Bron-Kerbosh法の概要とアルゴリズム及び実装例

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Bron-Kerbosh法の概要

Bron–Kerbosch法(ブロン・カーボッシュ法)は、無向グラフにおける最大クリーク(最大クリーク集合)を完全に列挙するための再帰的バックトラッキングアルゴリズムであり、1973年に Coen Bron と Joep Kerbosch によって提案され、現在でもクリーク探索の標準的手法として広く使われているものとなる。

クリーク(Clique)とは、与えられた無向グラフの部分グラフのうち、すべての頂点が互いに隣接しているような完全グラフで構成される部分集合を指し、その中でも、最大クリーク(Maximal Clique)は、それ以上ノードを追加するとクリークではなくなってしまうような、他の頂点を加えることができない極大なクリークを意味する。

このアルゴリズムは、単一の最大クリークを求めるのではなく、グラフ中に存在する
「すべての最大クリークを列挙する」ことを目的としている。複数の最大クリークは同時に存在し得るため、各クリークの構造や分布を把握することで、グラフ全体の特徴やクラスタ構造を詳細に理解することが可能になるのである。

最大クリークを効率よく列挙するためのアルゴリズムとして、Bron–Kerbosch アルゴリズムが広く用いられている。これは、再帰的なバックトラッキング探索に基づいており、以下の3つの集合を管理しながら探索を進めるものとなる。

  • R:現在構築中のクリーク(部分解)

  • P:今後追加可能な頂点(候補集合)

  • X:すでに探索済みで除外する頂点(重複防止用)

Bron–Kerbosch法は、この3つの集合を操作しながら、部分的なクリークを拡張し、最大クリークに到達した時点で出力するものとなる。

Bron–Kerbosch アルゴリズムの擬似コードは以下のようになる。

BronKerbosch(R, P, X):
    if P と X がともに空なら:
        出力: R は最大クリーク
    for each v in P:
        BronKerbosch(R ∪ {v}, P ∩ N(v), X ∩ N(v))
        P ← P \ {v}
        X ← X ∪ {v}

ここで、N(v) は頂点 v の隣接頂点集合を表す。PX も空になったとき、これ以上頂点を追加できないため、R は最大クリークと判定される。

このアルゴリズムの最悪計算量は Moon–Moser の結果に基づき、\(O(3^{n/3})\)とされており、これはグラフに存在し得る最大クリークの数に比例する。

実用上は、ピボット選択(Pivoting)を導入することで、探索空間を削減し、無駄な再帰を防止し、これにより、探索の指数基数が大幅に改善され、実データに対して高速な動作が可能となる。

この改良版は「Bron–Kerbosch with pivoting」として知られ、最大クリーク列挙における実用的な標準手法となっている。

最大クリーク(Maximal Clique)を列挙するためのBron–Kerbosch法は、さまざまなプログラミング言語とグラフ処理ライブラリで実装されている。以下に主要な言語ごとの代表的なライブラリと関数について述べる。

Python:NetworkX

  • ライブラリnetworkx

  • 関数find_cliques()

  • 特徴:Bron–Kerboschアルゴリズムに基づいており、与えられたグラフから全ての最大クリークを列挙する機能を提供します。

  • 使い方の例

import networkx as nx
G = nx.Graph()
G.add_edges_from([(1, 2), (2, 3), (1, 3), (3, 4)])
cliques = list(nx.find_cliques(G))
C++:Boost Graph Library (BGL)
  • ライブラリ:Boost Graph Library

  • 関数bron_kerbosch_all_cliques() など

  • 特徴:テンプレートベースで柔軟に使えるグラフライブラリ。全クリーク列挙にも対応しており、大規模なグラフにも高パフォーマンスで対応可能。

Java:JGraphT

  • ライブラリ:JGraphT

  • クラス名BronKerboschCliqueFinder

  • 特徴:オブジェクト指向的な設計の中で、Bron–Kerbosch アルゴリズムを直接利用可能。クリークを1件ずつイテレータで取得するスタイルも提供。

R:igraph

  • ライブラリigraph

  • 関数

    • cliques():すべてのクリーク(最大とは限らない)を列挙

    • max_cliques():すべての最大クリークを列挙

  • 特徴:視覚化と統計解析に強く、ネットワーク分析のプロトタイピングに適しています。

これらのライブラリは、学術的な研究から実務的なネットワーク分析まで幅広く利用されており、最大クリーク列挙を迅速に行うための強力なツール群となっている。

関連するアルゴリズム

以下にBron–Kerbosch法に関連するアルゴリズムについて述べる。

1. 【クリーク列挙・探索系】(Bron–Kerboschの直接的改良・類似手法)

アルゴリズム名 概要 特徴・備考
Bron–Kerbosch(1973) 最大クリークの全列挙 再帰的バックトラッキング、元祖
Bron–Kerbosch with Pivoting 探索空間の剪定を導入 実行速度大幅改善(Tomita など)
Tomita法(2006) 高速なピボット選択+順序付き探索 実用では最速級、O(3^{n/3})
Eppstein–Löffler–Strash (2010) スパースグラフ用の最適列挙法 実行件数に比例する Output-sensitive complexity
Makino–Uno(2004) クリーク全列挙で次数を利用 出力件数に線形時間で比例:O(3^{n/3}) 近似
Recursive Backtracking + Degeneracy Ordering 頂点次数による探索順序制御 小規模・スパースグラフに効果的

2. 【最大クリーク問題(1つのみを求める最適化)】

Bron–Kerbosch はすべての極大クリークを列挙しますが、最大サイズのクリーク1つを求める最適化問題(NP困難)もよく扱われる。

アルゴリズム名 概要 備考
Carraghan–Pardalos (1990) 分枝限定法で最大クリークを探索 小〜中規模に高速
Balas–Yu Algorithm ILPベース 最大クリーク問題を整数計画に変換
Robson’s Algorithm (1986) 理論上最速の最大クリーク探索 O(1.1888ⁿ)(実用性は低)
BBMC (BitSet Branch and Bound) ビット演算による枝刈り高速化 大規模でも動作可能

3. 【関連問題:クリークと双対の関係にある問題】

問題 クリークとの関係 関連アルゴリズム例
独立集合列挙 補グラフ上のクリーク クリーク探索アルゴリズムを補グラフに適用
団被覆問題(clique cover) 頂点集合をクリークに分割 NP困難、近似アルゴリズムあり
グラフ彩色問題 団被覆の双対問題 クリークサイズが彩色数の下限になる
最大密度部分グラフ 完全連結でないクラスター抽出 クリークより緩やかに構造を定義する

4. 【応用・特殊ケース対応アルゴリズム】

アルゴリズム 用途 対応構造
k-core クリーク列挙 疎グラフでクリーク候補を事前に絞る k-core プルーニング
Colored Clique Algorithms 属性付き頂点グラフでのクリーク列挙 ラベル一致制約を加える
Parallel Bron–Kerbosch 並列環境でのクリーク列挙 GPU/分散処理実装あり
応用実装例

以下に、Bron–Kerbosch法の応用実装例について述べる。ここでは Python の networkx を用いて、無向グラフ中の「極大クリーク(maximal cliques)」を列挙する実装を行い、その応用例としてソーシャルネットワーク中の緊密なグループの検出を取り上げる。

実装例:最大クリークの列挙(Bron–Kerbosch法)

import networkx as nx

# グラフ作成:ソーシャルネットワーク風
G = nx.Graph()
G.add_edges_from([
    ("Alice", "Bob"),
    ("Alice", "Charlie"),
    ("Bob", "Charlie"),    # クリーク1(Alice, Bob, Charlie)

    ("Charlie", "Diana"),
    ("Diana", "Eve"),
    ("Charlie", "Eve"),    # クリーク2(Charlie, Diana, Eve)

    ("Frank", "George"),   # クリーク3(Frank, George)
])

# Bron–Kerbosch による最大クリーク列挙
cliques = list(nx.find_cliques(G))

# 出力
print("極大クリーク一覧:")
for i, clique in enumerate(cliques, 1):
    print(f"{i}: {clique}")

出力例:

極大クリーク一覧:
1: ['Alice', 'Bob', 'Charlie']
2: ['Charlie', 'Diana', 'Eve']
3: ['Frank', 'George']

応用:緊密なコミュニティ検出(SNS・共同研究など)

  • クリーク構造は、すべての参加者が互いに直接つながっているグループを示すため、ソーシャルネットワーク内の「強い絆を持つ小集団」を抽出できる。

  • 会話頻度や共同作業ログから生成したグラフに対しクリーク検出を行えば、「親密なグループ」や「クラスター」の抽出が可能となる。

クリークのフィルタリング:サイズ条件の追加

# クリークサイズが3以上のものだけ抽出
large_cliques = [c for c in cliques if len(c) >= 3]
print("サイズ ≥3 のクリーク:")
for clique in large_cliques:
print(clique)

これらを使った応用シナリオとしては以下のようなものがある。

分野 応用 クリークの意味
ソーシャルネットワーク 親密なグループ発見 全員が直接知人
化学構造解析 完全結合した原子集合 環状構造や芳香族基
バイオインフォマティクス 遺伝子・タンパク質間の密結合群 複合体・機能モジュール
コラボレーション分析 共著者の研究クラスタ 共著関係の強固な集合
コンピュータビジョン グラフマッチングの候補評価 整合な対応候補の組
スケジューリング 相互依存タスクの把握 競合排他グループの抽出
具体的な適用事例

以下に、Bron–Kerbosch法の分野別の具体的な適用事例について述べる。

1. ソーシャルネットワーク分析(SNA)

応用内容:

    • ユーザー間の「相互フォロー」や「相互メッセージ交換」からグラフを構築

    • Bron–Kerbosch法で「全員が互いに知っているサブグループ」を抽出

事例:

    • Facebook や LINE 内での「リアルな親密グループ」の抽出

    • 企業内SNSの分析により、非公式なコミュニティや意思決定グループを特定

2. バイオインフォマティクス(生物ネットワーク)

応用内容:

    • タンパク質相互作用ネットワーク(PPI)における「高密度な相互作用サブグラフ」の検出

    • クリークは「タンパク質複合体」や「機能モジュール」を表すと考えられる

事例:

    • STRINGデータベースなどからPPIネットワークを作成し、Bron–Kerbosch法で複合体候補を探索

    • Gene Ontologyアノテーションとの照合による機能同定

3. 化学構造解析(分子グラフ)

応用内容:

    • 分子内の原子・結合をノード・エッジとするグラフに対して、完全に接続された部分(クリーク)を検出

    • 「芳香環」「環状構造」「官能基の中核」などの候補として活用

事例:

    • SMILES 形式や MOL ファイルをパースして分子構造グラフを作成し、クリークとして構造基を抽出

    • 薬物候補の類似検索における共通構造スクリーニング

4. 論文共著ネットワーク・コラボレーション分析

応用内容:

    • 研究者をノード、共著関係をエッジとしたグラフから「強固な研究グループ」を抽出

    • 各クリークは、全員が共著した論文群に対応

事例:

    • arXivやDBLPから取得した共著ネットワークで、「3人以上の全員共著者」クリークを抽出

    • 大学・企業の研究チーム内のコアメンバーの抽出や機関間協力構造の可視化

5. ゲーム・コンピュータビジョン(グラフマッチング)

応用内容:

    • 画像内特徴点の対応付けにおいて、「一貫性のある特徴点のセット」をクリークとして探索

    • グラフマッチング問題で、一致する候補ペア間にエッジを張る

事例:

    • 3D復元や画像間対応付けにおける「整合性あるマッチ集合」をクリーク探索で特定

    • 「整合対応点クラスタ」の列挙でマッチング精度を向上

6. 知識グラフ・因果ネットワーク

応用内容:

    • ノード=概念、エッジ=強い意味的/因果的関係とみなし、完全結合サブグラフを抽出

    • 「密な因果関係を持つ概念群」「トピックのコアクラスタ」を特定

事例:

    • 科学論文から抽出した概念ネットワークに対し、クリーク列挙 → ドメイン内の強結合知識群を発見

    • ChatGPTなどのLLMによる応答解釈ネットワークから、強い理由付けの中核構造を抽出

7. 最適化・スケジューリング(競合タスクの検出)

応用内容:

    • 相互に競合(例:同時使用不可)のタスク同士にエッジを張り、クリークとして「同時に扱えないグループ」を列挙

事例:

    • CPUやGPUの割当てで、「全員がリソースを競合する」最大グループを事前抽出し、競合制約の事前分析に利用

参考文献

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