未来のウェブ技術としてのWeb3とWeb 3.0
インターネットは、世界中のコンピューターネットワークが相互に接続されたグローバルなネットワークであり、Web技術はそのインターネット上で情報やコンテンツを発信し、閲覧するための技術となる。つまり、インターネットは情報通信の基盤であり、Web技術はその上で情報を発信し、共有し、閲覧するための具体的なツールと方法を提供するものと言うことができる。
CNBCに掲載されたWeb inventor Tim Berners-Lee wants us to ‘ignore’ Web3では、ポルトガルのリスボンで開催されたイベント「Web Summit 2022」におけるTim Berners-Lee氏の発言を紹介しており、その中でWeb技術の未来の姿であるWeb3とWeb 3.0について述べている。
Web3は、分散型のウェブで、ブロックチェーンや分散台帳技術を中心に構築されたウェブの新しい形態を表わし、Web3は、従来の中央集権的なウェブモデルに対抗するもので、ユーザーが自分のデータとプライバシーをより強力にコントロールし、データの中心化を回避することを目指すものとなる。
これに対して、Web 3.0は、ウェブの3番目の世代を指す。これは技術的には、”セマンティックウェブ技術“で述べているセマンティックWeb、リンクデータ、”オントロジー技術“で述べているOntologyなどのテクノロジーを用いて、ウェブコンテンツとデータを意味論的に結びつけ、検索エンジンやアプリケーションがより効果的に情報を解釈できるようにすることを目指すもので、Web 3.0は、ウェブの情報をより効率的に利用し、知識を結びつけることを可能とした技術となる。
これらを要約すると、情報発信/共有/閲覧としてのWeb技術に対して、Web 3.0はセマンティックWeb技術とデータ意味論の向上に焦点を当てているのに対して、Web3は分散型ウェブの新しいアーキテクチャと哲学を表現し、分散型台帳技術、データの所有権、プライバシーを強調するものであるということができる。両者はウェブの未来において異なる側面を担当し、いくつかの点で重なる部分もあるが、異なる概念となる。
Web3とWeb 3.0の融合
Web3とWeb 3.0は、異なる技術的な方向性を持ちながら、共通の目標に向かって進化しているため、両者の融合についての議論が進んでいる。具体的には以下に示すように、分散型のインフラ上でデータの意味を効率的に理解し、さらにそのデータをユーザー主導で制御する未来のインターネットが考えられている。
- データ主権: Web3がユーザーにデータの所有権を与える一方、Web 3.0のセマンティック技術は、そのデータの意味をより深く理解し、活用できるようにする。これにより、ユーザーが自らのデータを管理し、必要な情報を効果的に取得・提供できるエコシステムが形成される。
- 分散型AIサービス: Web 3.0のAI技術を、Web3の分散型ネットワーク上で動作させることで、ユーザーのプライバシーを守りながらパーソナライズされたサービスが可能になる。たとえば、分散型AIはユーザーのデータを中央集権的なサーバーに送信することなく、ローカルで分析・学習できるようになる。
- スマートコントラクトとセマンティックWeb: Web3のスマートコントラクト技術は、取引や契約を自動化するために利用されるが、これにWeb 3.0のセマンティック技術を組み合わせることで、契約の内容や条件をより豊かに理解し、自動的に処理することが可能になる。
Web3とWeb 3.0を融合する具体例としては、以下のようなものが考えられる。
- 分散型ソーシャルメディアプラットフォーム: Web3のブロックチェーン技術を活用した分散型SNS(例:MastodonやLens Protocol)に、Web 3.0のセマンティック技術を取り入れることで、よりパーソナライズされたフィードやインテリジェントな推奨システムが実現できる。従来のSNSは中央集権的で、アルゴリズムがユーザーのデータを集めて広告に利用することが多いが、これを分散型にすることでプライバシーを守りながら、ユーザーが関心のあるコンテンツをよりスマートに提供可能となる。
具体的な例としては、Web 3.0のセマンティック検索技術により、ユーザーが過去に書いた投稿や他のユーザーとの関係性を意味的に解析し、その内容に基づいて個々のユーザーに最適な新しい投稿やつながりを推奨することようなものが考えられる。
- 分散型データマーケットプレイス: Web3の技術を用いて、Ocean ProtocolやFilecoinなどの分散型データマーケットプレイスにWeb 3.0のセマンティックWeb技術を加えると、データの検索や管理が飛躍的に向上する。これにより、データ提供者と利用者が自分のデータを細かく定義し、意味的な検索が可能となり、データの正確な意味や文脈を理解しながらトレードできる。
具体的な例としては、ヘルスケアデータを利用する場合に、セマンティック技術でデータを分類・分析し、データマーケットプレイスで適切な利用者(研究者や医療機関など)に向けて最適なデータを提供し、データの信頼性や使用の透明性を高めるようなものが考えられる。
- スマートシティのインフラ: スマートシティは、インターネット接続された都市インフラの中でWeb 3.0のAIやセマンティック技術を使用し、都市のデータを効率的に管理するものとなる。これにWeb3のブロックチェーンを加えることで、例えば交通やエネルギーのデータ管理を分散型の方法で行い、都市全体の運営を透明化する。
具体的な例としてはは、IOTAのようなブロックチェーンプロジェクトをスマートシティのインフラに用い、車両やエネルギーの使用データをリアルタイムで収集・処理し、そのデータがプライベートかつ分散型で保管して、Web 3.0の技術でデータを効率的に分析し、都市の管理者がそれを活用して効率的な運営を行うようなものが考えられる。
- 分散型IDと信用スコア: Web3のSelf-Sovereign Identity (SSI)やDecentralized Identifiers (DIDs)は、ユーザーが自分のデジタルIDを所有し管理する技術だが、Web 3.0のセマンティック技術と組み合わせることで、信用スコアやパーソナライズされたサービスをよりスマートに提供することができる。
具体的な例としては、Web 3.0技術を使って、ユーザーの行動や取引履歴、社会的なつながりを意味的に解析し、それに基づいて信用スコアを算出するシステムを構築し、これにより、金融機関や企業が分散型かつプライバシーを守りながら、より精度の高い信用スコアを使ってサービスを提供できるようなものが考えられる。
Web3とWeb 3.0の融合は、ユーザーがデータの所有権を持ち、分散型の環境でスマートにそのデータを活用できる次世代のインターネットを形成する可能性を秘めている。これにより、個人のプライバシー保護とユーザー体験の最適化が両立される新しいWebエコシステムが期待されている。
参考図書
Web3やWeb 3.0に関する学習のための参考図書として、以下のものがある。
1. “The Infinite Machine: How an Army of Crypto-hackers Is Building the Next Internet with Ethereum”
著者: Camila Russo
この本は、Web3の中心技術であるEthereum(イーサリアム)の誕生とその発展について描かれている。Web3の分散型技術に興味がある人には必読の一冊で、技術的な解説に加えて、イーサリアムがどのようにWeb3エコシステムを支えているかを理解するのに役立つ。
2. “Token Economy: How the Web3 Reinvents the Internet”
著者: Shermin Voshmgir
この書籍では、ブロックチェーン技術やトークンエコノミーがどのようにWeb3の中心的役割を果たすかを解説している。分散型アプリケーションやスマートコントラクト、DAO(分散型自律組織)など、Web3で重要な要素について詳しく知ることができる。
3. “Blockchain Basics: A Non-Technical Introduction in 25 Steps”
著者: Daniel Drescher
ブロックチェーン技術の基本を理解したい場合、この書籍が役立つ。技術的な背景がなくても読めるように構成されており、Web3を支えるブロックチェーン技術の基礎を知るための導入書として最適。
4. “The Web’s Awake: An Introduction to the Field of Web Science and the Concept of Web Life”
著者: Philip D. Tetlow
Web 3.0の哲学的な側面やインターネットの未来について考察する内容。Web3.0やWebの進化についてより広い視野で理解を深めたい場合に、刺激的な読み物となる。
5. “Mastering Blockchain: Unlocking the Power of Cryptocurrencies, Smart Contracts, and Decentralized Applications”
著者: Imran Bashir
Web3とブロックチェーン技術の詳細な解説書。開発者や技術に興味がある方にとって、スマートコントラクト、dApps(分散型アプリケーション)、分散型ネットワークに焦点を当てた実践的な内容を含んでいる。
6. “Web3: Charting the Internet’s Next Economic and Cultural Frontier”
著者: Alex Tapscott
この本では、Web3の経済的・文化的側面について掘り下げられている。インターネットの次のフロンティアとしてWeb3がどのような社会的・経済的影響を与えるかを解説している。
コメント