ベクトルデータベースの概要について

機械学習技術 人工知能技術 自然言語処理技術 アルゴリズム デジタルトランスフォーメーション技術 ITインフラ技術 数学 プログラミング技術  データベース技術 ICT技術 本ブログのナビ
ベクトルデータベースについて

ベクトルデータベース(Vector Database)は、データベースの一種で、主にベクトルデータを格納し、クエリや検索などの操作をベクトル空間で行うことを目的としたものとなる。

2023年より、ベクトルデータベースに関するマーケティングが盛んに行われ、多数のベクトルデータベースベンダーが現れている。これは特に”GPTの概要とアルゴリズム及び実装例について“でも述べているGPTをベースとしたChatGPTの台頭に影響を受けたもので、
ベクトルデータベースを使用してRAGと呼ばれる構成を組むと、ChatGPTの苦手な最新のニュースや公開されていない情報の扱いなどの弱点を補うことが可能となっているためである。

ベクトルデータベースは、ベクトルの類似性に基づいてデータを検索し、関連するデータを効率的に取得するために設計されている。また、k-NN(k最近傍)などのアルゴリズムを使用して高次元データを検索したり、量子化やパーティショニングなどの技術も使用して、検索パフォーマンスを最適化しているものもある。

今回はこのベクトルデータベースについて述べる。

まず、ベクトルデータベースの特徴としては以下のようになる。

1. ベクトルデータの格納:

ベクトルデータベースは、一般的なRDBMSとは異なり直接リレーション付けを行うような操作はない。その代わりに、数値ベクトルや特徴ベクトルなどのベクトルデータを格納している。これにより、ベクトルの類似性に基づく検索やクエリが可能になる。

2. 類似性検索の高速化:

ベクトルデータベースは、ベクトルの内積や距離などを計算して類似性を評価するため、類似性検索が高速に行える。これは、画像検索、音声検索、自然言語処理などの分野で有用なものとなる。

3. 高次元データの処理:

ベクトルデータベースは、高次元のベクトルデータを効率的に処理できるように設計されており、例えば、特徴抽出された画像やテキストのベクトル表現などが含まれる。

4. 機械学習との統合:

ベクトルデータベースは、機械学習モデルやクラスタリングアルゴリズムなどと組み合わせて利用される。これにより、ベクトルデータのグループ化や分類などが可能になる。

5. 多様な利用分野:

ベクトルデータベースは、画像データベース、音声データベース、テキストデータベース、機械学習の埋め込みデータベースなど、様々な分野で利用されている。

ベクトルデータベースの種類について

以下に現在利用できるベクトルデータベースについて述べる。

1. Faiss: オープンソース、CUDAを介したGPUアクセラレーション、数十億のベクトルをサポート、IVFADC、PQ、HNSWなどの幅広いアルゴリズムオプションを持つなどの特徴がある。

2. Annoy(Approximate Nearest Neighbors Oh Yeah): オープンソース、ベクトル空間の分割に木の森を利用、大規模データのためのメモリマップでファイルをサポートなどの特徴を持つ。

3. NMSLIB(Non-Metric Space Library): オープンソース、Cosine, Jaccard, Levensteinなどの多様な距離尺度をサポート、効率的な検索のために、Hierarchical Navigable Small World(HNSW)グラフを利用、密なデータベクトルと疎なデータベクトルの両方に最適化等の特徴を持つ。

4. Milvus: オープンソース、サブセカンドのレイテンシで最大1000億のベクトルを処理可能、Euclidean、Cosine、Jaccardなどの距離尺度をサポート。IVF_FLAT、IVF_PQ、HNSWなどのインデックスタイプもサポート等の特徴を持つ。

5. Pinecone: 有料、完全に管理されたサービス、組み込みのデータバージョニングとロールバック機能、マルチテナンシーサポート等の特徴を持つ。

6. Zilliz: カスタムプライシング、REST API、基本的な属性検索操作がサポート、クラウドベースでオペレーションのオーバーヘッドなしで拡張性がある等の特徴がある。

7. Qdrant: オープンソース、ローカルとクラウドベースの両方の展開のオプションを持つ。インメモリモードで動作が可能などの特徴を持つ。ベースとしてRustを用いている。

8. Chroma: オープンソース、データベースとアプリケーションのレイヤーが密接に統合された組み込みモードをデフォルトで提供している。便利なPython/JavaScriptインターフェースを提供している等の特徴がある。

9. LanceDB: マルチモーダルデータ(画像、オーディオ、テキスト)に対してネイティブに分散インデックス作成と検索を行うように設計されており、MLのための新しく革新的なカラム型データフォーマットであるLanceデータフォーマットを基盤としている。

10. Vespa: 実績のあるキーワード検索とHNSW上のカスタムベクトル検索を組み合わせて、最も「エンタープライズ対応」なハイブリッド検索機能を提供。

11. Vald: 高度に分散されたアーキテクチャによってマルチモーダルなデータストレージを扱うように設計されており、インデックスのバックアップのような便利な機能も備えている。非常に高速なANN検索アルゴリズムNGT(Neighborhood Graph & Tree)を使用しており、高度に分散されたベクトルインデックスと組み合わせて使用した場合、ANNアルゴリズムとしては最速の部類に入る。

12: ElasticsearchRedisPostgreSQL: それぞれにベトクルデータベースのオプションを持っているが、既存のデータベースは汎用的に設計されているため、データを最も最適な方法で保存したりインデックスを作成したりするわけではなく、その結果、百万単位以上のベクトル検索を含むデータではパフォーマンスが低下する。

これらの中では、LanceDBやChromaが最も登場が新しく、最も古いvespaでも2017年の登場となる。

ベクトルデータベースの適用事例について

以下に、ベクトルデータベースの適用事例について述べる。

1. 画像検索: ベクトルデータベースは、画像をベクトルとして表現して格納することができる。これにより、似たような画像を検索するための高速なクエリが可能となり、例えば、商品画像から同じ商品や似た商品を見つけるために利用される。

2. 自然言語処理 (NLP): テキストデータをベクトルとして表現し、それをデータベースに格納することができる。これにより、意味の類似性に基づいてテキストデータを検索するアプリケーションが可能で、例えば、文書や質問に対する類似の回答を検索する場面で利用される。

3. 音声検索: 音声データもベクトルとして表現でき、ベクトルデータベースを用いて音声の検索や類似性の高い音声の取得が可能となる。これは音声検索エンジンや音声認識アプリケーションで利用される。

4. 位置情報データ: 地理的な位置情報をベクトルとして格納し、位置情報に基づく検索やクエリを行うことができ、例えば、特定の地域内の店舗や施設を検索する場面で利用される。

5. 顔認識: 顔の特徴をベクトルとして表現し、ベクトルデータベースに格納することで、大規模なデータベース内での高速な顔認識が可能となる。これはセキュリティや顔認識システムでの利用例として挙げられる。

6. 商品推薦: ユーザーの購買履歴や行動データをベクトルとして表現し、これを利用して商品の類似性を計算し、個々のユーザーに適した商品を推薦するために利用される。

7. 機械学習: 機械学習モデルの埋め込み表現をベクトルデータベースに格納し、ベクトルデータベースを介して異常検知やクラスタリングを行う。

ベクトルデータベースの実装例について

ベクトルデータベースの実装例として、Milvusによる例を示す。Milvusは、ベクトルデータのストレージ、検索、類似性検索をサポートするデータベースで、機械学習やデータマイニングなどの分野で広く利用されているものとなる。

Milvusのインストール: Milvusを利用するためには、まずMilvusをインストールする必要がある。以下は、Dockerを使用したインストール例となる。

docker pull milvusdb/milvus:latest
docker run -d --name milvus_cpu_0.11.0 -p 19530:19530 -p 19121:19121 milvusdb/milvus:latest

これにより、Milvusが起動し、REST APIやgRPCエンドポイントが利用可能になる。

Milvusへのデータのインポート: Milvusにデータを格納する前に、データをベクトル化しておく必要がある。Milvusでは、ベクトルを float32 型の配列として扱う。

import milvus

# Milvusサーバに接続
client = milvus.Milvus(host='localhost', port='19530')

# ベクトルデータの準備
vectors = [[1.0, 2.0, 3.0], [4.0, 5.0, 6.0], [7.0, 8.0, 9.0]]

# ベクトルデータのインポート
collection_name = 'example_collection'
client.create_collection({'fields': [{'name': 'embedding', 'type': milvus.DataType.FLOAT_VECTOR, 'params': {'dim': 3}}], 'collection_name': collection_name})
client.insert(collection_name, records=vectors)

ベクトル類似性検索の実行: Milvusでは、ベクトルデータに対して類似性検索を実行することができる。

# クエリベクトルの準備
query_vector = [[2.0, 3.0, 4.0]]

# 類似性検索の実行
search_params = {'nprobe': 16}
result = client.search(collection_name, query_vector, top_k=1, params=search_params)
print(result)

この例では、与えられたクエリベクトルに対して最も類似したベクトルを検索している。

これはMilvusの基本的な利用例であり、より複雑な検索やインデックスの操作など、詳細な設定が必要になる。それらは、公式ドキュメントやGitHubリポジトリに記載されている。

ベクトルデータベースの課題と対応策について

ベクトルデータベースも一部の課題に直面しており、それに対処するための対策が考えられている。以下にそれらについて述べる。

1. 次元の呪い(Curse of Dimensionality):

課題: データの次元が増加すると、ベクトル間の距離が均等になり、類似性検索が難しくなる。
対応策: 次元削減技術の導入や、特徴選択による次元の絞り込みを行い、次元の効果的な管理を図る。

2. スケーラビリティの問題:

課題: 大規模なデータセットや高次元データの場合、ベクトルデータベースのクエリ処理が遅くなる。
対応策: インデックスの最適化、分散データベースの導入、クエリの効率的な実行を考慮するなど、スケーラビリティの向上策を検討する。

3. インデックスの効率:

課題: インデックスが大規模なデータセットに対して効率的でない場合、検索性能が低下する。
対応策: インデックス構造や探索アルゴリズムの最適化、適切なパラメータ設定などを行い、検索性能を向上させる。

4. データの更新と削除:

課題: ベクトルデータの更新や削除が難しく、データの変更に対応しにくい。
対応策: 定期的な再索引やインデックスの再構築、適切な更新手法の採用など、データの動的な変更に対処する方法を検討する。

5. セキュリティとプライバシー:

課題: ベクトルデータには敏感な情報が含まれることがあり、セキュリティとプライバシーの懸念が生じる場合がある。
対応策: 暗号化やアクセスコントロールなど、適切なセキュリティ対策を実施してデータの安全性を確保する。

6. ドメイン依存性:

課題: ベクトルデータベースの性能や有効性は、利用されるデータの特性やドメインに依存する。
対応策: 特定のドメインに特化した設定や最適化を行い、ベクトルデータベースをそのドメインに適応させる。

コメント

  1. […] ベクトルデータベースの概要について […]

  2. […] ベクトルデータベースの概要について […]

  3. […] RAGの基本構成は、入力QueryをQuery Encoderでベクトル化し、それと類似のベクトルを持つDocumnetを見つけ、それらを使って応答を生成するもので、Query EncoderとDocumentのベクトル化と、回答の生成に生成系AI(ChatGPT)を用い、ベクトル化したDocumentの格納と類似文書の検索にはベクトルDBを用いるものとなる。それらの機能の中で、生成系AIに関しては”ChatGPTとLangChainの概要及びその利用について“に述べているように、ChatGPTのAPIを用いるかLanChainを用い、データベースに関しては”ベクトルデータベースの概要について“を用いることが一般的となる。今回はそれらを用いた具体的な実装について述べる。 […]

  4. […] 1. 情報検索(Retrieval): RAGは、与えられた質問やコンテキストに関連する情報を検索するための機構を持っている。検索する手法としては”検索技術について“に述べているような様々なアプローチが利用可能だが、近年最も利用されているアプローチとしては、検索対象データを”多言語エンベディングの概要とアルゴリズム及び実装について“でも述べているエンべディングと呼ばれる手法でベクトル化し、”ベクトルデータベースの概要について“で述べているベクトルデータベースに格納、”機械学習における類似度について“で述べているコサイン類似度などの指標を用いて情報を検索する。 […]

  5. […] RAGの基本構成は、入力QueryをQuery Encoderでベクトル化し、それと類似のベクトルを持つDocumnetを見つけ、それらを使って応答を生成するもので、Query EncoderとDocumentのベクトル化と、回答の生成に生成系AI(ChatGPT)を用い、ベクトル化したDocumentの格納と類似文書の検索にはベクトルDBを用いるものとなる。それらの機能の中で、生成系AIに関しては”ChatGPTとLangChainの概要及びその利用について“に述べているように、ChatGPTのAPIを用いるかLanChainを用い、データベースに関しては”ベクトルデータベースの概要について“を用いることが一般的となる。今回はそれらを用いた具体的な実装について述べる。 […]

モバイルバージョンを終了
タイトルとURLをコピーしました