私たちは通常、
意思決定とは、
「正しい答えを選ぶこと」
だと考えています。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
生成AIの発展によって、
複数の提案が生成される。
複数の戦略が存在する。
複数の未来が考えられる。
そんな状況が当たり前になりつつあります。
すると、
「唯一の正解」
という考え方そのものが揺らぎ始めます。
もしかすると、
意思決定とは、
一つの正解を発見することではなく、
数多くの可能性の中から、
一つの未来を実現する行為なのかもしれません。
この視点は、
量子力学そのものを応用する話ではありません。
量子コンピュータの話でもありません。
ここで参考になるのは、
量子力学が持つ
「可能性の重ね合わせ」
という考え方です。
意思決定前には複数の未来が存在している
私たちは、
未来は一つしか存在しないように感じています。
しかし実際には、
重要な意思決定の前には、
常に複数の可能性が存在しています。
転職する。
会社を続ける。
新規事業を始める。
投資する。
見送る。
人間は、
そのどれもが実現し得る状態にあります。
つまり、
意思決定前の世界とは、
一つの未来ではなく、
複数の未来が重なり合った状態なのです。
Decisionとは可能性の収束である
量子力学では、
観測される前の状態は、
一つの確定した状態ではなく、
複数の状態が重ね合わされていると考えます。
そして観測によって、
一つの状態が実現されます。
もちろん人間の意思決定を量子力学で説明するわけではありません。
しかし、
概念的には非常によく似ています。
意思決定前には、
複数の未来が存在する。
意思決定によって、
そのうちの一つが現実になる。
つまり、
Decisionとは、
可能性を収束させるプロセスなのです。
Event Logの限界
現在のシステムは、
ほとんどが Event Log によって記録されています。
何が起きたか。
誰が実行したか。
結果はどうだったか。
しかし、
そこには一つの問題があります。
Event Logに残るのは、
「実際に起きたこと」
だけです。
起きなかった未来は消えてしまいます。
採用されなかった案。
却下された戦略。
議論された選択肢。
検討された可能性。
それらは記録されません。
しかし、
本当に価値があるのは、
「何が起きたか」
だけではなく、
「何が起こり得たのか」
ではないでしょうか。
DTMからPossible World Traceへ
Decision Trace Modelは、
Event
↓
Signal
↓
Decision
↓
Execution
↓
Log
という流れを記録します。
しかし、さらに発展させると、
記録すべきものは、
単なるイベントではなく、
可能性そのものになります。
例えば、
Situation
↓
Possible Futures
↓
Evaluation
↓
Decision
↓
Execution
↓
Outcome
となります。
意思決定とは、
複数の未来を評価し、
一つの未来を選択するプロセスです。
そして、
採用されなかった未来もまた、
重要な知識になります。
DTMは、
単なる Event Log ではなく、
Possible World Trace
へ進化していくのかもしれません。
反実仮想の知識
人間は、
実際に起きたことだけから学ぶわけではありません。
「あの時、別の選択をしていたらどうなっていたか」
を考え続けます。
これを反実仮想(Counterfactual)と呼びます。
企業でも、
別の価格戦略を取っていたら。
別の人を採用していたら。
別の投資をしていたら。
という
「起こらなかった未来」
から学び続けています。
つまり、
経験とは、
実現した未来だけではなく、
実現しなかった未来も含んでいるのです。
ライプニッツと可能世界
17世紀の哲学者ライプニッツは、
可能世界という概念を提唱しました。
神は無数の可能世界の中から、
最善の世界を実現した。
という考えです。
現代の可能世界論理では、
世界は一つではなく、
複数の可能な状態の集合として考えられます。
すると、
意思決定とは、
可能世界の探索であり、
実行とは、
その中の一つを現実へ収束させることになります。
AIは可能世界探索装置になる
現在の生成AIは、
答えを生成するシステムとして使われています。
しかし本質的には、
AIは可能世界を生成するシステムなのかもしれません。
異なる戦略。
異なる解釈。
異なるシナリオ。
異なる未来。
AIは、
一つの正解を出すための装置ではなく、
未来の可能性を探索する装置になりつつあります。
そして、
人間の役割は、
その中から何を実現するかを決めることになります。
Runtime Societyとは未来を選択する社会である
これまで情報社会は、
過去を記録する社会でした。
データを蓄積する。
ログを残す。
知識を保存する。
しかし、
AI時代には、
未来そのものを扱うことが重要になります。
複数の未来を生成する。
可能性を評価する。
目的を調整する。
そして、
どの未来を実現するかを決定する。
もしそうだとすれば、
Runtime Societyとは、
知識を蓄積する社会ではありません。
未来を選択し続ける社会です。
そして、
Decision Trace Modelもまた、
過去の記録装置から、
可能世界を扱う
Possible World Trace
へと進化していくのかもしれません。
そのとき私たちが扱うものは、
「何が起きたか」
ではなく、
「何が起こり得るのか」
になっていくのでしょう。

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