知識グラフを用いた推薦システム

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知識グラフを用いた推薦システム

知識グラフは、エンティティ(人、物、概念など)間の関係を表現するグラフであり、複数の関連性を持つエンティティを表すことが可能なデータ形式であり、知識グラフを使った推薦は、ユーザーの好みや興味をより正確に反映することができる推薦方法の一つとなる。

知識グラフを用いた推薦の一般的な手法として、以下のようなものがある。

  1. エンティティの埋め込み表現を取得する: 知識グラフからエンティティの埋め込み表現を取得することで、そのエンティティの特徴を把握することができる。埋め込み表現は、エンティティを数値ベクトルで表現するものであり、類似性を計算する際に使用される。
  2. ユーザーとアイテムを知識グラフ上にマッピングする: ユーザーとアイテムを知識グラフ上にマッピングすることで、ユーザーの興味関心とアイテムの特徴を知識グラフ上で照合することができる。
  3. グラフ上の類似性を利用して推薦する: 知識グラフ上の類似性を計算することで、ユーザーとアイテムの間の関連性を評価することができる。例えば、ユーザーが好きなアイテムと似た特徴を持つアイテムを推薦することが可能となる。
  4. グラフ上でのパス探索に基づく推薦: 知識グラフ上でのパス探索に基づいて、ユーザーとアイテムの間のつながりを把握し、より関連性が高いアイテムを推薦することができる。例えば、映画を観たユーザーに対して、同じ監督の作品や同じ俳優が出演している作品を推薦することが可能となる。

知識グラフを使った推薦は、アイテムの特徴だけでなく、そのアイテムが属するエンティティやエンティティ間の関係性を考慮することができるため、従来の推薦方法よりもより詳細で正確な推薦を行うことが期待されている。

Matrix Factorizationと知識グラフを用いた推薦

Matrix Factorizationと知識グラフは、両方とも推薦システムにおいて広く使用されている手法であり、両方を組み合わせた手法もある。

Matrix Factorizationは、ユーザーとアイテムの間の相互作用をモデル化する手法であり、ユーザーとアイテムの特徴を数値ベクトルで表現し、それらの内積を取ることで、予測評価値を算出することが可能であり、一方、知識グラフは、エンティティ間の関係性を表現するグラフで、グラフ上でのエンティティの距離や類似性を計算することで、関連性を評価することができる。

これら2つの手法を組み合わせた手法として、知識グラフ上でのエンティティの埋め込み表現を用いたMatrix Factorizationがある。この手法では、知識グラフからエンティティの埋め込み表現を取得し、それらを用いてユーザーとアイテムの特徴を表現することが可能となる。これにより、エンティティ間の関係性を考慮しながら、ユーザーとアイテムの予測評価値を算出することができる。

また、知識グラフを用いた推薦では、グラフ上のパス探索に基づいて、ユーザーとアイテムの間のつながりを考慮することができ、例えば、映画を観たユーザーに対して、同じ監督の作品や同じ俳優が出演している作品を推薦することが可能となる。このような手法は、知識グラフを用いた推薦の強みを活かした手法の一つとなっている。

ユーザーとアイテムを知識グラフ上にマッピングする場合、以下のような手順が考えられる。

  1. ユーザーとアイテムの属性の抽出: まず、ユーザーとアイテムの属性を抽出する。これには、ユーザーが視聴した作品や購入した商品などの情報を用いることができる。また、アイテムにはジャンル、監督、俳優などの属性を付与することができ、これらの属性は、知識グラフ上でのエンティティとして表現することができる。
  2. 知識グラフ上でのエンティティの検索: 次に、知識グラフ上でのエンティティを検索する。エンティティの検索には、自然言語処理技術や固有表現認識技術を用いることができ、また、既存の知識グラフを利用することもできる。
  3. ユーザーとアイテムのエンティティの埋め込み表現の取得: ユーザーとアイテムのエンティティを知識グラフ上での埋め込み表現に変換する。これには、グラフ上のパス探索に基づいた手法や、グラフ上の隣接行列を用いた手法がある。
  4. マッピングの実行: 最後に、ユーザーとアイテムの埋め込み表現を用いて、ユーザーとアイテムを知識グラフ上にマッピングする。これにより、知識グラフ上でのエンティティ間の関係性を考慮した推薦が可能となる。

ただし、知識グラフ上でのマッピングにはいくつかの課題があり、例えば、知識グラフに存在しないアイテムやユーザーの場合、エンティティの検索ができないという問題がある。また、知識グラフに存在するエンティティであっても、埋め込み表現を取得する際に、そのエンティティに関する情報が不十分であったり、適切な埋め込み表現を取得できなかったりする場合がある。これらの問題に対処するためには、さまざまな工夫が必要となる。

知識グラフでの推薦技術の課題に対するGNNを用いた解決

知識グラフでの推薦技術における課題に対する解決策は、GNN(グラフニューラルネットワーク)を用いたて以下のように行うことができる。

1. 課題: 知識グラフのスパース性と欠損データ
知識グラフはしばしばスパースであり、関係性が欠落している場合がある。このスパース性や欠損データが推薦システムの性能に悪影響を与える。

GNNによる解決策:
– リンク予測を活用: GNNを使用することで、欠けているリンク(関係)を予測することができる。例えば、ユーザーとアイテムの間の潜在的な関係を学習することが可能で、知識グラフ内の欠損データを補完することができる。
– グラフ埋め込み: GNNは、ノード(ユーザーやアイテム)の埋め込みを学習することができ、この埋め込みを利用して、欠けているリンクを予測する。例えば、ユーザーとアイテムの間にどのような関係が存在するかを予測し、推薦を行うことができる。

2. 課題: 複雑な関係性のモデリング
知識グラフは、ユーザー、アイテム、属性など、複数の種類のノードと、さまざまな種類の関係を持っている。これらの関係性を適切にモデル化し、推薦に活用するのは難しい。

GNNによる解決策:
– 多重関係の扱い: GNNでは、エッジのタイプ(例えば「購入」「レビュー」など)を考慮して異なる重み付けを行うことができる。これにより、異なる種類の関係性をそれぞれ別々に学習し、複雑な関係性を適切にモデル化可能となる。
– 関係ごとの埋め込み学習: 各関係タイプに対して異なる埋め込みを学習することで、関係性の異なるノード間の相互作用を明確に分けて学習することができる。これにより、ユーザーとアイテム間の複雑なインタラクションを効率的に捉えることが可能となる。

3. 課題: 大規模データのスケーラビリティ
知識グラフは、特にNetflixのような大規模なシステムでは非常に大きくなるため、スケーラビリティの問題が生じる。計算資源の制約やデータ量の増大により、効率的に学習や推論を行うのが困難になる。

GNNによる解決策:
– グラフサンプリング: GNNでは、全体のグラフを使用せずに、部分的なサブグラフをサンプリングして学習を行うことが一般的で、これにより、メモリ消費や計算量を削減できる。特に、大規模な知識グラフでは、サンプリングを用いて効率的な学習を行う。
– 分散GNN: グラフのサイズが大きくなると、分散学習を利用して計算負荷を分散させることが有効となる。分散GNNでは、複数の計算ノードでグラフの一部を処理し、並列処理によってスケーラビリティを向上させる。

4. 課題: ユーザーの多様な意図の理解
ユーザーは同じアイテムに対して異なる意図を持つことがあり、その多様性を考慮した推薦を行うのは難しい。例えば、あるユーザーはアイテムを「評価」として好むかもしれないが、別のユーザーは「レビュー」や「シェア」を重視する場合がある。

GNNによる解決策:
– ユーザー埋め込みの細分化: GNNを使って、ユーザーの異なる意図を区別した埋め込みを学習することが可能となる。たとえば、ユーザーの行動履歴を基に、異なる意図(評価、レビュー、購入など)に対応した埋め込みを学習する方法で、これにより、ユーザーの多様なニーズに対応した推薦が可能になる。
– マルチタスク学習: ユーザーの多様な行動を同時に学習するマルチタスク学習をGNNに適用することで、異なるタイプの推薦(商品推薦、レビュー推薦など)を同時に学習し、精度を向上させることができる。

5. 課題: 時系列データの活用
ユーザーの行動やアイテムの評価は時間とともに変化する。これにより、時系列に基づいた推薦を行うことが求められますが、時間的な要素を適切に扱うことは難しい。

GNNによる解決策:
– 時間的なGNN: 時系列の変化を扱うために、時間を考慮したGNN(例えば、Temporal Graph Neural Networks)を使用する。これにより、ユーザーの行動が時間的にどのように変化するかをモデル化し、リアルタイムで適切な推薦を行うことができる。
– 動的グラフ: 知識グラフが時間的に変化する場合、動的グラフGNNを使用して、時間の経過とともに変化する関係性を学習することができる。これにより、時間的な変化に基づく推薦が可能になる。

GNNを活用することで、知識グラフにおける推薦技術の課題(スパース性、関係性の複雑さ、スケーラビリティ、多様なユーザー意図、時系列データ)に対して効果的に対処することができ、リンク予測、埋め込み学習、サンプリング、マルチタスク学習、動的グラフなどの手法を活用することで、より精度の高い、柔軟でスケーラブルな推薦システムを構築することが可能となる。

実装例

GNN(グラフニューラルネットワーク)を使った知識グラフでの推薦技術の実装例を以下に示す。この例では、PyTorch Geometric(PyG)ライブラリを使用し、簡単な知識グラフを用いてGNNモデルを構築し、リンク予測を行う方法を紹介している。リンク予測は、欠損している関係を予測するタスクで、推薦システムにおいてユーザーとアイテムの関係を予測するのに役立つ。

1. 必要なライブラリのインストール: まず、PyTorch Geometricをインストールする必要がある。以下のコマンドでインストールする。

pip install torch torchvision torchaudio
pip install torch-geometric

2. 簡単な知識グラフの作成: 知識グラフは、ユーザー(user)、アイテム(item)、そしてそれらを結びつける関係(purchased)から構成されている。この例では、簡単な知識グラフを作成している。

import torch
from torch_geometric.data import Data

# ノード情報
nodes = torch.tensor([0, 1, 2, 3])  # 0: user1, 1: user2, 2: item1, 3: item2

# エッジ情報 (ノード間の接続)
edges = torch.tensor([
    [0, 2],  # user1 -> item1
    [1, 3],  # user2 -> item2
    [0, 3],  # user1 -> item2
    [1, 2],  # user2 -> item1
]).t().contiguous()

# エッジの特徴(関係情報)
edge_attr = torch.tensor([1, 1, 1, 1], dtype=torch.float)  # '1' は purchased 関係

# グラフデータを作成
data = Data(x=torch.ones((4, 1)), edge_index=edges, edge_attr=edge_attr)

print(data)

3. GNNモデルの定義: 次に、簡単なGNNモデルを定義する。このモデルは、ノードの特徴を埋め込むために、Graph Convolutional Network(GCN)レイヤーを使用している。

import torch.nn as nn
import torch.nn.functional as F
from torch_geometric.nn import GCNConv

class GNNRecommender(nn.Module):
    def __init__(self, in_channels, hidden_channels, out_channels):
        super(GNNRecommender, self).__init__()
        self.conv1 = GCNConv(in_channels, hidden_channels)
        self.conv2 = GCNConv(hidden_channels, out_channels)

    def forward(self, data):
        x, edge_index, edge_attr = data.x, data.edge_index, data.edge_attr
        x = F.relu(self.conv1(x, edge_index, edge_attr))
        x = self.conv2(x, edge_index, edge_attr)
        return x

# モデルの定義
model = GNNRecommender(in_channels=1, hidden_channels=16, out_channels=2)

4. モデルの訓練: 次に、モデルを訓練していく。リンク予測を行うため、損失関数としてバイナリクロスエントロピーを使用し、訓練データを基にパラメータを最適化する。

import torch.optim as optim
from torch_geometric.data import DataLoader

# 最適化のための設定
optimizer = optim.Adam(model.parameters(), lr=0.01)
loss_fn = nn.BCEWithLogitsLoss()

# 訓練関数
def train(model, data):
    model.train()
    optimizer.zero_grad()
    out = model(data)
    
    # リンク予測のため、エッジの間で予測を行う
    pred = out[data.edge_index[0]] * out[data.edge_index[1]]
    loss = loss_fn(pred, data.edge_attr)
    
    loss.backward()
    optimizer.step()
    return loss.item()

# 訓練の実行
for epoch in range(100):
    loss = train(model, data)
    print(f"Epoch {epoch+1}, Loss: {loss:.4f}")

5. 推薦結果の取得: 訓練後、モデルを使って、推薦結果を得ることができる。ここでは、特定のユーザーに対するアイテム推薦を行っている。

def recommend(model, data, user_index):
    model.eval()
    with torch.no_grad():
        out = model(data)
        user_embedding = out[user_index]  # 特定のユーザーの埋め込み
        item_embeddings = out[2:]  # アイテムの埋め込み(ノード2以降)
        
        # ユーザーとアイテムの類似度を計算(コサイン類似度)
        similarities = torch.matmul(user_embedding, item_embeddings.t())
        recommended_items = torch.argsort(similarities, descending=True)
        
    return recommended_items

# ユーザー1に対するアイテム推薦
recommended_items = recommend(model, data, user_index=0)
print(f"Recommended items for user 1: {recommended_items}")

6. 結果: この例では、GNNを使ってユーザーにアイテムを推薦するシステムを構築している。訓練後、ユーザー1に対する推薦アイテムが出力される。

実装の説明

  • データ準備: 知識グラフのノード(ユーザー、アイテム)とエッジ(関係)を作成した。Dataクラスを使って、PyGの形式でグラフデータを準備する。
  • GNNモデル: GCNConvレイヤーを使って、ユーザーとアイテムの特徴を埋め込み、関係性を学習する。
  • 訓練: バイナリクロスエントロピー損失を使用して、リンク予測の訓練を行う。
  • 推薦: 訓練後、ユーザーとアイテムの埋め込みを使って、ユーザーに最も適したアイテムを推薦する。
参考図書

知識グラフを用いた推薦システムに関しては、以下のリンクを参照のこと。

ナレッジグラフを使った解釈可能な推薦システム
The English version is available here.こんにちは。メルカリで 8 月から機械学習エンジニアのインターンをしている @joisino_ です。インターンでは、ナレッジグラフを使った推薦システムをメルカリの

GNN(グラフニューラルネットワーク)を用いた知識グラフでの推薦技術に関する参考図書について以下に述べる。

1. Graph Representation Learning’ by William L. Hamilton
– 概要: GNNとグラフ表現学習に関する包括的なガイドブック。知識グラフに関連する技術を基盤にして、GNNの基本的な理論から、実際の問題にどう応用するかについて解説している。
– 内容: GNNの基本概念、アルゴリズム、実装方法、推薦システムへの応用に焦点を当てている。

2. “Deep Learning on Graphs” by Yao Ma and Jure Leskovec
– 概要: グラフに基づく深層学習技術、特にGNNを用いたモデルの設計と応用について解説している。推薦システムや知識グラフへの適用方法についても触れている。
– 内容: GNNの理論から始め、具体的なアプリケーションやケーススタディに基づく実装例を紹介している。

3. “Recommender Systems: The Collaborative Filtering Approach” by Paolo Cremonesi, Yehuda Koren, Roberto Turrin
– 概要: 推薦システム全般についての理論書で、特にコラボレーティブフィルタリングの手法に重点を置いている。GNNを用いた推薦技術に関しては、他の書籍と組み合わせて学ぶことをお勧め。
– 内容: 推薦システムの基礎から発展的な技術までカバーしており、GNNと合わせて理解するための基盤となる。

4. “Graph Neural Networks: A Review of Methods and Applications” by Zonghan Wu, Shirui Pan, et al.
– 概要: GNNに関する詳細なレビュー論文で、グラフベースのデータ分析や推薦システムの実装における最先端技術を紹介している。
– 内容: GNNのアーキテクチャ、応用分野、そして推奨システムにおける使用事例について包括的に学ぶことができる。

5. “Hands-On Graph Neural Networks: Build and train GNNs with Python and TensorFlow” by Ankit Jain
– 概要: 実践的なGNNの実装を学べる書籍で、知識グラフや推薦システムにGNNを応用する方法が具体的に紹介されている。
– 内容: PythonとTensorFlowを使用して、GNNのモデルを実際に実装する手順を学びながら、推薦システムの開発方法も理解できる。

6. “Graph-Based Semi-Supervised Learning” by Xiaoyang Li, Wei Wu
– 概要: セミスーパーバイズド学習におけるグラフの利用方法を解説した書籍で、GNNとともに知識グラフや推薦システムの発展についても触れています。
– 内容: 半教師あり学習やグラフベースの手法を推薦システムに応用する際に参考になる内容が豊富。

コメント

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