ノベンヴァー・ステップスと武満徹とミュージック・コンクレート

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ノベンヴァー・ステップス

「November Steps」(ノヴェンバー・ステップス)は、日本の作曲家である武満徹(Tōru Takemitsu)が1967年に作曲した楽曲となる。この作品は、武満徹の代表的な作品の一つであり、その音楽的なスタイルやアプローチを示す重要な作品の一つとされている。

「November Steps」は、西洋のオーケストラと伝統的な日本の雅楽(ががく)楽器を組み合わせた作品であり、雅楽は、日本の伝統的な宮廷音楽で、雅楽楽器には琵琶(びわ)、尺八(しゃくはち)、箏(こと)などが含まれ、武満徹はこれらの楽器を西洋のオーケストラと統合し、新たな音楽的な言語を最初に生み出した音楽家として著名となる。

武満はこの「November Steps」に対して「オーケストラに対して、日本の伝統楽器をいかに自然にブレンドするというようなことが、作曲家のメチエであってはならない。むしろ、琵琶と尺八がさししめす異質の音の領土を、オーケストラに対置することで際立たせるべなのである」(十一月の階梯)と述べている。

この音楽は、一聴してすぐにぴんとくるものではなく、従来のクラッシックの延長線上として頭に入ってこない。そこには、音楽とは何かという問いに対して、音楽を通して思考させようとする側面がある。これは”人工無能が語る禅とブッダぼっど“での十牛図や禅問答のように暗喩で禅を考えさせようとするものと近しいものとなる。

西洋の音楽はCメジャースケールと呼ばれる7つの音(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)で構成されている。

https://deus-ex-machina-ism.com/wp-content/uploads/2023/11/1-Crossroads-Robert-Johnson.mp3?_=1

これに対して日本の多くの伝統的な音階は「ヨナ抜き音階」と呼ばれる4番目と7番目の音がメジャーコードから抜かれた「五音階(ペンタトニック・スケール)」というカテゴリに属するコード進行となる。このペンタトニックコードは”ブルースの歴史とClojureによる自動生成“でも述べたブルースから影響を受けたブルース・スケールと呼ばれるスケールの中にもよく現れるものとなる。

https://deus-ex-machina-ism.com/wp-content/uploads/2023/11/Japanese_Pentatonic_scale_Songs_C_dur_scale_sample.mp3?_=2

また雅楽は、クラッシック音楽で用いられている音の単位、並びとは異なるものとなっている。西洋音楽では、音楽とはメロディ、リズム、ハーモニィの3つの要素に分けられており、それらのバリエーションを組み合わせて作られているものとされているが、武満の音楽はそうした要素があるところもあるが、そうでないところも多々ある。

メロディが聞き取れるところもあれば、一つの音ともう一つの音がとても離れていたり、大きく跳躍していて、メロディに感じられなかったり、いろいろの楽器が入ってきて、ひびきは混沌として、どこをどう捉えたら良いのかわからなくなってくるところもある。

我々の耳に入ってくるメディアを通した多くの音楽は耳障りがよく、リズムがとれ、メロディを口ずさむことができる。しかし、それらは多く耳にするがゆえに、慣れてしまっているだけではないのか、いつしか慣れてしまった型を音楽と思い続けているだけではないのか、という問いかけをこの曲は行っている。

武満の音楽を聴くために、例えば以下のような風景をおも言うがべてみる。「蜘蛛の巣についた水滴が揺れたり、雪がこんこんと降り積もったり、ふと踏んでしまった草がまたゆっくりと起き上がったり、紅葉した葉がひらひらと舞い降りて池に落ち、みなわを作ったりする」このような自然そのもののありようや動きの背景にある音楽として、通常のBGMではないものを考えた時、「November Steps」から流れてくるものがつながって行く。

「結局、私が邦楽器とオーケストラなどによって試みているのは、異なるものを同質化したいという欲求によるものであり、しかしそれは果たしてはならない夢なのである。私は自分の欲求を増幅し深めるために、オーケストラと邦楽を同時に使うというような企てを試みる」(秋についてのことは)

に述べられているように、「November Steps」は、異なる音楽的要素とスタイルを組み合わせ、武満徹の独特なアプローチにより、西洋音楽と日本の伝統的な音楽が対話し、融合し、相互に影響しあう構造となり、自然の景観や季節の変化、日本の文化に触発された武満徹の創造性を示すものとなっている。

「November Steps」は、武満徹の作曲家としての才能と、異なる音楽伝統の融合による革新性を体現した作品として、国際的な評価を受けており、この作品は日本音楽の重要な貢献の一つと見なされ、現代音楽の愛好家や演奏家にとっても重要なレパートリーとされているものとなっている。

武満徹

「November Steps」を作曲した武満 徹(Tōru Takemitsu、1930年10月8日 – 1996年2月20日)は、世界的に有名な日本の現代音楽の作曲家で、彼は20世紀後半における音楽界で重要な存在であり、その音楽は独自のスタイルと国際的な評価を受けた音楽家であった。

武満は、1930年に東京都本郷区駒込で生まれ、太平洋戦争の時代を経て、終戦後に進駐軍のラジオ放送を通して、フランクドビュッシーなど、近代フランスの作曲家の作品に親しむ一方で、横浜アメリカ軍キャンプで働きジャズに接した。やがて音楽家になる決意を固め、清瀬保二に作曲を師事するが、ほとんど独学であった。京華中学校卒業後、1949年東京音楽学校(この年の5月から東京芸術大学作曲科を受験。科目演奏には最も簡単なショパンの「プレリュード」を選び、妹の下駄を突っかけて試験会場に出向いたが、控室で網走から来た熊田という天才少年(後に自殺)と意気投合し、「作曲をするのに学校だの教育だの無関係だろう」との結論に達し、2日目の試験を欠席し、上野の松坂シネマで『二重生活』を観て過ごした。

1950年に、作曲の師である清瀬保二らが開催した「新作曲派協会」第7回作品発表会において、ピアノ曲「2つのレント」を発表して作曲家デビューするが、当時の音楽評論家の山根銀二に「音楽以前である」と新聞紙上で酷評された。傷ついた武満は映画館の暗闇の中で泣いていたという。この最初期の作風はメシアンベルクに強い影響を受けている。

その後、多方面の芸術家が参集して結成された芸術集団「実験工房」の結成メンバーとなり、映画、舞台、ラジオ、テレビなど幅広いジャンルにおいて創作活動を開始する。そして、1962年にNHK教育テレビ『日本の文様』のために作曲した音楽は、ミュジーク・コンクレートの手法で変調された筑前琵琶の音を使用しており、武満にとっては伝統的な邦楽器を使用した初の作品となった。

この頃から武満徹の音楽は、西洋の現代音楽と日本の伝統音楽の要素を組み合わせた独自のスタイルを特徴とし、彼は音の色彩、響き、テクスチャに特に注意を払い、その作品は繊細で抒情的でありながらも抽象的な要素も含むものとなっていった。

そして、1967年に「November Steps」を発表、この作品を契機に武満作品はアメリカ、カナダを中心に海外で多く取り上げられるようになった。その後も1975年にはイェール大学客員教授、1976年と77年にトロントで開催された「ニューミュージック・コンサーツ」ではゲスト作曲家として招かれるなど世界で活躍、1996年に65歳で生涯を終える。

彼の没後、保守的なことで知られるウィーン・フィルによってもその作品は演奏され、その死は、多くの演奏家から惜しまれた。ショット社の公表では、没後武満の作品の演奏回数は1年で1000回を越えている。映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズも、武満を高く評価しており、『ジュラシック・パーク』では尺八を取り入れている。

ミュージック・コンクレート

彼の作曲した音楽のジャンルの一つに「ミュージック・コンクレート」がある。

「ミュージック・コンクレート」(Musique concrète)は、フランスの作曲家ピエール・アンリ・マルトー(Pierre Henry)やピエール・シェフェール(Pierre Schaeffer)によって開拓された電子音楽のジャンルの一つであり、音の録音と編集を通じて音楽を制作する方法論となる。ミュージック・コンクレートの特徴は以下のものになる。

  1. 音の録音:ミュージック・コンクレートでは、日常生活の音や環境音、楽器の音など、実際の音を録音することが一般的で、これらの録音された音の断片は音楽の材料として使用されている。
  2. 音の編集:録音された音は、編集技術を用いて再構築され、組み合わせられ、このプロセスによって、音楽の構造やリズム、テクスチャを作り出すことができる。
  3. 非楽器音楽:ミュージック・コンクレートは、伝統的な楽器演奏に依存しない音楽の形態として広く認識されており、楽譜に基づく音楽制作とは異なり、非楽器音に焦点を当てているものとなる。
  4. 実験的アプローチ:ミュージック・コンクレートのアーティストは、音響の実験と革新を追求し、音楽において新たな可能性を模索し、これはしばしば実験音楽のジャンルと結びつけられている。

コンクリート・ミュージックの代表的な作品には、ピエール・シェフェールとピエール・アンリの「Symphonie pour un homme seul」や、カールハインツ・シュトックハウゼンの「Gesang der Jünglinge」などがあり、このジャンルは、エレクトロニカ、アンビエント音楽、実験音楽など、さまざまな音楽のサブジャンルに影響を与えたと言われている。

近年では、1968年にビートルズが発表したザ・ビートルズ (アルバム)にはミュジーク・コンクレートの曲であるレボリューション9が収録されたり、日本では、文化放送で発表された黛敏郎の手による「ミュージック・コンクレートの為のXYZ」が、国内初のミュジーク・コンクレート作品となっている。

ミュージック・コンクレートは、音の要素に注意を向け、音の微細なニュアンスや質感に集中することで制作される。この周囲の世界に入り、そこでの音を感じ再構成していく行為は、”瞑想と悟り(気づき)と問題解決“で述べている瞑想と気づきの関係にも通じる。

また、禅の実践は「今」に焦点を当て、瞬間の捉え方や「今」に生きることを奨励しているのに対して、ミュージック・コンクリートは音楽の瞬間を探求し、録音された音の断片や音の微細な変化に注意を向け、聞き手に瞬間の美しさや情緒を伝えるために使用される。これらは共に瞬間の捉え方という観点からも近しい。

このように、ミュージック・コンクレートは禅の哲学や宗教との接点があるということができる。禅とミュージック・コンクレートは、音楽の制作と聴取において内省的なアプローチや現実の詳細な観察に共通する要素を持っており、一部のミュージシャンや作曲家は、禅の哲学や実践からインスパイアを受け、それが彼らの音楽に影響を与えている。

コメント

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