DSDNEでは時間的な変化を考慮した拡張が行われている。SDNEの詳細は”Structural Deep Network Embedding(SDNE)の概要とアルゴリズム及び実装例“を参照のこと。

5. DynamicTriad: DynamicTriadは、動的グラフにおける三角形の概念を利用してノードの時間的な変化を捉える手法となる。DynamicTriadは、グラフ内の三角形パターンを特徴として捉え、時間的な変化に応じたノードの表現を学習している。DynamicTriadの詳細は”DynamicTriadの概要とアルゴリズム及び実装例“を参照のこと。

動的グラフのエンべディングの適用事例

以下に動的グラフのエンベディングの具体的な適用事例について述べる。

1. ソーシャルネットワークの分析:

ユーザー行動の予測: ソーシャルメディアプラットフォームなどのデータから、ユーザーの行動や関係性の変化をモデル化するために動的グラフのエンベディングが使用されている。これにより、友人追加、コンテンツ共有、意見の形成などの事象を予測することが可能となる。

コミュニティの特定: 動的グラフエンベディングを用いて、時間によって変化するユーザーの関係性を分析し、異なるコミュニティやクラスターを特定することができる。

2. オンライン広告の最適化:

ユーザー行動の解析: 動的グラフエンベディングを使用して、ユーザーの行動パターンや傾向を分析し、オンライン広告の配信を最適化し、時間の経過に伴うユーザーの興味や関心の変化を捉え、それに応じて広告を配信することができる。

3. 生物学的ネットワークの解析:

タンパク質相互作用ネットワーク: 生物学的なネットワークデータは動的な性質を持つことがあり、動的グラフエンベディングを使用して、タンパク質相互作用ネットワークの時間的な変化を解析し、異なるタイミングでのタンパク質の役割や相互作用パターンを理解することができる。

4. 交通ネットワークの予測:

交通流の予測: 動的グラフエンベディングを使用して、都市の交通ネットワークの動向を予測することが可能で、交通量や車両の移動パターンを捉え、混雑の予測や最適な経路の提案に活用されている。

5. フィナンスと経済:

市場の変動の分析: 株式市場や仮想通貨市場などの金融データは時間に依存する性質を持っており、動的グラフエンベディングを用いて、市場の動向や相関関係を分析し、投資家やトレーダーに有益な情報を提供することができる。

動的グラフのエンべディングの実装例について

動的グラフのエンベディングを実装するためのいくつかのライブラリやフレームワークがある。ここでは、Pythonを用いた動的グラフのエンベディングの実装例について述べる。

1. StellarGraph:

StellarGraphは、グラフマシンラーニング用のPythonライブラリであり、動的グラフのエンベディングを容易に実装できるものとなる。以下は、StellarGraphを使用したDynamic Node2Vecの実装例となる。

import networkx as nx
from stellargraph import StellarGraph
from stellargraph.data import BiasedRandomWalk
from stellargraph.data import UnsupervisedSampler
from gensim.models import Word2Vec

# 1. NetworkXを使って動的グラフを作成
G = nx.Graph()
# グラフの構築

# 2. StellarGraphのオブジェクトを作成
graph = StellarGraph.from_networkx(G)

# 3. BiasedRandomWalkを用いてランダムウォークを設定
rw = BiasedRandomWalk(graph)

# 4. UnsupervisedSamplerを用いてサンプリング
nodes = list(graph.nodes())
number_of_walks = 10
length = 80
batch_size = 50
epochs = 3
generator = UnsupervisedSampler(graph, nodes=nodes, length=length, number_of_walks=number_of_walks)
walks = generator.run(batch_size=batch_size, epochs=epochs)

# 5. Word2Vecを使ってエンベディングを学習
model = Word2Vec(walks, vector_size=128, window=5, min_count=0, sg=1, workers=2, epochs=1)

# 6. ノードのエンベディングを取得
node_embeddings = model.wv

2. GraphSAGE:

GraphSAGEの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているGraphSAGEは、グラフデータからノードのエンベディングを生成する手法であり、動的グラフにも適用可能なものとなる。以下は、stellargraphを使用したDynamic GraphSAGEを実装する例となる。

import networkx as nx
from stellargraph import StellarGraph
from stellargraph.mapper import GraphSAGENodeGenerator
from stellargraph.layer import GraphSAGE
from tensorflow import keras

# 1. NetworkXを使って動的グラフを作成
G = nx.Graph()
# グラフの構築

# 2. StellarGraphのオブジェクトを作成
graph = StellarGraph.from_networkx(G)

# 3. GraphSAGENodeGeneratorを定義
batch_size = 50
num_samples = [10, 5]
generator = GraphSAGENodeGenerator(graph, batch_size, num_samples)

# 4. GraphSAGEモデルを定義
layer_sizes = [128, 128]
graphsage = GraphSAGE(
    layer_sizes=layer_sizes, generator=generator, bias=True, dropout=0.5
)

x_inp, x_out = graphsage.in_out_tensors()

# 5. モデルをコンパイル
prediction = keras.layers.Dense(units=1, activation="sigmoid")(x_out)

model = keras.Model(inputs=x_inp, outputs=prediction)
model.compile(optimizer=keras.optimizers.Adam(lr=1e-3), loss="binary_crossentropy")

# 6. モデルのトレーニング
epochs = 5
model.fit(generator.flow(train_subjects.index, train_targets), epochs=epochs, verbose=2)

# 7. ノードのエンベディングを取得
node_ids = graph.nodes()
node_gen = generator.flow(node_ids)
embedding_model = keras.Model(inputs=x_inp, outputs=x_out)
node_embeddings = embedding_model.predict(node_gen)

3. GEMSEC (Graph Embedding with Self Clustering):

GEMSECは、自己クラスタリングを用いた動的グラフエンベディングの手法となる。以下は、gemsecパッケージを使った実装例となる。

from gemsec.algorithm import gemsec
import networkx as nx

# 1. NetworkXを使って動的グラフを作成
G = nx.Graph()
# グラフの構築

# 2. GEMSECでエンベディングを学習
model = gemsec(G, t=0, r=1, d=128, context_size=5, num_workers=4)
model.learn_embedding()

# 3. ノードのエンベディングを取得
node_embeddings = model.get_embedding()
動的グラフのエンべディングの課題と対応策について

動的グラフのエンベディングにはいくつかの課題があり、それらの課題に対処するためのいくつかの対策がある。

1. グラフのサイズとスケーラビリティ:

課題: 動的グラフが大規模である場合、エンベディングを計算することは計算上の負荷がかかる。
対策:
ミニバッチ処理: グラフを小さなサブグラフに分割し、ミニバッチで処理することで計算の効率を向上させる。
サンプリング: グラフからランダムにサンプリングすることで、大規模なグラフでも近似的なエンベディングを得ることができる。

2. ノードの追加や削除に対する頑健性:

課題: 動的グラフにおいて、新しいノードが追加されたり、既存のノードが削除されると、エンベディングが古くなる。
対策:
再学習: 定期的に新しいデータを用いてエンベディングを再学習することで、最新の情報を反映させる。
増量学習: 新しいデータを追加して学習する方法を採用し、完全な再学習を回避する。

3. 時間的な変化のモデリング:

課題: 動的グラフにおいて、ノード間の関係性や構造が時間によって変化することを適切に捉える必要がある。
対策:
動的グラフモデル: 時間変化を考慮したモデル(例: DynamicTriad、Dynamic Node2Vec)を使用する。
時系列情報の組み込み: ノードのエンベディングに時間的な特性を組み込むことで、時間的変化を反映させる。

4. 評価の困難さ:

課題: 動的グラフのエンベディングの評価は、静的なグラフよりも困難であり、適切な評価メトリクスが必要となる。
対策:
タスク指向の評価: エンベディングの品質を特定のタスクに対する性能で評価する。
予測タスク: リンク予測、グラフクラスタリング、ノード分類などのタスクでエンベディングを評価する。

5. データの欠損やノイズへの対処:

課題: リアルワールドの動的グラフデータには欠損やノイズが含まれる。
対策:
欠損値処理: 欠損値を適切に補完する方法を採用する。
ノイズ除去: ノイズを除去する前処理手法を使用する。

6. ドメイン特有の挑戦:

課題: ドメインによって、動的グラフの性質や問題が異なることがある。
対策:
ドメイン知識の組み込み: ドメインの専門家と協力し、ドメイン特有の課題に対処する。
ドメイン適応: 他のドメインで学習したエンベディングを”転移学習の概要とアルゴリズムおよび実装例について“で述べている転移学習することで、特定のドメインに適応させる。

参考情報と参考図書

グラフデータの詳細に関しては”グラフデータ処理アルゴリズムと機械学習/人工知能タスクへの応用“を参照のこと。また、ナレッジグラフに特化した詳細に関しては”知識情報処理技術“も参照のこと。さらに、深層学習全般に関しては”深層学習について“も参照のこと。

参考図書としては”グラフニューラルネットワーク ―PyTorchによる実装―

グラフ理論と機械学習

Hands-On Graph Neural Networks Using Python: Practical techniques and architectures for building powerful graph and deep learning apps with PyTorch

Graph Neural Networks: Foundations, Frontiers, and Applications“等がある。

 

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