段階的信用スコアを「契約」として設計する — 信用を学習結果ではなく、解除可能な境界として扱う —

信用スコアは便利だ。
数字があると、人は安心する。

だが信用スコアには致命的な誤解がある。

信用は“推定値”ではない。
信用は 「許可範囲」 である。

だから、信用スコアをモデル出力として扱うのではなく、
契約として扱わなければならない。

特にコールドスタートでは、これが決定的になる。


なぜ「段階」が必要なのか

コールドスタート状態では、

  • データがない

  • 分布が見えない

  • スコアが偶然に近い

このとき、信用を一気に与えると壊れる。

だから必要なのは、

信用を“段階解除”する構造

つまり

  • 低リスクの行為だけ許可

  • 行動・実績の蓄積で権限を拡大

  • 不確実性が上がれば即座に縮退

これを「学習の結果」に任せると責任が消える。
だから「契約」にする。


信用スコアを契約として扱うとは何か

信用スコアを契約として扱うとは、

  • スコアの意味を定義する

  • スコアの適用範囲を固定する

  • スコアの解除条件を明示する

  • スコアの縮退条件を明示する

要するに、

スコアを“判断の代理”にしない。
スコアは「境界制御の入力」に落とす。


モデル:Trust Ladder(信用ラダー)

段階的信用の基本形は「ラダー(梯子)」だ。

例:

  • L0: Cold-start

  • L1: Observed

  • L2: Limited Trust

  • L3: Standard

  • L4: High Trust

重要なのは、各レベルが「点数」ではなく
許可されるアクションの集合で定義されること。


信用レベル=許可アクションの契約

たとえば金融・発行・特典の世界なら:

  • L0:閲覧のみ

  • L1:低額の発行のみ(上限あり)

  • L2:上限を引き上げ、頻度制限あり

  • L3:通常運用(標準上限)

  • L4:優遇(上限緩和、審査省略)

ここで「信用」とは

どれだけの影響力をシステムが許すか

である。

そしてこれは価値判断だ。
学習結果ではない。


契約化の中心:昇格・維持・降格ルール

段階モデルを契約にするには、最低限これを固定する。

1) 昇格(Promotion)

  • どの証拠が揃ったら上がるか

  • 何をもって「実績」とするか

  • どの観測期間で判定するか

2) 維持(Retention)

  • どの範囲の行動を継続すれば維持か

  • 不確実性が増えた場合の扱い

3) 降格(Demotion)

  • 何が起きたら即時降格か

  • どの程度で段階的降格か

  • 監査ログと人間承認の要否

ここが “判断を外に出す” 部分だ。


「段階スコア」ではなく「段階+スコア」

よくある失敗は、

0〜100点のスコアで全部決める

だ。

正しくはこう。

  • 段階(Level):人間が定義する(契約)

  • スコア(Score):AIが推定する(連続)

AIは段階を決めない。
AIは「段階判定のための材料」を出すだけ。


具体的な契約スキーマ(概念)

信用契約は、最低限こういう形を持つべきだ。

  • trust_level: L0..L4

  • decision_mode: auto / recommend / human_required

  • allowed_actions: 明示リスト

  • limits: 上限(額・回数・時間)

  • promotion_policy: 昇格条件(証拠・期間・閾値)

  • demotion_policy: 降格条件(即時・段階)

  • evidence_requirements: 必須証拠

  • audit: 根拠ログ参照(EventsRef / SignalsRef)

ここでのポイントは、

信用が「状態機械(state machine)」になっていること


段階解除は「実績の積み上げ」ではなく「証拠の充足」

信用を上げる条件を
「利用回数」や「累積金額」だけにすると、壊れる。

なぜなら、それはGoodhart化するからだ。

だから昇格条件は、

  • 量(回数・金額)

  • 質(異常率・苦情率・返品率・不正兆候)

  • 文脈(新規端末、位置変化、時間帯)

  • 多様性(単一パターン偏重の検出)

のように、“証拠の束” にする。

そしてその束自体を契約化する。


不確実性が上がったら「縮退」する

段階的信用モデルの肝はここだ。

信用は上がるだけではない。
状況が変われば落ちる。

  • 端末が変わった

  • 振る舞いが変わった

  • 分布外に出た

  • 不正シグナルが立った

このとき、

  • L3 → L1 に即落ち

  • あるいは「一時凍結」

が設計されていなければならない。

これが fail-closed の実装形である。


人間承認ポイントは「段階の境界」に置く

Human-in-the-Loopを乱用すると運用が死ぬ。
逆に完全自動化すると責任が死ぬ。

だから人間承認は

  • L0→L1

  • L1→L2

  • L2→L3

のように

段階の境界にだけ置く。

つまり「境界の責任」を人が持つ。

これが Human-as-Author そのものになる。


結論

段階的信用スコアの契約モデルとは、

  • 信用を点数ではなく「許可範囲」として扱い

  • 段階(不連続)を契約で固定し

  • スコア(連続)は材料に落とし

  • 昇格・維持・降格を状態機械として設計する

ということだ。

AIは連続を近似する。
だが信用は不連続である。

だから、信用は契約で守らなければならない。

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