Books: Knowledge Flow実践ガイド: 企業知識をAIが利用できる知識基盤へ変換する

前回の記事では、Knowledge Flowを
「企業ドキュメントからAIが利用できる知識基盤を自動生成する仕組み」
として紹介しました。
今回は、その具体的なシステム構成について説明します。
全体アーキテクチャ
Knowledge Flowは、大きく5つのレイヤで構成されます。
Enterprise Documents
│
▼
Document Ingestion
│
▼
Knowledge Extraction (LLM)
│
▼
Ontology Builder
│
▼
Knowledge Graph
│
▼
DSL Generator
│
▼
Knowledge Repository
│
▼
Decision Trace Model
│
▼
Runtime OS
すべての処理はイベント駆動で実行されます。
新しいドキュメントが追加されるたびに、知識基盤も自動的に更新されます。
Step1 Document Ingestion
最初に企業内の情報を収集します。
対象になるのは、
- SharePoint
- Confluence
- Google Drive
- OneDrive
- GitHub
- Box
- Dropbox
- Slack
- Teams
- Outlook
- Word
- Excel
- PowerPoint
- CAD設計書
- ソースコード
- Wiki
などです。
例えば
契約書.pdf
↓
PDF Parser
↓
Markdown
あるいは
Word
↓
Docx Parser
↓
Markdown
のように、
すべて一度共通フォーマットへ変換します。
MarkdownやJSONが最も扱いやすい形式になります。
Step2 Document Chunking
そのままLLMへ渡すことはできません。
まず意味単位へ分割します。
例えば
設備管理マニュアル
↓
Chapter
↓
Section
↓
Paragraph
さらに
Paragraph
↓
Semantic Chunk
へ変換します。
チャンクには
{
id
source
author
version
timestamp
title
tags
text
}
のようなメタデータも保持します。
これがKnowledge Flowの最小単位になります。
Step3 LLMによる知識抽出
ここでLLMが文章を解析します。
例えば
検査工程では
不良率が5%を超えた場合
品質保証部へ通知する
という文章から
概念
Inspection
Defect Rate
Quality Assurance
関係
Inspection
↓
Defect Rate
↓
Notify
↓
Quality Assurance
制約
DefectRate > 5%
イベント
Notify QA
を抽出します。
これをJSONで表現すると
{
"entities": [
"Inspection",
"Defect Rate",
"Quality Assurance"
],
"relations": [
{
"from":"Inspection",
"to":"Defect Rate",
"type":"measure"
}
],
"constraints":[
"DefectRate > 5%"
]
}
となります。
Step4 オントロジー生成
抽出した概念を統合します。
例えば
Customer
Client
Account Holder
これらが同じ意味なら
Customer
へ統合します。
さらに
Customer
├── Premium
├── Gold
└── Silver
のように階層を構築します。
また
Customer
↓
Order
↓
Invoice
という関連も追加します。
これによって企業独自のオントロジーが育っていきます。
Step5 Knowledge Graph生成
オントロジーだけでは判断できません。
概念同士をグラフとして保持します。
例えば
Customer
↓
Purchase
↓
Product
↓
Factory
↓
Inspection
↓
Quality
のようなネットワークになります。
Neo4jなどのグラフデータベースを利用すると、
MATCH
Customer
↓
Purchase
↓
Product
のような問い合わせが可能になります。
LLMもGraph RAGとして利用できます。
Step6 DSL生成
次に判断ルールを抽出します。
例えば
1000万円以上なら
部長承認
↓
DSL
IF Contract.Amount >= 10000000
THEN Approval = Director
あるいは
温度が80℃以上
↓
停止
↓
IF Temperature >= 80
STOP Machine
このDSLは
Decision Runtime Kernel
で実行されます。
Step7 人間レビュー
もちろんLLMは間違えます。
そのため
Ontology Candidate
↓
Human Review
↓
Approve
↓
Repository
という流れを入れます。
レビュー時には
- 差分表示
- 新規概念
- 関係追加
- DSL追加
だけを確認します。
すべて読み直す必要はありません。
Step8 継続学習
Knowledge Flowは
一回構築して終わり
ではありません。
例えば
新しい業務マニュアル
↓
新概念
↓
Ontology Update
↓
DSL Update
↓
Knowledge Graph Update
が自動で行われます。
つまり知識は常に最新になります。
実装例
Pythonで概念抽出を行う場合、
document
↓
LLM
↓
Entities
↓
Ontology Builder
↓
Neo4j
という構成になります。
LLMには
- GPT
- Claude
- Gemini
- Llama
などを利用できます。
Graph Databaseは
- Neo4j
- Memgraph
- Amazon Neptune
などが候補になります。
DSLは
JSON DSL
YAML DSL
あるいは
独自DSL
として保存できます。
Runtime OSとの接続
Knowledge Flow単体では、
知識を蓄積するだけです。
本当の価値は、
Decision Runtime Kernel
と接続したときに生まれます。
AIが判断を行う際には、
Decision Request
↓
Ontology
↓
Knowledge Graph
↓
DSL
↓
Policy
↓
Decision Trace
↓
Decision
という流れで推論を行います。
つまりKnowledge Flowは、
Runtime OSへ知識を供給する役割を担います。
Knowledge Flowは「知識を資産化する基盤」
Knowledge Flowの本質は、ドキュメントを検索可能にすることではありません。
企業内に散在する文書や会話、設計書、ソースコードなどから、AIが理解できる知識構造を継続的に生成・更新することにあります。
オントロジーは「組織が何を知っているか」を表し、Knowledge Graphは「それらがどう結び付いているか」を示します。そしてDSLは「どのように判断すべきか」を形式化します。
これらが組み合わさることで、企業の知識は単なる情報の蓄積から、AIが推論し、意思決定に活用できる知識資産へと変わります。
Knowledge Flowは、この知識資産を継続的に育て、Decision Trace ModelやRuntime OSへ供給する「知識インフラ」です。
AI時代に競争力を生み出すのは、より大きなモデルではありません。
組織固有の知識をどれだけ構造化し、継続的に進化させられるか。
Knowledge Flowは、そのための基盤となるアーキテクチャなのです。

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この記事は Chinoba Knowledge Base の一部です。

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