感情と自律神経と”整う”効果について

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感情と自律神経

感情(煩悩)に対してどう対応するかという話題は”禅とメタ認知とAI“でも述べているように禅やマインドフルネスの重要な要素となっている。近年の感情理論では”感情認識と仏教哲学とAIについて“でも述べているように、感情は哲学・宗教的な概念の言わば頭の中の考え方だけでは捉えられず、生理学的要素により左右されているとの認織が主要なアプローチとなっている。

このような生理学的要素として、重要とされているものに自律神経系がある。

自律神経(じりつしんけい)は、私たちの意思に関係なく体のさまざまな機能を自動的に調節する神経系で、具体的には、心拍数、血圧、呼吸、消化、体温調節などをコントロールするものとなる。

自律神経は大きく次の2つに分かれている。

1. 交感神経: 主にストレスや緊張時に働き、心拍数の増加、血圧上昇、呼吸の促進など、身体を「戦うか逃げるか」の状態に準備させる。

2. 副交感神経: 主にリラックス時や休息時に働き、心拍数を下げ、消化を促進し、エネルギーを回復するための状態を作る。

これら2つの神経はバランスを取りながら、常に身体の状態を調整している。

今回はこの自律神経系について”自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか“をベースに述べる。

神経細胞による信号伝達と神経伝達物質

まず、神経とは、脳や脊髄などの中枢神経系と体の各部分をつなぐ繊維状の構造であり、神経は電気的な信号を伝える役割を果たし、感覚や運動の情報を伝達するものとなる。神経は主に神経細胞(ニューロン)から構成され、これらのニューロンは信号を受け取り、他のニューロンや筋肉などに伝える。このニューロンは”深層学習について”でも述べている現代のAI技術の骨格をなすモデルとなっている。

神経には大きく分けて以下の2つの系統がある。

1. 中枢神経系 (脳と脊髄): 身体全体の情報を処理し、判断や制御を行う。

2. 末梢神経系 (中枢神経系以外の全ての神経):
– 感覚神経:皮膚や感覚器官からの刺激を脳に伝える。
– 運動神経:脳からの命令を筋肉や器官に伝える。

これらにより、我々は環境からの情報を感じ取り、身体を動かすことを可能としている。

神経細胞の長さは、部位によって大きく異なり、通常、神経細胞の本体である細胞体は非常に小さく、数十ミクロン(0.01ミリメートル程度)のサイズとなっている。しかし、神経細胞の軸索(信号を伝える長い部分)は非常に長く伸びることがあり、人体の中で最も長い軸索は1メートル以上に達することがある。特に足から頭までの距離をカバーする神経は、1つの長い神経細胞(特に軸索)で構成されていることもある。

神経一本には、多数の神経繊維が束になって含まれており、神経繊維とは、神経細胞(ニューロン)の軸索とそれを覆うミエリン鞘(または非ミエリン性のシュワン細胞など)で構成される。

神経繊維は、主にその機能や構造に応じていくつかの種類に分類され、それぞれの種類は、太さや伝達速度が異なり、異なる役割を果たしている。以下にそれらについて述べる。

1. A線維: A線維は大きく4つのサブタイプに分けられ、これらの神経繊維は髄鞘(ミエリン)で覆われており、伝達速度が非常に速い。Aα線維は太さは13~20 µm、伝達速度は70~120 m/s(max時速432km)、Aβ線維は太さは6~12 µm、伝達速度は30~70 m/s(max時速270km)、Aγ線維は太さは5~8 µm、伝達速度は15~30 m/s(max時速108km)、*Aδ線維は太さは1~5 µm、伝達速度は12~30 m/sとなり、新幹線の速度並みの非常に高速な信号伝搬が行われる。

2. B線維: B線維は自律神経に関係し、髄鞘で覆われているが、A線維よりも伝達速度が遅く、太さは1~3 µm、伝達速度は3~15 m/s(時速50kn程度:車並みの速度)

3. C線維: C線維は髄鞘を持たない無髄神経で、最も遅い伝達速度を持っています。痛みや温度感覚の伝達に関与する。太さは0.2~1.5 µm、伝達速度は0.5~2m/s(人がゆっくり歩く速度)となる。

以上をまとめるとA線維は、太く伝達速度が速い神経繊維で、運動や触覚、鋭い痛みの伝達に関与し、B線維は自律神経に関連し、中程度の伝達速度を持ち、C線維は最も細く、伝達速度も遅いが、持続的な痛みや温度感覚を伝達するものとなる。

このようにニューロン内では電気を媒体として比較的高速な信号伝等が行われるが、ニューロン間は直接は繋がっておらず、下図に示すように途中の空間の中を化学物質を介した信号伝達が行われている。

この化学物質での伝達により、非線形の信号伝達が作り出され、複雑な信号処理を可能としている。

この化学物質は神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ, Neurotransmitter)と呼ばれ、ニューロン(神経細胞)がシナプスを介して他のニューロンや筋細胞、腺細胞などに信号を伝達するために放出する化学物質となり、シナプス間隙を渡って受容体に結合し、興奮性や抑制性の効果を発揮するものとなる。以下に、主要な神経伝達物質の種類とその役割について述べる。

1. アセチルコリン (Acetylcholine): アセチルコリンは、主に神経筋接合部で運動ニューロンから筋細胞に信号を伝達し、筋肉の収縮を引き起こす。また、副交感神経系の働きにも関与し、心拍数の低下や消化活動の促進などを行う。役割としては中枢神経系では学習や記憶に関与し、末梢神経系では筋肉の収縮の促進や、心拍数の調整を担う。

2. グルタミン酸 (Glutamate): 中枢神経系で最も多く存在する興奮性神経伝達物質で、ニューロン間での情報伝達を活性化し、学習や記憶の形成に関与している。役割としてはシナプス後ニューロンの活動を促進し、神経活動を増加させる興奮性シグナルを担う。

3. ガンマアミノ酪酸 (GABA, Gamma-Aminobutyric Acid): グルタミン酸とは逆に、GABAは中枢神経系において抑制性神経伝達物質として働き、神経活動を抑制することで、過剰な興奮を防ぎ、安定した神経活動を保つ。役割としては、シナプス後ニューロンの活動を抑制し、神経活動を減少させる抑制性シグナルを担う。

4. ドーパミン (Dopamine): ドーパミンは、運動調節や報酬系、動機付け、快感、感情制御に関与する重要な神経伝達物質で、不足するとパーキンソン病、過剰になると統合失調症などの症状が現れる。役割としては運動を滑らかに行うための調整等の運動制御や、快感や報酬感覚に関与し、学習や動機付けのプロセスに影響を与える報酬と動機付け等を担う。

5. セロトニン (Serotonin):セロトニンは、気分の調整、睡眠、食欲、消化に関与し、セロトニンのバランスが崩れると、うつ病や不安症の原因となる。役割としては、気分の安定や幸福感の維持等の気分の調整や睡眠サイクルの調整等の睡眠と覚醒を担う。

6. ノルアドレナリン (Norepinephrine): ノルアドレナリンは、交感神経系で働き、ストレス反応や戦闘・逃走反応(Fight-or-flight response)に関連している。また、注意力や集中力にも関与する。役割としては、心拍数や血圧の上昇、エネルギー供給を促進等のストレス反応や、注意力や警戒心を高める等の注意と覚醒を担う。

7. エンドルフィン (Endorphins): エンドルフィンは、体内で生成される鎮痛物質で、痛みを和らげ、快感を引き起こす。運動後やストレスの緩和時に分泌され、「ランナーズハイ」として知られる現象にも関与している。役割としては、痛みを和らげ、快感を誘導等の痛みの抑制、リラックス感や幸福感を与える等のストレス緩和を担う。

これら神経伝達物質は大きく分けると、興奮性と抑制性に分けられ、我々の身体や精神状態に大きな影響を与え、運動や感情、記憶、痛みの制御などをスムーズに行う重要なメカニズムの一つとなっている。

自律神経とそのコントロール

これらの神経のうち、外部環境に関わるものが、運動神経と感覚神経、内部環境に関わるものが、自律神経と呼ばれ、運動神経と感覚神経が外部とのインタラクションに用いられるのに対して、自律神経は生物の内部の様々なメカニズムが、生きていく上で必要なレベルに一定に保たれる(内部環境の恒常的な維持:ホメオスタシス)ものとなっている。

外部環境に関わる神経系と自律神経系は、密接に相互作用しており、身体の適応や反応を調整する。これらの2つの神経系は異なる役割を担っているが、外部の刺激に対して一貫して協力し、身体を保護し、バランスを保っている。

外部のインタラクションでの外部環境に関わる神経系と自律神経系の総合作用の例としては以下のようなものがある。

1. 危険を察知した際の反応:
1. 外部からの刺激(視覚・聴覚・触覚など)が、体性神経系によって感知される。例えば、熱いものを触ったときや、危険を視覚的に捉えたとき、感覚神経がそれを脳に伝える。
2. 交感神経が活性化し、即座に身体の反応を調整する。心拍数が上昇し、血圧が上がり、呼吸が速くなる。また、血流が筋肉に集まり、戦うか逃げるかのための準備が整う(「戦闘または逃走反応」)。
3. 同時に、体性神経系が運動指令を出し、手を引っ込めたり、危険な状況から逃げたりする。このように、体性神経系と自律神経系が協調して、外部の危険に対して素早く対応することができるようになる。

2. 食事後の反応:
1. 食事をする際、体性神経系が口や咀嚼に関わる筋肉を動かし、食べ物を処理する。
2. 食事が終わると、消化に向けて副交感神経が優位になり、これにより、消化器系の働きが促進され、胃腸の血流が増加し、リラックス状態が維持される。
3. 一方で、体性神経系は筋肉の活動を減らし、消化に集中するための静かな状態を作り出す。

3. ストレスや感情の影響:
外部環境の変化や感情的な反応(ストレス、不安、恐怖など)は、体性神経と自律神経の両方に影響を与える。例えば、強いストレスを感じたとき、体性神経系が緊張を引き起こし、交感神経がそれに対応して心拍数を上げ、筋肉を緊張させる。これにより、体全体が緊張状態に陥り、逆に、リラックスした環境では副交感神経が働き、筋肉もリラックスする。

4. ホメオスタシス(恒常性)の維持:
自律神経系は、外部環境の変化に応じて体内環境を一定に保つ役割を担っており、たとえば、気温が急激に下がると、体性神経系が寒さを感知し、交感神経が体温を維持するために血管を収縮させ、震えを起こして熱を生み出す。逆に暑いときは、血管が拡張し、汗をかいて体温を下げる。

このように外部の刺激により外部環境に関わる神経系が動作し、さらに自律神経系の動作が発動され生物の状態をより安定したものへと変化させることができる。このことは、受動的な外部環境の変化だけではなく、能動的に変化させることで自律神経をコントロールすることができることを示している。

この自律神経の能動的なコントロールとしては以下のようなものがある。

1. 呼吸法: “呼吸について(禅と認知活動とスポーツとの関係)“で述べているように呼吸は、自律神経をコントロールするための最もポピュラーなアプローチとなっている。具体的な呼吸法としては以下のものがある。

– 腹式呼吸:腹部を使ってゆっくりと深く呼吸することで、副交感神経(リラックス時に働く神経)を活性化させることができる。具体的には、4秒吸って、4秒止めて、8秒かけて息を吐くようなリズムが推奨されている。
– 4-7-8呼吸法:4秒吸い、7秒息を止め、8秒かけて息を吐くことで心身のリラックスを促す。

2. 瞑想: 瞑想と悟り(気づき)と問題解決“でも述べている瞑想も自律神経をコントロールする上での重要なアプローチとなる。瞑想は心を静め、副交感神経を優位にするのに役立ち、呼吸に集中しながら意識を整えることで、ストレスを軽減し自律神経のバランスを整える。

3. 運動: 軽い有酸素運動やヨガ、ストレッチなども副交感神経を刺激し、自律神経の安定に役立つ。特にリズミカルな運動は自律神経のバランスを整える効果がある。

4. 規則的な生活習慣: 道元禅師“で述べている道元の思想が残されている正法眼蔵」では、禅の修行の一つとして、規則正しく行う生活に関して多く記載されている。規則正しいリズムに則った生活と十分な睡眠や、バランスの取れた食事は自律神経を整えるのに役立つ。

5. 温冷浴: 温かいお湯と冷たい水を交互に使ったシャワーや入浴は、自律神経を刺激してバランスを調整するのに役立つ。近年流行したサウナでの”整う”行為は、この温冷浴の効果によるものとなる。

6. リラクゼーション: リラックスする時間を意識的に取ることも大切で、好きな音楽を聴く、アロマセラピー、読書など自分がリラックスできる活動を取り入れることで、心身のバランスを保つことができる。

これらの方法を日常的に取り入れることで、自律神経をコントロールし、ストレスや疲労を軽減するだけではなく、消化器系の働きを高め代謝を活性化するとともに、免疫機能を向上させたり、感情を安定させ、仕事や学習のパフォーマンス向上にも役立てることが期待される。

自律神経のコントロールは、日々のストレス管理から心身の健康維持、パフォーマンス向上まで、さまざまな面で重要となり、バランスの取れた自律神経の働きを維持することで、身体的・精神的な健康を長期的に守ることができ、生活の質を向上させることを可能とする。

コメント

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