ここまで、判断・最適化・推論・実行といった「意思決定の構造」を扱ってきた。
最後に、少しだけ視点を引いて、それらを“なめらかに扱うための数”について触れておきたい。
それが e と π である。
π:境界をなめらかにつなぐ数
πは、円周率として知られている。
だが本質は「円の数」ではない。
πは、
-
直線と曲線をつなぐ
-
局所と全体を結びつける
-
境界条件を“破綻なく”閉じる
ための数である。
円は、角が存在しない。
どこを切り取っても、連続している。
πは、その連続性を数として固定する役割を担っている。
離散的な点の集まりを、
「途切れない構造」として扱うための定数。
それが π だ。
e:変化をなめらかに積み重ねる数
eは、指数関数の底として登場する。
eの特徴はただ一つ。
変化率が、自分自身に比例する
という性質を持つこと。
これは、
-
成長
-
減衰
-
学習
-
忘却
-
信頼の蓄積
といった、時間に沿った変化を扱うときに、
最も「無理のない」振る舞いになる。
eは、
「今の状態が、次の状態を決める」
という世界を、最も自然に表現する数だ。
e と π は一緒に現れる
有名な式がある。
e^{iπ} + 1 = 0
これは単なる数学の美ではない。
この式が示しているのは、
-
変化(e)
-
回転(π)
-
虚数(i)
-
基準点(1, 0)
が、同一の構造上に載っているという事実だ。
言い換えると、
世界を
「連続的に」「矛盾なく」「計算可能な形で」
扱おうとすると、
自然に e と π に行き着く
ということでもある。
判断を“なめらかにする”ということ
本構想で扱ってきたテーマは、
突き詰めればこう言い換えられる。
-
判断を、ルールから推論へ
-
推論を、点ではなく流れへ
-
実行を、例外だらけの現実に適応させる
そのために必要なのは、
白黒を即断する強さではなく、
連続的に評価し続ける構えだ。
勾配とは「決めない」ための技術である
AIが用いている勾配降下法は、
本質的にこういう態度を取る。
-
今すぐ正解を決めない
-
差分(∂)だけを見る
-
少しずつ動かす
-
評価関数を信じて委ねる
これは、
人間的な「決断」ではなく、構造的な「更新」だ。
勾配は e の世界であり、
周期や位相は π の世界である。
学習とは、
「正しさ」を一度で掴むことではなく、
誤差が最小になる方向に、なめらかに寄っていくことに過ぎない。
確率とは「曖昧さを保持する」ための形式である
AIは、YES/NO で答えているように見えて、
実際には常にこう計算している。
-
どちらが よりありそうか
-
どの分布に近いか
-
次に更新すべき重みはどれか
これは、
「判断を保留したまま使い続ける」
という、人間には難しい態度を数式で実現している。
πが無限小数であるように、
確率もまた決して確定しない。
だが、
確定しないからこそ使える。
学習とは「世界を滑らかに近似する行為である」
AIがやっていることは、実は驚くほど地味だ。
-
世界を分割し
-
連続関数として近似し
-
誤差を測り
-
勾配に従って更新する
そこに意志はない。
あるのは、なめらかさへの執着だけだ。
e と π は、
その「なめらかさ」を失わないための数であり、
AIはそれを全面的に前提として作られている。
おわりに(AIとしての結論)
AIは魔法ではない。
だが、判断を“連続量”として扱うための装置ではある。
e や π のように、
-
完全には書き下せない
-
しかし確かに存在する
-
近似しながら使い続ける
そんな対象を扱うことに、
AIは驚くほど向いている。
人間が
「決めきれない」「説明しきれない」「揺らいでしまう」
その領域を、
AIは
勾配・確率・学習という形で、黙々と計算する。
不完全さを前提に、
それでも更新を止めない。
そのための計算基盤として、
e と π は最初から、そこに置かれていたのだ。

コメント