故障リスク解析とオントロジーについて(FEMA、HAZID)

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故障リスク解析とオントロジーについて(FEMA、HAZID)

故障リスク解析は、機械や設備などのシステムの故障リスクを評価し、故障が発生する可能性や影響を予測する手法となる。故障リスク解析は、安全性や信頼性を高めるために重要な作業であり、様々な産業分野で活用されている。

オントロジーとは、ある特定の領域に関する知識を体系化したもので、その領域における概念、属性、関係などを定義したものとなる。このオントロジーは、故障リスク解析において、リスク要因や評価指標などの用語や概念を統一的に定義するために役立つ。例えば、機械の故障リスク解析においては、機械の部品や機能、運転条件などがリスク要因となり、オントロジーを用いることで、これらの用語や概念を一貫して定義し、異なる解析においても共通の理解を持つことができる。

また、オントロジーを用いることで、故障リスク解析に必要な情報を構造化して管理することもできる。例えば、故障履歴や修理履歴などのデータをオントロジーに基づいて分類することで、異なる機械や設備のデータを統合的に管理することができる。

さらに、オントロジーを用いることで、故障リスク解析の結果を分かりやすく可視化することができる。これにより例えば、リスク要因ごとにグラフを作成することで、故障の可能性や影響を直感的に理解することができるようになる。

ここではこの故障リスク解析とオントロジーに関して「Ontology Modeling in Physical Asset Management」第3章FMEA、HAZIDとオントロジーについてをベースに述べる。

FMEAは故障モード解析(Failure Mode and Effect Analysis)の略で、故障不具合の防止を目的とした潜在的な故障の体系的な分析手法となる。

同様の故障解析手法としてはFTA(Fault Tree Analysis)があるが、FTAは製品の好ましくない事象を初めに仮定し、それについて考えられる故障・事故に至った道すじを、発生確率とともに木構造に記述していくトップダウンの手法であるのに対して(下図)

機械振興協会のFTA解説図より

FMEAは故障そのもの(機能)ではなく、故障をもたらす不具合事象を記述していくボトムアップ的な解析手法となる。具体的には、準備として、システムの情報の整理(構造・機能・構成部品等)を行なった後、故障モードの列挙とその影響、想定される故障モード等を整理した以下に示すようなFMEAシートを作成する。

機械振興協会FMEAワークシートの作成方法より

*機械振興学会HP

HAZIDはHazard Identification Studyの略で、プラントやシステムにおける安全性評価手法の一つであり、潜在的なリスク(ハザード)項目の洗い出しと、そのリスクの大きさの評価を行うものとなる。Hazard の同定作業は、What-if 法やその改良版である構造化What-if 法(Structured What-If Technique:SWIFT)等を用いて行われる。これは構造化されたワークシートを用いて,”What-if”,”How could”,”It is possible” といった質問をもとにブレインストーミングを実施するもので、様々なトラブルを事前に想定する為に行われる。

本書ではFMEA、HAZIDの紹介の後にそれらとオントロジーを組み合わせた具体的な事例について紹介している。目次を以下に示す。

これらオントロジーによって整理されたナレッジとストリームデータハンドリングに代表されるIOT技術、更にスパースモデリング深層学習時系列データ解析等の機械学習技術や、各種推論技術を組み合わせることで、自律的なリスク管理システムの構築が可能となる。

3.1 What Is FMEA
        (FMEAとはなにか) 
3.1.1 Why FMEA 
      (何故FMEAなのか)
3.1.2 FMEA:What Is the Problem 
      (FMEA:何が課題なのか)
3.1.3 How to Do the FMEA 
      (どのようにしてFMEAを行うのか)
3.1.4 Prioritizing 
      (プライオリティ付け)
3.1.5 How Can We Use the FMEA Results 
      (どのようにしてFMEAの結果を利用するのか)
3.1.6 Failure Modes 
      (故障モード)
3.1.7 FMEA for the System 
      (システムのためのFMEA)
3.2 What Is HAZID 
    (HAZIDとは何か)
3.2.1 HAZID as an Alternative Approach 
      (もう一つのアプローチとしてのHAZID)
3.2.2 HAZID Based on Function 
      (HAZIDベースの機能)
3.2.3 HAZID Based on Components 
      (HAZIDベースのコンポーネント)
3.3 The System's Environment 
    (システム環境)
3.3.1 Generic Fault Tree 
      (総合的な故障木)
3.3.2 Environmental Hazard Lists 
      (環境リスクリスト)
3.3.3 Combining FMEAs 
      (FMEAを組み合わせる)
3.3.4 Case-Consequence Diagrams 
      (ケース・シーケンス・ダイアグラム)
3.4 What Is an Ontology 
    (オントロジーとは何か)
3.4.1 On Ontologies 
      (オントロジーについて)
3.4.2 How to Build an Ontology 
      (オントロジーをどのようにして作るか)
3.4.3 Why Do We Need Ontologies in FMEA 
      (何故FMEAでオントロジーが必要になるのか)
3.4.4 The Component Ontology 
      (コンポーネントオントロジー)
3.4.5 System Ontologies 
      (システムオントロジー)
3.4.6 Ontologies and Failure Propagation 
      (オントロジーと故障の伝搬)
3.4.7 A Simple Control Loop Example 
      (簡単なコントロールループの例)
3.4.8 The Steam Boiler Ontology Example 
      (スチームボイラーオントロジーの例)
3.5 What Is Ontology Good and Where Are Humans Better 
    (オントロジーは何が良くて、人間はどこが良いのか)
3.5.1 The Need for a Tool 
      (ツールの必要性について)
3.5.2 Fitts' List References
      (Fittsのリスト 参考文献)
故障リスク解析にオントロジー技術を組み合わせる

故障リスク解析にオントロジー技術を組み合わせると以下のような事例が考えられる。

  • 知識の体系化と統一化:オントロジー技術を使用することで、故障リスク解析に関連する知識や情報を体系的に整理し、統一化することができる。オントロジーで概念や関係のモデル化を行い、故障に関連する用語や概念を明確に定義することで、異なる人や組織間での共通理解を可能にすることができる。
  • 知識の再利用と共有:オントロジーを使用することで、故障リスク解析に関連する知識を再利用し、共有することが容易になる。オントロジーは形式的な知識表現手法であり、他のシステムやツールとの連携がしやすくなり、さらに、オントロジーを共有することで、異なるプロジェクトや組織間での知識の共有や連携が可能になる。
  • 自動化と効率化:オントロジー技術を組み合わせることで、故障リスク解析のプロセスを自動化し、効率化することができる。オントロジーに組み込まれた知識やルールを活用して、故障リスクの評価や予測を自動的に実行することができ、また、オントロジーを基にしたシステムやツールを開発することで、タスクの簡素化や結果の迅速な生成が可能となる。
  • リスクの可視化と解釈:オントロジー技術を使用することで、故障リスクを視覚化し、理解することが容易になる。オントロジーはグラフやダイアグラムとして表現することができ、リスク要因や関連性を直感的に把握することができる。また、オントロジーを活用してリスクの推論や解釈を行うことで、異常なパターンや隠れた関連性を発見することができるようになる。
  • ドメイン知識の活用:オントロジー技術を組み合わせることで、故障リスク解析におけるドメイン知識の活用が強化される。オントロジーは特定のドメインに関する知識を体系的に表現するため、専門家の知見や経験を組み込むことができる。これにより、より正確な故障リスク評価や予測が可能となる。

以上のように、故障リスク解析にオントロジー技術を組み合わせることで、より効果的な知識管理とリスク管理が実現される。

故障解析技術にAI技術を組み合わせる

故障解析技術にAI技術を組み合わせることで、以下のような事例が考えられる。

  • データの分析とパターン認識: AI技術を使用することで、大量の故障データやセンサーデータを効率的に分析し、異常なパターンや故障の要因を認識することができる。これは、機械学習アルゴリズムやパターン認識手法を活用して、データからのパターンや相関関係を抽出し、故障の予測や特定を行うものとなる。
  • 予知保全と異常検知: AI技術を応用することで、リアルタイムでの故障検知や予知保全が可能になる。これにより、センサーデータや監視データをAIモデルに入力し、異常な動作やパフォーマンスの低下を検知することで、故障の予兆を早期に察知し対策を講じることができるようになる。
  • リスク評価と優先順位付け: AI技術を組み合わせることで、故障リスクの評価と優先順位付けを効率的に行うことができる。機械学習モデルや統計手法を使用して、リスク要因や影響度を推定し、リスクの高い順に優先順位をつけることができ、これにより、リソースや予算の最適な配分が可能となる。
  • フェイルセーフ設計と最適化: AI技術を活用することで、システムや製品のフェイルセーフ設計と最適化を行うことができる。これは、AIモデルやシミュレーションを使用して、異常な状態や故障のシナリオを予測し、設計上の弱点を特定し改善することができるようになり、最適なメンテナンススケジュールや予防保全活動の計画立案にも活用できる。
  • ナレッジマネジメントと意思決定支援: AI技術を組み合わせることで、故障解析の結果や知識をナレッジベースとして蓄積し、意思決定支援に活用することができる。AIモデルや推論エンジンを使用して、故障解析の結果や過去の対応策から適切なアクションや予防策を提案することが可能となる。

以上のように、故障解析技術にAI技術を組み合わせることで、より効率的な故障検知、予測、リスク評価、フェイルセーフ設計、意思決定支援などが実現される。これにより、故障リスクの最小化やシステムの信頼性向上に貢献する。

故障解析技術にAI技術とオントロジー技術を組み合わせる

故障リスク解析にオントロジーとAI技術を組み合わせることで、以下のような事例が考えられる。

  • 知識の統合と共有:オントロジーとAIを活用することで、故障リスク解析に関連する知識や情報を自動的に統合管理し、共有することが可能となる。これにより、さまざまなデータソースやドメインの知識をオントロジーに統合し、より包括的な故障リスクの把握が可能になる。
  • 知識の自動化と検索: オントロジーを活用したAI技術を使用することで、故障解析に関連する知識の自動化と検索が容易になる。オントロジーに基づいて知識ベースを構築し、AIモデルを適用することで、自動的に故障解析に必要な知識やルールを活用し、また、ユーザーは自然言語で質問やクエリを行い、AIシステムがオントロジー内の知識を検索して適切な回答や情報の提供が可能となる。
  • データ分析とパターン認識: AI技術を使用して大量の故障データやセンサーデータを分析し、パターン認識を行い、オントロジーの知識とAIモデルを組み合わせることで、故障の特徴や要因を抽出し、異常なパターンを検知することが可能となる。これにより、早期の故障予知やリスク評価が行える。
  • リスク評価と最適化: AI技術とオントロジー技術を組み合わせることで、リスク評価と最適化が強化される。AIモデルを使用してリスク要因や影響度を推定し、リスクの高い順に優先順位をつけることができ、また、オントロジーに基づいた知識とAIモデルを組み合わせて、最適なメンテナンススケジュールや予防保全活動を計画することができる。
  • ナレッジマネジメントと意思決定支援: オントロジー技術とAI技術を組み合わせることで、故障解析の結果や知識をナレッジベースとして蓄積し、意思決定支援に活用することができる。これはオントロジーに基づく知識ベースとAIモデルを統合し、故障解析の結果から適切なアクションや予防策を提案するものとなる。
  • 自動化と効率化:AI技術を組み合わせることで、故障リスク解析のプロセスを自動化し、効率化することができる。オントロジーとAIモデルを統合したシステムは、データの収集、分析、結果の生成までを自動的に実行し、迅速なリスク評価や意思決定を支援する。
  • リアルタイムモニタリングとフィードバック:AI技術を活用した故障リスク解析システムは、リアルタイムにデータをモニタリングし、異常や故障の予兆を検知することができる。オントロジーに基づく知識とAIアルゴリズムを組み合わせることで、運用中のシステムの状態を常に監視し、適切な対策やメンテナンスを提案することができる。

これらの故障リスク解析においてオントロジーとAI技術の組み合わせは、より高度な分析と効果的なリスク管理を可能にするものとなる。

コメント

  1. […] Chapter3 FMEA, HAZID, and Ontologies […]

  2. […] ある特定のドメインに限定し知識がある程度集められるケースでは、この後ろ向き推論のアルゴリズムが有効に働く。例えば製造の現場でよく用いられるFTA(Fault Tree Analysis:故障木解析)やFMEA (Failure Mode and Effects Analysis:故障モードと影響解析)は、故障やトラブルに対する知識を網羅的に抽出/分析するフレームワークであり、そこで抽出された知識をprolog等の後ろ向き推論エンジンに用いる事で有効に活用する事ができる。 […]

  3. […] これに対して、コンピューターを用いたアプローチが1980年代より行われ始める。多数のパラメータのあるモデルへの対応として階層ベイズやギブスサンプラー等のマルコフ連載モンテカルロ法 (MCMC) 等を使う事で一度に相手にするパラメータを限定して逐次計算していくと言う手法が取られ始める。また機械学習のキモの一つである関数の積分による最適化の手法を組み合わせることで、大きな飛躍が得られた。実際に使われた領域としては、故障分析や病気の要因の抽出、そしてデジタル画像修復等の画像処理の分野等がある。 […]

  4. […] model部は様々な確率分布で構成される。例えば、ある商品を買うか買わないか、薬が効くかどうかなどの結果が二値で表される場合に適用されるベルヌーイ分布や二項分布、品目がN種類あり、それぞれの品目の故障率の分布を考える場合に適用されるベータ分布、文書の中のトピックの分布を求めるのに使われるカテゴリカル分布やディリクレ分布等々。 […]

  5. […] 以前述べたベイズ推定の応用としてベイジアンネットがある。ベイジアンネットは様々な事象間の因果関係(厳密には確率的な依存関係)をグラフ構造で表現するモデリング手法の一つで、故障診断や気象予測、医療的意思決定支援、マーケティング、レコメンドシステムなど様々な分野で利用や研究が行われている。 […]

  6. […] 故障リスク解析とオントロジーについて(FMEA、HAZID) […]

  7. […] これらのアプローチにより、「プラントエンジニアリングオントロジーISO15926」や「故障リスク解析とオントロジーについて(FEMA、HAZID)」、「企業内データへのオントロジーの適用」に述べられているようなプラント、故障解析、エンタープライズの知識表現(オントロジー)と組み合わせることで、インダストリー4.0、スマートシティ、スマートビルディング等のリアルタイムのセンサーアプリケーションを構築することができる。 […]

  8. […] 故障リスク解析とオントロジーについて(FMEA、HAZID) […]

  9. […] による最適化の手法を組み合わせることで、大きな飛躍が得られた。実際に使われた領域としては、故障分析や病気の要因の抽出、そしてデジタル画像修復等の画像処理の分野等がある。 […]

  10. […] 故障リスク解析とオントロジーについて(FMEA、HAZID) […]

  11. […] ベイジアンネットは様々な事象間の因果関係(厳密には確率的な依存関係)をグラフ構造で表現するモデリング手法の一つで、故障診断や気象予測、医療的意思決定支援、マーケティング、レコメンドシステム、あるいは電車の混雑状況や、津波・地震などの災害・株価のリアルタイム処理・スパムメールの分類・レコメンドシステム・センチメント分析等で使われるナイーブベイズ、音声認識、バイオインフォマティクス、形態素解析(自然言語処理)、楽譜追跡、部分放電など、時系列パターンの認識に応用される隠れマルコフモデル等がある。 […]

  12. […] それらの技術に加えて近年の最新IT技術であるセマンティックウェブ技術やIOT技術、ストリーミング推論技術を用いたスマートファクトリー技術を適用することで運用の効率化が行え、更にリスク解析技術と融合されたICT技術を用いることで更なる安全性の追求ができるものと考えられる。 […]

  13. […] 故障リスク解析とオントロジーについて(FMEA、HAZID) […]

  14. […] 各種ドキュメンテーションを行う際に重要となるものは、そこで使われる用語・概念の統一となる。オントロジーを用いることでそれらを効率的に統合することが可能となる(参照)。また”故障リスク解析とオントロジーについて(FMEA、HAZID)“に述べているような様々な故障解析の概念とも容易に結びつけることができる。 […]

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