半導体製造技術の概要とAI技術の適用について

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半導体製造技術について

前回”コンピューターを構成する計算要素と半導体チップについて“にてコンピューターの心臓部といえるCPUの集積回路は、以下のようなトランジスタを大量に実装したものであることを述べた。

また”半導体の設計とAIおよびAI用チップについて“ではそれら半導体チップの設計とAI用の半導体チップについて述べている。今回は、主にそれらの製造技術について述べる。

半導体製造は、大きく分けると「前工程」「後工程」の2つに区分される。前工程はウエハ製造洗浄工程成膜工程リソグラフィ工程エッチング工程不純物拡散工程等があり、後工程には、ダイシング工程マウント工程ボンディング工程モールド工程マーキング工程バンプ加工工程パッケージング工程等がある。

以下それらの工程を追っていく。

Si基板(ウェハ)はシリコンインゴット(上図の左下)と呼ばれる純度の高い結晶で作られた棒を切断、研磨することで作成される。シリコンインゴットは珪石(一般的な岩石)から不純物を取り除き98%の純度の金属シリコンを作り、そこから純度が99.999999999%(イレブンナイン)の多結晶シリコン(結晶方位がランダムな微小結晶の集合体)を作る。この多結晶をるつぼの中で高音(1420℃)で溶解し、その溶解した液の中に種結晶を浸してゆっくり引き上げることで形成される(チョクラルスキー(CZ)法と呼ばれる)。

このインゴットは非常に硬いため、特殊なダイヤモンドブレード等で1枚1枚のウェハに分離する。この技術には高度なノウハウが必要で、”エンジェルボール“の舞台となった広島県の呉市で創業されたDISCO社が世界で70%のシェアを持つ。このウェハはその後研磨された後製品として出荷される(ウェハのサイズは200mm〜450mmで厚さが0.2mm〜1.0mmとなる)。

  • 洗浄工程: 半導体工程は、非常に清浄な環境を必要とする。したがって処理前後でウェハを洗って汚れをきれいに取り除く工程を何度も繰り返す。この汚れには、ゴミ(最も清浄なクラスで0.1μmの大きさの粒子が1立方フィート中に10個程度)、金属汚染(作業する人から出る汗に含まれるNa分子や工場内で使っている薬品に含まれる微量な重金属原子等)、有機汚染(作業する人の体からでる炭素やウェハプロセスに用いる薬品に含まれる微量な炭素など)、油脂(作業する人や製造装置から出る油分)などある。

洗浄を取り除く装置として、最も普及しているのがウェット洗浄で、薬品の入った槽や純水の入った槽が並んで、それぞれの槽にウェハを順次浸し、汚染物を溶かし、中和して洗い流した後に乾燥させるものとなる。この装置は日本のSCREENが42%、東京エレクトロンが25%のシェアを持っているウェハ製造と同様に特殊なノウハウが必要となる装置となる。

  • 成膜工程 : Siウェハ上にLSIをつくるとき、それを構成するトランジスタ素子構造上での電気的分離(絶縁膜)や配線(金属配線膜)の形成には、それぞれの素材となる酸化シリコンやアルミニウムなどの層(膜)を作る必要がある。成膜の方法は大きく分けて以下の3つとなる。

熱酸化法(半導体の表面から内部にかけて酸素(O2)や水蒸気(H20)などのガスが入った高温炉を使って、基盤のシリコンと酸素を反応させて、ニ酸化シリコン(SiO2)を形成する)

スパッタ法(反応器内を真空にして不活性ガス(Arなど)を流し、薄膜形成の原料となる材料板に、不活性ガスをイオン化して高エネルギー化してぶつける。このときに叩かれて飛び出してくる原子をウェハ表面に付着させる成膜法)

CVD法(Chemical Vapor Deposition:反応器内で、ウェハと付着させようとする減量ガスの化学反応により所望の膜をウェハ表面に堆積していく方法。化学触媒反応を促進する方法によって熱エネルギー利用の熱CVD、プラズマエネルギー利用のプラズマCVD、光利用の光CVDなどがある。)

  • リソグラフィ工程 : リソグラフィとは、シリコンウェハや成膜された薄膜を加工するための写真触媒工程を指す。大きな流れとしてはシリコンウェハや成膜した薄膜を、感光剤塗布、露光、現像、エッチングなどの写真製版応用の加工技術を経て、半導体素子用微細パターンを形成するものとなる。

このリソグラフィの微細化の優劣が半導体製造技術の優劣を左右している。それは微細加工することで1枚のウェハ内により多くの素子を詰め込むことができるため、コスト削減に大きく寄与するとともに、消費電力の側面から考えても、微細加工することでトランジスタのサイズを小さくすることでスイッチング時に移動する電荷を少なくすることができ誘電損失を減らせられるとともに、配線も短くすることができるため抵抗損失も減らせ、全体の損失(誘電損失抵抗損失)を大幅に減らせれるという省消費電力という観点でも利点となり、チップ製造の上で大きなアドバンテージとなっているのである。

このように微細化と共に半導体の性能が上がっていくというトレンドはムーアの法則(18ケ月サイクルで微細化が進み一枚のウェハから取れるチップが倍になる)と呼ばれていた。しかしながら、例えば現在の最先端プロセスの目標値である2nmの微細化を考えると、原子一個のサイズが約0.1nmであるため、原子を20個詰め込んだ構造で物理的な制御が困難となり実現のハードルは非常に高くなる。

このリソグラフィ技術の中でも重要な位置を占めるのが、マスクパターンをウェハに転写・焼き付けする露光技術となる。初期の露光器はウェハとマスクが1対1で、ウェハ全面に一度の露光でパターンを形成していたのに対して、微細化により1対1のマスクを作ることが困難となり、光学系を使ってマスクのパターンを縮小して露光するアプローチに変わり、さらにそれらの縮小した露光はウェハ上の特定の領域を露光しながら露光範囲を移動して全面を露光する方式ーと変わっていった(そのような露光器をステッパーと呼ぶ)。

光は波であり、細かなパターンを形成するにはより短い波長の光が必要となっており、現在ではArFエキシマレーザ(波長193nm)や、EUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外線)などの光源を用いており、

さらにウェハとレンズの間を液体で満たし投影レンズの開口数NAを大きくして解像度を上げるなどの工夫がとられている。

  • エッチング工程 : リソグラフィー工程でパターン形成したものから、薬品やイオンの化学反応(腐食作用)を用いて余分な領域を除去して形成する工程をエッチング工程と呼ぶ。

薬品を用いるウェットエッチング技術では、使用する薬品も比較的安価で、一度に数十枚の同時処理が可能などの生産性の高さというメリットを持っていたため多く使われてきたが、ウェットエッチングは、腐食が等方性(どの方向にも同じだけ腐食が進む)という特徴を持っといたため、マスクの下の横方向にもエッチングが進行し、エッチングの厚さ方向が外周から細ってしまい、微細なパターンの加工ができないという課題も持っていた。

これに対して、薬品を使わず、イオンなどをぶつけてマスクされていない部分を削り取る手法が用いられるようになった。これをドライエッチングと呼ぶ。ドライエッチングは異方性(一つの方向のみパターン形成が進む)を持った制御が可能であり、現在のLSIの主流はほとんどこのドライエッチングとなっている。

  • 不純物拡散工程 : 半導体中の電子の挙動を制御するため、半導体中に不純物を添加する技術が用いられる。例えば周期律表Si(シリコン)の左と右にそれぞれあるB(ボロン)P(リン)はSiと比べると自由電子が一つ少ない/多い原子となっており、これを適量Siの中に添加すると半導体の電気的挙動を大きく制御することができる。

この工程は、下図に示すように、拡散イオン注入などの手法でマスクパターンされたウェハに不純物を打ち込み、マスクを取り除いた後に、熱処理などで不純物を深く均一に拡散させることにより実現している。

以上のように半導体チップは非常に複雑な工程を経て形成されることとなる。最後にこの半導体製造技術に対してAI技術がどのように適用されるかについて述べる。

半導体製造技術へのAI技術の適用

半導体製造技術において、AI技術の適用事例としては以下のようなものがある

  • 品質管理:AI技術を用いて、製品の品質管理を行うことができる。例えば、半導体の製造工程で発生する画像データを解析して、製品の欠陥を検出することができる。また、AI技術を用いたデータマイニングにより、製品不良の原因を特定し、品質改善につなげることができまる。

これらに対する具体的なアプローチに関しては”画像情報処理技術“、”異常検知と変化検知技術“、”一般的な機械学習とデータ分析“等を参照のこと。

  • 製造プロセスの最適化:AI技術を用いて、製造プロセスを最適化することができる。例えば、製造工程のデータを解析して、製品の不良率を減らすための最適な製造条件を求めることができる。また、AI技術を用いた予測メンテナンスにより、機械の故障を予測し、メンテナンスのスケジュールを最適化することができる。

これらに対する具体的なアプローチに関しては”異常検知と変化検知技術“、”一般的な機械学習とデータ分析“、”ワークフロー&サービス技術“等を参照のこと。

  • 製造工程の自動化:AI技術を用いて、製造工程を自動化することができる。例えば、AI技術を用いたロボット制御により、製造工程の自動化を実現することができる。また、AI技術を用いた自己学習型の制御システムにより、製造プロセスの最適化を自動的に行うことができる。

これらに対する具体的なアプローチとしては”人工知能技術の理論と基本的なアルゴリズム“等を参照のこと。

  • 統合データ管理:AI技術を用いて、製造プロセスで発生する膨大なデータを統合的に管理することができる。例えば、製造工程のデータを解析して、製品の品質管理、製造プロセスの最適化、製造工程の自動化などに活用することができる。また、AI技術を用いたビッグデータ解析により、製品開発や市場動向の分析に活用することができる。

これらに対する具体的なアプローチとしては”センサーデータ&IOT技術“、”時系列データ解析“、”データストリーム(時系列データ)の機械学習とシステムアーキテクチャ“等を参照のこと。

これらのように、半導体製造技術においては、AI技術の適用により、品質管理や製造プロセスの最適化、製造工程の自動化、統合データ管理などが実現され、より高度で効率的な製造が可能となる。

コメント

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