オセロゲームについて
オセロゲーム(Othello)は、2人で対戦するボードゲームで、白と黒のディスクを使ってプレイし、プレイヤーは自分の色のディスクを配置し、相手のディスクを挟んで裏返すことで自分の色に変えるのが基本ルールである競技となる。
オセロのボード配置は、上図のように8×8のマス目、初期配置では中央の4つのマスに、白2枚、黒2枚がクロス状に配置されたものとなる。競技の順番は通常、黒のプレイヤーが先行で、交互にディスクを配置し、ディスクを配置する際、すでに置かれている相手のディスクを自分のディスクで挟むことができれば、その挟まれた相手のディスクはすべて自分の色に変わる。このとき挟む方向は縦、横、斜めどの方向でも可能となる。もし自分の手番で置く場所がない場合は、パスしなければならず、両プレイヤーが連続してパスしたらゲーム終了で、さらにボードが全て埋まるか、両プレイヤーが置く場所がなくなった時点でもゲーム終了となる。その時点で自分の色のディスクが多い方が勝利となる。
オセロゲームの解法アルゴリズム
オセロは単純なルールながら、非常に戦略的なゲームであり、以下のような基本的な戦略がある。
- 角を取る: 角にディスクを置くと、そのディスクは裏返されにくいため、強力なポジションであり、ゲーム序盤では、角を相手に取られないように注意しながら進めることが重要となる。
- エッジをキープする: ボードの端(エッジ)は挟まれにくいため、端を制することも有利になる。
- 無駄な裏返しをしない: 多くのディスクを裏返すと、相手に返されるリスクも高くなる。むやみに多くのディスクを裏返さないようにし、相手に有利な動きをさせないことが重要な戦略の一つとなる。
オセロゲームを機械で解くアプローチは古くから検討されており、二人零和有限確定完全情報ゲームに分類され、1997年には人間との6番勝負で6勝0敗の成績を収めている。オセロのゲーム木複雑性は10の58乗程度で、コンピュータによる完全解析はされていないが、2023年10月30日、日本のPreferred Networks社の滝沢拓己により、8×8のオセロが最善進行で引き分けになる事を証明したと主張する査読前論文がarXivに投稿されている。”Othello is Solved”
オセロを解く古典的な解法アルゴリズムは以下に示すようなものとなる。
- ミニマックス法(Minimax Algorithm): “ミニマックス法の概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているミニマックス法は、オセロのゲーム木を探索して最適な手を選択する手法となる。探索は再帰的に行われ、各プレーヤーが自身の最善手を選択し、相手プレーヤーがその最善手に対する最善手を選択するという形で進む。ゲーム木の深さが増えるほど計算量が増えるため、限られた深さでの探索を行う場合は、評価関数を用いて現在の盤面の評価値を算出し、その評価値を最大化(自分の手番)または最小化(相手の手番)する手を選択する。
- α-β枝刈り(Alpha-Beta Pruning): α-β枝刈りは、ミニマックス法において探索空間を削減するための手法となる。探索中に無駄な枝を刈り取り、探索を効率化している。具体的には、最善手を選択するプレーヤー(最大化プレーヤー)の評価値が現在の最良評価値を上回ることが確定した場合に、その時点での探索を打ち切ることができる。
- 評価関数(Evaluation Function): 評価関数は、現在の盤面の評価値を計算するための関数で、オセロの場合、盤面上の石の配置や石の数、角の確保などの要素を考慮して評価値を算出している。評価関数は、プレーヤーが有利な状態を高い評価値とするように設計され、評価関数の設計には、経験的な知識やヒューリスティックな手法が活用される。
- モンテカルロ木探索(MCTS: Monte Carlo Tree Search):”モンテカルロ木探索の概要とアルゴリズム及び実装例について“でも述べているMCTSは確率的な方法を使って、複数の手をシミュレーションし、その中から最も有望な手を選ぶものとなる。オセロのような複雑なゲームでは、全ての可能な手を探索することが難しいため、MCTSが有効で、特に終盤戦では、計算資源を使って多くのランダムなプレイアウト(ゲームのシミュレーション)を行い、どの手が最善かを評価することができる。
また、近年では”ボードゲームとAI “アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか” 読書メモ“でも述べている深層強化学習でのアプローチも行われている。
オセロゲームの解法アルゴリズムとGNN
オセロゲームの解法において、グラフニューラルネットワーク(GNN: Graph Neural Network)を使用することは、盤面の状態を効率的にモデル化し、複雑なゲーム局面の評価を行う上で強力なアプローチとなる。
オセロゲームの盤面は、64マスのグリッド(8×8)で構成されており、これをグラフとしてモデル化することができる。各マスをノードとして扱い、隣接するマス(上下左右および斜め)をエッジとして定義することで、オセロ盤全体をグラフとして捉えることが可能となる。GNNは、このグラフ構造を活用して、各ノード(マス)の状態を学習し、次の一手を予測するために利用される。
これは以下のような特徴を持つ。
1. グラフとしてのオセロ盤のモデル化: 各マスは黒、白、空白という3つの状態を持つノードとして表現され、各ノードは、その周囲のノード(隣接するマス)の状態に影響される。GNNは、このノード間の依存関係を学習し、ゲームの戦略的なパターンを捉えることができる。
2. 局面評価の効率化: GNNは、盤面全体の局面を一度に学習し、複数の手に対する評価を同時に行うことができる。これは、従来のアルゴリズム(ミニマックス法やモンテカルロ木探索)に比べて、各局面の評価をより効率的に行えるというメリットがある。
3. 空間的な依存関係の学習: オセロでは、角を取る戦略やエッジに近いマスの重要性など、盤面の特定の場所が戦略的に非常に重要となる。GNNは、このような空間的な依存関係を自然に学習でき、盤面全体の評価に基づいて次の一手を予測する際に非常に有利なアプローチとなる。
4. 強化学習との組み合わせ: GNNは、強化学習(Reinforcement Learning, RL)と組み合わせることで、オセロの解法アルゴリズムをさらに強化できる。強化学習エージェントは、GNNを利用して盤面の状態を入力し、報酬を得ることで最適な手を学習します。GNNは、従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に比べて、局所的な特徴と全体的な戦略を同時に捉えるため、オセロのような複雑な盤面における意思決定をより効率的に行える。
GNNを用いた具体的なアルゴリズムは以下のようになる。
1. グラフの定義: 64ノード(盤面のマス)を持つグラフを定義し、各ノードは自分の色(黒、白、空白)と隣接するノード(上下左右および斜め)へのエッジで接続する。
2. GNNの構築: 各ノードの状態(色や位置)を入力特徴量とし、GNNを使ってノード間の依存関係を学習する。GNNの出力として、各ノード(マス)が次にどうなるかの予測や、どのマスにディスクを置くべきかのスコアを得ることができる。
3. 強化学習エージェント: GNNの出力を基に、強化学習エージェントがどの手を選ぶべきか学習する。GNNは、オセロの局面ごとの特徴を捉えるため、各手の重要性を高精度で評価できる。
4. トレーニングとデータ生成: GNNを使ったオセロのAIは、過去のゲームデータやシミュレーションを基にトレーニングされる。生成系AIを使って新しい盤面データを大量に生成し、それをGNNと強化学習エージェントに学習させることが、より強力なAIプレーヤーを生み出す鍵となる。
GNNはミニマックス法やMCTSといった従来のアルゴリズムと併用することも可能で、例えば、ミニマックス法で探索する際に、GNNを局面評価の関数として利用し、各局面の有望度を計算することで、より精度の高い手を選択でき、また、α-β枝刈りを効率化するために、GNNを使って探索するべき局面をあらかじめ絞り込むこともできる。
実装例
以下に、GNNをオセロに適用する実装例の概要とステップを示す。
1. 準備と依存ライブラリ: まず、GNNの実装にはグラフデータの処理をサポートするライブラリが必要となる。代表的なライブラリには PyTorch Geometric
や DGL (Deep Graph Library)
があります。ここでは PyTorch Geometric
を使った実装例を示す。
# 必要なライブラリのインストール
pip install torch
pip install torch-geometric
2. オセロ盤のグラフモデル化: オセロの盤面を64ノード(8×8のマス)とし、各マスに隣接するノード同士をエッジで結ぶ。また、ノードの状態(黒・白・空)を特徴ベクトルとして表現する。
import torch
import torch_geometric
from torch_geometric.data import Data
# 8x8の盤を64ノードとしてモデル化
def create_othello_graph(board):
# 各ノード(マス)の特徴を表現(空は0、黒は1、白は-1とする)
node_features = []
for row in board:
for cell in row:
if cell == 'black':
node_features.append([1])
elif cell == 'white':
node_features.append([-1])
else:
node_features.append([0])
node_features = torch.tensor(node_features, dtype=torch.float)
# 隣接ノードのエッジリストを作成(上下左右および斜め)
edges = []
for i in range(8):
for j in range(8):
node_id = i * 8 + j
# 周囲のノードにエッジを作成(斜め、上下左右)
for di in [-1, 0, 1]:
for dj in [-1, 0, 1]:
if 0 <= i + di < 8 and 0 <= j + dj < 8 and (di != 0 or dj != 0):
neighbor_id = (i + di) * 8 + (j + dj)
edges.append([node_id, neighbor_id])
edge_index = torch.tensor(edges, dtype=torch.long).t().contiguous()
# PyTorch Geometricのデータオブジェクトに変換
graph_data = Data(x=node_features, edge_index=edge_index)
return graph_data
# 初期状態のオセロ盤
initial_board = [
['empty'] * 8 for _ in range(8)
]
initial_board[3][3] = 'white'
initial_board[4][4] = 'white'
initial_board[3][4] = 'black'
initial_board[4][3] = 'black'
othello_graph = create_othello_graph(initial_board)
print(othello_graph)
3. GNNモデルの定義: 次に、GNNモデルを定義する。ここでは、シンプルなGNNレイヤーを用いて、各ノード(マス)の次の状態を予測するモデルを作成する。
import torch.nn as nn
from torch_geometric.nn import GCNConv # GCNConvはグラフ畳み込み層
# GNNモデルの定義
class OthelloGNN(nn.Module):
def __init__(self, input_dim, hidden_dim, output_dim):
super(OthelloGNN, self).__init__()
self.conv1 = GCNConv(input_dim, hidden_dim)
self.conv2 = GCNConv(hidden_dim, hidden_dim)
self.fc = nn.Linear(hidden_dim, output_dim) # 最後にフルコネクション
def forward(self, data):
x, edge_index = data.x, data.edge_index
# 1層目のグラフ畳み込み
x = self.conv1(x, edge_index)
x = torch.relu(x)
# 2層目のグラフ畳み込み
x = self.conv2(x, edge_index)
x = torch.relu(x)
# 最終的に次の状態を予測する
x = self.fc(x)
return x
# モデルのインスタンスを作成
model = OthelloGNN(input_dim=1, hidden_dim=64, output_dim=1)
4. 学習プロセスの実装: モデルを学習させるためには、過去のゲームデータ(盤面の状態とそれに対する最善手)を使用する。ここでは簡単な例として、次の状態(黒、白、または空)の予測を行う。
# 例として学習用データを作成(実際には大量のゲームデータが必要)
train_data = [
(create_othello_graph(initial_board), torch.tensor([0]*64)) # ラベルは次のターンの状態を表す
]
# 学習ループ
optimizer = torch.optim.Adam(model.parameters(), lr=0.01)
loss_fn = nn.MSELoss()
def train(model, train_data, epochs=100):
model.train()
for epoch in range(epochs):
total_loss = 0
for data, target in train_data:
optimizer.zero_grad()
output = model(data)
loss = loss_fn(output.view(-1), target.float())
loss.backward()
optimizer.step()
total_loss += loss.item()
print(f'Epoch {epoch+1}, Loss: {total_loss}')
train(model, train_data)
5. 実行と予測: 訓練が終わった後、オセロの盤面の状態を入力すると、次の最適な手を予測することができる。以下は、予測の例となる。
# 新しいオセロ盤面に対して次の手を予測
new_board = [
['empty'] * 8 for _ in range(8)
]
new_board[3][3] = 'white'
new_board[4][4] = 'white'
new_board[3][4] = 'black'
new_board[4][3] = 'black'
new_board[2][4] = 'black'
test_graph = create_othello_graph(new_board)
model.eval()
with torch.no_grad():
prediction = model(test_graph)
print("Prediction for next move:")
print(prediction.view(8, 8))
参考情報と参考図書
GNN(グラフニューラルネットワーク)やゲーム理論、オセロのアルゴリズムに関連する書籍について述べる。これらの書籍は、GNNの基本から応用までを理解するためや、ゲーム解法アルゴリズムの理解を深めるために役立つ。
1. グラフニューラルネットワーク (GNN) 関連
– Graph Representation Learning by William L. Hamilton
– グラフデータの表現学習とGNNの理論と実践を網羅的に解説している。GNNを学ぶ際の基本的な概念から、実際の応用までをカバーしている。
– Deep Learning on Graphs by Yao Ma and Jiliang Tang
– グラフニューラルネットワークの最新技術や応用に関する詳細な内容が含まれている。特に、機械学習のグラフ構造への応用に焦点を当てている。
2. ゲーム理論とアルゴリズム関連
– Artificial Intelligence: A Modern Approach by Stuart Russell and Peter Norvig
– AIの教科書として広く知られており、ミニマックス法やα-β枝刈り、モンテカルロ木探索など、ゲーム解法アルゴリズムが詳細に説明されている。
– Reinforcement Learning: An Introduction by Richard S. Sutton and Andrew G. Barto
– 強化学習の基礎から応用までをカバーしている本。オセロのようなゲームに強化学習を適用する際の基本的なアプローチを学ぶことができる。
– Algorithms and Networking for Computer Games by Jouni Smed and Harri Hakonen
– コンピュータゲームで用いられるアルゴリズムやネットワーク技術について解説している。ゲーム理論やAIの技術をゲーム開発にどう応用するかについて学べる。
3. オセロゲームに特化した書籍
– The Art of Computer Game Design by Chris Crawford
– コンピュータゲーム全般におけるデザインやアルゴリズムの話が豊富で、オセロのような戦略ゲームの設計にも役立つ。
コメント