メタバースの歴史
kotaba2003年夏号特集メタバースはブルース・リーの夢を見るか?では
メタバース(仮想空間)に私たちが求めているものは何かという問いから、映画『マトリックス』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』等の仮想空間での過剰なまでの身体性や、映画という仮想の空間の中でのブルース・リーの身体性について述べられている。
その中で述べられているメタバースの歴史は1981年の数学者であり、SF作家であるヴァーナー・ブィンジが
さらに1992年にニール・スティーヴンスンのスノウクラッシュでインターネット上の仮想空間を表す言葉としてメタバースが現れている。
また、実装としては1992年のエレクトロニックアーツ社の「ウルティマオンライン」がMMORPG(大規模多人数同時参加型RPG)として普及、
さらに1999年に映画マトリックスが公開
2003年にLinkeden Labがセカンドライフをリリース、ユーザーはアバターを使い、リアルマネーとの換金可能な仮想通貨リンドルが流通され、主にブロモーションなどに利用された。
このセカンドライフには以下のような課題があった。
- 当時のインターネット接続やPCスペックの限界から、動作が重く、ラグが発生しやすい環境で、ユーザーがスムーズ動作できない
- グラフィックスの品質や操作の直感性が限られており、初心者にとって操作が難しいという問題があった
- FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが普及し、人々は現実と仮想世界の両方で簡単に他者と繋がれるようになり、ユーザーの興味が薄れた
- スマートフォンやモバイルアプリの普及が進み、PCに依存するメタバースプラットフォームは相対的に利便性が低く感じられるようになった
- ユーザー主導でコンテンツを生成する仕組みが、自由度が高い反面、質の高いコンテンツの維持が難しく、トロール行為やスパムコンテンツなどの管理に課題があった
- ユーザーが作成したコンテンツやビジネスモデルは多様であるものの、それを維持し、魅力的に保つためには膨大な時間と労力が必要で、管理コストが運営側の負担になり、ユーザーの期待に応え続けることが困難になった
- 当時の仮想通貨の未成熟や知的財産権の取り扱いに関する法的な問題が足かせとなり、持続可能なエコシステムを確立するのが難しかった
- 一部の企業がプロモーションやビジネス拠点として活用したものの、投資対効果が低かった
このような課題があるため、ユーザー数は増えず衰退していった。
これに対して、2013年のVRChat Inc.よるVR対応の仮想プラットフォームVRChat、2017年のEpic Gameによるオンラインゲームであるフォートナイト、Cluster社によるソーシャルVR Cluster、2020年に任天堂による「あつまれどうぶつの森」などのゲームが開発されてきた。また、2021年には当時のFaceBook社が社名をMetaに変え、仮想空間の構築に主軸を移すことを宣言している。
近年では、Microsoft MeshやMetaのHorizon Workroomsなどによるビジネスや教育現場での利用や、フォートナイトやロブロックスといったゲームプラットフォームを活用して、没入型の体験を通じて顧客と新たな関係の構築するもの、”Web3とWeb 3.0 – 分散型ウェブと意味を理解するウェブ“で述べているWeb3技術を導入して「メタバース空間で何かを所有するために、複製不可能で数が限られたデジタル資産が必要」というニーズに応えるようなものなど、多彩なアプローチが行われるようになっている。
何故メタバースに人が定着しないのか
このように多様なブラットフォームにより、様々なメタバースが作成されているが、多くのメタバースでは作成後訪問者が減少し、廃れた場所となってしまう。
メタバースで人が定着しない要因として、以下の点が指摘されている。
1. 価値の明確化不足: 多くのユーザーは、メタバースがどのように生活や仕事に直接的な利益をもたらすかを理解していない。現実の問題解決や日常の利便性を向上させる場面が少なく、娯楽や社交の場面以外での活用が限定的なことが、定着の妨げとなっている。
2. アクセス性と技術的障壁: メタバースへのアクセスには、VRデバイスや高性能なPCが必要な場合も多く、これが一般的なユーザーにとって大きな障壁となっている。特にVRデバイスの装着による身体的な疲労感や、空間の広さ、通信環境など、現実的な制約が利用頻度に影響を与える。
3. コミュニティとコンテンツの成熟不足: メタバース内で有意義な交流や活動が少ない場合、ユーザーが積極的に参加しようという動機が減少する。多様なコンテンツや価値あるコミュニティが成熟しないと、新規ユーザーはすぐに離脱しやすい。これにより、新規ユーザーがすでに存在する活発なコミュニティと交流できないため、孤立感を抱きやすくなる。
4. ユーザー体験の未熟: 現在の多くのメタバースプラットフォームでは、インターフェースや操作性が複雑で使いにくいと感じるユーザーが多い。特にビジュアルやインタラクションが現実に近づいていない部分が多く、従来のゲームやソーシャルメディアに比べて没入感が劣る点が指摘されている。
5. プライバシー・セキュリティの懸念: メタバースでの活動がリアルタイムで追跡される場合、プライバシーに対する懸念が増す。多くのユーザーは、個人情報がどのように管理されているかに不安を抱いており、プライバシーが確保されない限り、安心して利用するのが難しいと感じる。
6. ビジネスや職場の実用性の不足: メタバースは職場での会議やリモートワークなどに活用される可能性があるものの、実用性が高くないケースが多い。業務において現実の代替となるには、効率的であることや、直感的な操作が可能であることが必要で、従来のビデオ会議と比べて利点が明確でないため、ビジネスでの利用が進みにくい状況にある。
これらをまとめると、とメタバースを「単なる仮想空間」から「実際の価値を提供する環境」に進化させることが重要なポイントとなる。
メタバースを「単なる仮想空間」から「実際の価値を提供する環境」に進化させるための手段について
メタバースを「実際の価値を提供する環境」に進化させるためには、ユーザーのニーズや行動パターンを分析し、それに基づいた体験やサービスを構築することが重要になる。以下はそのための具体的なアプローチについて述べる。
1. データ分析によるユーザーの行動パターンとニーズの把握
- 行動データの収集:メタバース内でのユーザーの移動パターン、滞在時間、インタラクション履歴などを匿名で収集し、どのエリアや体験に興味を持っているかを把握する。
- 感情分析:チャットや音声データの感情分析を行い、ポジティブまたはネガティブな反応が出やすい体験を特定する。これにより、ユーザーが特に満足している要素や改善が必要な部分を見つけ出す。
- ニーズのセグメント化:ユーザーの年齢、職業、利用目的などのデータをもとに、ターゲット別にニーズを分類。例えば、仕事の効率化を重視するユーザーと、娯楽・社交を目的とするユーザーでは体験の設計が異なるため、それぞれに最適な体験を提供する。
2. ユーザーに合わせたパーソナライズド体験の提供
- 個別フィードバック機能:AIを活用して、各ユーザーの興味や過去の行動に基づいたパーソナライズドな体験を提案する。例えば、趣味や関心に基づいて、関連するイベントやコミュニティに誘導する機能を追加する。
- リアルタイムのアダプティブ体験:ユーザーの現在のニーズや感情に応じて、メタバースの体験が自動的に変化する仕組みを取り入れる。例えば、ユーザーが疲れている様子を検知した場合、リラックスできるスペースやガイドを提案する。
3. メタバースでの活動の実生活との統合
- 現実とのリンクを強化:メタバース内での活動が現実社会の成果に直結するような仕組みを作る。例えば、スキルや資格取得が可能な教育プログラムや、キャリア相談や転職支援を提供する「バーチャル就職フェア」などを開催し、現実のキャリアや教育機会とつながる体験を提供する。
- ショッピングとリワードの連動:ユーザーがメタバース内で購入したアイテムが現実にも反映される仕組み(例えば、実際の店舗での割引や特典)を導入し、仮想と現実の間でシームレスな価値を感じられるようにする。
4. ユーザーが主体的に関われるコミュニティやイベントの充実
- ユーザー参加型のイベント:イベントやワークショップをユーザーが自発的に開催できる仕組みを整備し、これにより、ユーザー同士が交流しやすくなり、コミュニティの一体感が生まれ、長期的な定着につながる。
- リアルタイムのフィードバックと報酬:イベントやアクティビティに参加したユーザーに対して、リアルタイムで成果や貢献を可視化し、報酬(バッジ、ポイントなど)を付与することで、モチベーションを高める。定期的なイベントを通して「コミュニティの一員である」感覚を強め、再訪を促す。
5. デジタルアイデンティティの発展
- デジタルアイデンティティのカスタマイズ:ユーザーの行動や経験に応じて、成長するデジタルアイデンティティを構築する。例えば、活動履歴や参加イベントに応じてバッジが増えるなど、ユーザーがメタバース内での成長や変化を感じられる仕組みを提供する。
- プライバシーとセキュリティを確保したデータ管理:ユーザーが安心して利用できるように、デジタルアイデンティティやパーソナルデータをしっかりと管理し、自己管理できる権限も与える。これにより、個人情報保護に敏感なユーザーの信頼を獲得しやすくなる。
6. 実生活の課題解決に役立つユースケースの開発
- 遠隔医療やリハビリ:医療現場でも活用できるよう、遠隔で医師と患者がリアルタイムでコミュニケーションできるメタバース空間を提供。リハビリをサポートする運動プログラムなども取り入れ、患者が自宅で治療を続けられるような仕組みを実現する。
- 災害対応のシミュレーション:自治体や企業と協力して、災害時の対応を訓練するシミュレーションや、予防教育プログラムを提供し、ユーザーが防災や安全対策について体験的に学べる場を作り、実生活でのリスク対応に役立てる。
7. AIとのインタラクションを通じたユーザー支援
- バーチャルアシスタントによるカスタマーサポート:メタバース内でAIアシスタントが常に利用者を支援できる環境を構築する。例えば、メタバース内での操作方法や、興味のあるコンテンツを紹介するガイド機能、学習支援などを提供し、快適に体験を楽しめるようにする。
- AIによる行動予測とレコメンド:AIがユーザーの過去の行動を基に、関心がありそうなイベントやエリアをリアルタイムで推薦し、ユーザーが探さなくても興味のある体験にすぐにアクセスできるようにする。
AIを用いた支援について
AIとのインタラクションを通じたユーザー支援を効果的に提供するためには、ユーザーのニーズや利用シーンに応じて、AIがより親身で役立つ支援を行えるような機能を取り入れることが重要となる。具体的には、以下のような支援方法が考えられる。
1. 個別ニーズに応じたパーソナライズドガイド
- リアルタイムのサポート:ユーザーがメタバース内で迷ったり、操作方法がわからない場合、AIアシスタントがリアルタイムでサポートする。たとえば、メニューの操作手順や目的地へのナビゲーションを行ったり、利用可能なコンテンツやエリアの紹介もしてくれる。
- コンテンツレコメンド:ユーザーの興味や過去の行動データをもとに、AIが個別のレコメンデーションを行う。例えば、過去にアートイベントに参加したユーザーには、類似のイベントやアート関連の空間を推薦することで、ユーザーが興味を持ちやすい体験にアクセスしやすくなる。
- インタラクティブなツアーガイド:初めてのユーザーや新しいエリアに訪れたユーザー向けに、AIがバーチャルツアーを提供する。各スポットや施設の概要を説明しながら案内するため、ユーザーが簡単に新しい空間に馴染めるようになる。
2. AIによる行動予測とプロアクティブなサポート
- 行動予測による次の一手の提案:ユーザーの過去の行動パターンや時間帯などを分析し、次に興味を持ちそうな活動やイベントを自動で提案する。例えば、ユーザーが過去に特定のコミュニティに頻繁に参加していれば、そのコミュニティに関連する新しいイベントや活動を通知することが可能となる。
- スケジュールやリマインダーの自動管理:メタバース内で予約したイベントや会議のリマインダーをAIが自動で管理し、直前に通知する機能を提供する。また、参加予定のイベント開始時には自動的にリンクを案内するなど、スムーズに予定通りの体験ができるようにサポートする。
3. 利用シーンに応じたAIアシスタントの専門化
- 目的別アシスタントの活用:仕事、学習、娯楽、買い物など、ユーザーの活動目的に応じた特化型AIアシスタントを提供する。たとえば、ビジネスミーティングで利用する場合は議事録の作成や資料の提示を補助するビジネスアシスタント、学習用であれば関連する教材や学習リソースを推薦する教育アシスタントなど、状況に応じて使い分けられる機能が役立つ。
- 専門知識を持つAIによるサポート:特定の分野での支援が必要な場合、専門知識を持ったAIアシスタントが対応する。例えば、メタバース内で3Dデザインやプログラミングを学ぶユーザーには、専用のAIが技術的なアドバイスやチュートリアルを提供するなど、学習サポートに特化した支援を行う。
4. 自然言語処理による会話型インターフェース
- 会話型のインターフェース:テキストや音声を通じて、自然な対話をしながらメタバースを案内できるインターフェースを提供する。ユーザーが疑問やリクエストを言葉で伝えると、AIが適切に応答し、リクエストに応じた案内や操作を支援する。
- 感情分析を活用した対応:ユーザーの言動から感情を分析し、対応を調整する。例えば、ユーザーが「少し疲れた」と発言した場合、リラックスできるエリアや軽いエンタメコンテンツを紹介するなど、ユーザーの気分に合わせた対応を行う。
5. 学習や成長を支援するAIコーチング
- スキルの習得支援:AIアシスタントがユーザーのスキル向上を支援し、習得度合いを見ながら学習計画や課題を提供する。例えば、ユーザーがプレゼンテーションの練習をしている場合、AIが改善点をフィードバックしたり、練習の進捗を記録して成長を実感させるサポートが可能となる。
- ゲームや挑戦型の学習:ゲーム形式で進められるミッションやクイズを用意し、ユーザーが楽しみながら学べる学習体験を提供する。例えば、メタバース内の地図や情報を活用した宝探しゲームや、キャリアに関連する知識を学べるクイズなどを通して、ユーザーの興味を引きつけながら知識を深める。
6. メタバース体験のフィードバックループの構築
- 体験の評価と改善:ユーザーが体験したイベントやアクティビティについてフィードバックを収集し、AIがこれを基にして体験の改善案を提案する。例えば、あるイベントに対して「内容が少し難しかった」というフィードバックがあれば、次回から分かりやすい説明を追加したり、体験の難易度を調整するなど、ユーザーが快適に楽しめるように改善する。
- AIによる行動ログとフィードバックの可視化:ユーザーがどのような体験をどの程度楽しんだかを可視化し、次回の活動に役立てられるようにする。これにより、ユーザーは自分の進捗を確認し、改善点を意識して次の体験に臨めるようになる。
7. デジタルアイデンティティの強化と成長サポート
- 自己成長を促すフィードバック:AIがユーザーの活動履歴や成績を見て、成長ポイントをフィードバックする。例えば、ユーザーが新しいスキルを習得したり、特定の目標に到達した場合にAIが達成を祝うことで、ユーザーは自己成長を感じやすくなる。
- 目標設定とトラッキング:ユーザーが設定した目標(例:メタバース内でのキャリア向上、スキルアップなど)を達成するために、AIが進捗管理を行い、目標達成に向けた支援を行う。これにより、ユーザーは具体的な目的意識を持ちながらメタバースを活用できるようになる。
こうしたAI支援を活用することで、ユーザーはメタバース内での活動をより効率的で価値のあるものと感じ、日常的な利用が促進される。また、AIがユーザーに寄り添い、成長や達成感を提供することで、長期的な定着につなげることが期待される。
参考図書
以下にそれぞれのテーマごとの参考図書について述べる。
1. メタバースとデジタル空間設計
2. AIアシスタントとユーザー支援
- 『Voicebot and Chatbot Design: Flexible conversational interfaces with Amazon Alexa, Google Home, and Facebook Messenger』
- 『AI and OSINT: The Future of Cyber Investigation』
3. ユーザー体験とインターフェースデザイン
4. デジタルアイデンティティとバーチャルエコノミー
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