棒切り分割プロセス(Stick-breaking Process)の概要
棒切り分割プロセス (Stick-breaking Process) は、”ディリクレ過程(Dirichlet Process, DP)の概要とアルゴリズム及び実装例について“でも述べているディリクレ過程 (Dirichlet Process, DP) を直感的に理解するための代表的な手法で、長さ1の棒を無限に繰り返しランダムに分割して、無限次元の確率分布を生成するアプローチとなる。これは、ディリクレ過程の離散的な確率測度を構成するための視覚的かつ数学的に美しい方法となっている。
プロセスの流れは以下のようになる。
- 最初の棒を折る
- 棒全体の長さを1とする。
- 最初に、確率変数\(v_i\)を\(Beta(1,\alpha)\)からサンプルする:\(v_1\sim Beta(1,\alpha)\)
- 最初のクラスタに割り当てる重みを決める:\(\pi_1=v_1\)
- 次の棒を折る
- 次の重みは、残った棒 (長さ\(1-v1\)の一部として与えられる:\(v_2\sim Beta(1,\alpha)\)、\(\pi_2=(1-v_1)v_2\)
- これを無限に繰り返す
- \(k\)番目の重みは以下で与えられる。:\(\pi_k=v_k\prod_{j=1}^{k-1}(1-v_j)\)
- \(v_k\)は全て独立に \(Beta(1,\alpha)\)に従う。
- 最終的な分布
- 重みの総和は1に収束する。重み\(\pi_k\)はは無限に続くが、次第に小さくなるため、実質的には有限個のクラスタに大きな重みが集中する。
直感的な理解としては以下のようなものとなる。
- 大きいものから順に割っていくイメージ:棒を一度にすべて等分するのではなく、最初に大きめに割り、残りをまた割る。その結果、いくつかの大きなクラスタと多数の小さなクラスタが自然に生まれる。
- 無限に割るのに、実質有限のものしか出てこない:実際には、重みの大半は少数のクラスタに集中するので、現実世界では有限個のクラスタしか目に見えない。
ディリクレ過程との関係は以下のようになる。
- 棒切り分割プロセスは、ディリクレ過程\(DP(\alpha,G_0\)を構成する1つの方法。
- 重み\(\pi_k\)を用いて、以下のようにディリクレ過程の確率測度を表す:\[G=\sum_{k=1}^{\infty}\pi_k\delta_{\theta_k}\]ここで\(\theta_k\)は基底分布\(G_0\)に従うサンプル。\(\delta_{\theta_k}\)は\(\theta_k\)におけるデルタ関数。
応用例
- クラスタリング:無限個のクラスタ候補から、データが実際に属するクラスタを確率的に割り当てる。
- トピックモデル:無限個のトピックから記事に割り当てるトピック数を自動的に決定する。
- HDP (階層的ディリクレ過程):複数のグループ (例:複数の文書) に共通するクラスタ構造を表現する。詳細は”階層的ディリクレ過程 (HDP)の概要とアルゴリズム及び実装例“を参照のこと。
実装例
棒切り分割プロセス (Stick-breaking Process) のPython実装をまとめる。以下はnumpy
を使った基本的な例から、matplotlib
を用いた可視化までをについて述べている。
基本的な棒切り分割プロセスの実装
import numpy as np
# パラメータ α (ディリクレ過程の集中度パラメータ)
alpha = 1.0
# 棒を無限に分割する (現実的には100ステップ程度で打ち切る)
n_clusters = 100
# 棒の長さを記録する配列
weights = np.zeros(n_clusters)
# 棒切り分割プロセス
remaining_stick = 1.0
for k in range(n_clusters):
# Beta(1, α) 分布に従う v_k をサンプル
vk = np.random.beta(1, alpha)
weights[k] = remaining_stick * vk
remaining_stick *= (1 - vk)
# 結果の確認
print("棒切り分割プロセスによるクラスタ重み:")
print(weights)
print("合計:", np.sum(weights)) # おおよそ1になるはず
結果を可視化
import matplotlib.pyplot as plt
# クラスタ重みのプロット
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.bar(range(1, n_clusters + 1), weights)
plt.xlabel('Cluster index')
plt.ylabel('Weight')
plt.title('Stick-breaking Process')
plt.show()
簡単な解説
vk
のサンプリング: 各ステップで\(v_k\sim Beta(1,\alpha)\)を生成し、棒の残り部分をその割合で割る。- クラスタの重み: 各クラスタ\(k\)の重み\(\pi_k\)は:\(\pi_k=v_k\prod_{j=1}^{k-1}(1-v_j)\)
- 打ち切り: 無限次元にはできないため、100クラスタまでで切る。実際には、大きな重みは先頭数個に集中するため、100でも十分。
応用 (ディリクレ過程のサンプル生成): クラスタ重み\(\pi_k\)に基づいてデータを生成することで、ディリクレ過程からサンプルを得ることができる。
# サンプルデータ生成
n_samples = 1000
samples = np.random.choice(np.arange(n_clusters), size=n_samples, p=weights/weights.sum())
# ヒストグラム表示
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.hist(samples, bins=n_clusters, density=True)
plt.title('Samples from Dirichlet Process via Stick-breaking')
plt.xlabel('Cluster index')
plt.ylabel('Frequency')
plt.show()
この実装は以下の応用につながる。
- ベイズ非パラメトリッククラスタリング
- トピックモデル (LDA, HDP)
- 無限混合ガウスモデル
このコードをベースにして、階層的ディリクレ過程 (HDP) やガウス過程との組み合わせも実装可能となる。
適用事例
棒切り分割プロセス (Stick-breaking Process) が使われる実際の応用事例について述べる。
1. トピックモデル (HDP-LDA)
用途:文書集合のクラスタリング
-
- 従来のLDA は事前にトピック数を固定する必要があるが、階層的ディリクレ過程 (HDP) を用いると、トピック数を事前に決める必要がない。
- 棒切り分割プロセスにより、無限個の潜在トピック候補から必要な数だけ自動的に選ばれる。
事例:研究論文のクラスタリングやニュース記事の分類などに応用されている。
具体例:ある研究では、科学論文のデータセットを使い、HDP-LDAにより研究トピックを自動抽出した結果、「機械学習」「計算生物学」「自然言語処理」などのトピックが現れた。新たな研究領域が増えると自動的に新トピックが追加される。
2. 無限混合モデル (Infinite Gaussian Mixture Model, IGMM)
用途:クラスタ数が未知のデータクラスタリング
-
- 通常のガウス混合モデル (GMM) では、クラスタ数\(K\)を事前に設定する必要があるが、IGMMでは設定不要。
- 棒切り分割プロセスにより、必要に応じてクラスタ数が柔軟に増減する。
具体例:顧客データをIGMMでクラスタリングした研究では、顧客の購買パターンに応じてクラスタが自動的に作成され、「一度購入するだけの顧客」「リピーター」「大量購入者」などが発見された。
3. 画像認識 (Nonparametric Bayesian Models)
用途:画像内のオブジェクト分類
-
- 棒切り分割プロセスを含む非パラメトリックベイズ手法を使い、画像内に存在するオブジェクトの種類数を事前に設定せずに認識する。
- 特に、背景が複雑だったり、未知のクラスが含まれる画像セットに対して有効。
具体例:物体検出タスクにおいて、画像内に含まれる車、歩行者、標識などのクラスがデータに応じて自動的に決まる。新しい種類の物体が登場した場合でも、それに合わせて新しいクラスタ (物体クラス) が追加される。
4. 遺伝子発現解析
用途:遺伝子発現データのクラスタリング
-
- 生物学では、遺伝子の発現パターンをグループ化して機能的な共通性を見つけるためにクラスタリングが使われる。
- 棒切り分割プロセスを使えば、遺伝子の発現パターンがどれくらいの種類に分類されるかを事前に設定せずに解析可能。
具体例:HDPを使った研究では、発現量の時系列データをクラスタリングすることで、細胞の発現パターンを自動的にグループ化した。新しい遺伝子群が発見されると自動で新しいクラスタが生成される。
5. レコメンドシステム
用途:ユーザーの好みに基づいたアイテム推薦
-
- 棒切り分割プロセスを活用した非パラメトリックベイズモデルは、ユーザーの嗜好パターンをクラスタリングする際に使われる。
- クラスタ数を事前に決める必要がないため、新しいユーザーや新しいアイテムが追加されても柔軟に対応可能。
具体例:動画配信サービスの研究では、ユーザーの視聴履歴に基づいてクラスタリングを行い、「アクション好き」「ロマンス好き」「ドキュメンタリー好き」などのユーザー群を自動抽出。新しいジャンルが追加されると、そのジャンルに合うクラスタが動的に生成された。
どの事例も、「事前にグループ数を決めずに、自動的に適切なクラスタを見つける」 という棒切り分割プロセスの強みが活かされている。
参考図書
棒切り分割プロセス (Stick-breaking Process) や関連するディリクレ過程 (Dirichlet Process, DP)、階層的ディリクレ過程 (HDP) に関する参考図書について述べる。
基礎から理解するための本
「
「Foundations of Machine Learning (Adaptive Computation and Machine Learning series)」
- 著者:Mehryar Mohri, Afshin Rostamizadeh, Ameet Talwalkar
- 内容:機械学習の基礎から発展的な内容まで網羅。ディリクレ過程や無限混合モデル、棒切り分割プロセスの基礎がしっかり解説されている。
- おすすめポイント:理論と実装のバランスが取れているので、応用のイメージが湧きやすい。
HDPや応用を深く学ぶための本
「Machine Learning: A Probabilistic Perspective」
- 著者:Kevin P. Murphy
- 内容:確率的グラフィカルモデルやベイズ非パラメトリック手法を丁寧に解説。HDP、ディリクレ過程、棒切り分割プロセスの具体例が豊富。
- おすすめポイント:実装例があり、Pythonなどで手を動かしながら学びたい人に最適!
「Pattern Recognition and Machine Learning」
- 著者:Christopher M. Bishop
- 内容:混合モデル、ディリクレ分布、ディリクレ過程、棒切り分割プロセスなどを解説。応用事例が幅広い。
- おすすめポイント:数学的な説明が詳細なので、理論を深く理解したい人にオススメ!
実装と応用に強い本
「Bayesian Analysis with Python」
- 著者:Osvaldo Martin
- 内容:Pythonを使ってベイズ統計を実装する方法を解説。PyMC3を用いたディリクレ過程の実装例や、HDPのモデリングが含まれている。
- おすすめポイント:実際にコードを書きながら棒切り分割プロセスを学びたいならこれ
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