太陽電池の概要と課題とペロブスカイト太陽電池

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はじめに

“中国の太陽電池市場、深刻な供給過剰の先にある「ペロブスカイト型太陽電池」への期待”によると

「業界最大手である隆基緑能(上海601012)は5月29日、主力製品であるP型M10規格150ミクロン単結晶ウエハー価格について30.8%、同じくM6について30%引き下げたと発表した。同社は4月27日に3%と小幅ではあるが同製品を値下げしたばかりである。これを受けて、競合大手のTCL中環(002129)も6月1日、サイズの異なる複数の製品を16~24%値下げしている。”としている。

太陽電池産業全体でみても、他産業からの参入が相次ぎ競争は激化している。たとえば、証券日報(6月5日付)によれば、太陽光パネルの原材料となるシリコンの2023年における年間生産設備能力は210万トンに達する見込みだが、実際の需要は110万トン程度でしかないそうだ。

隆基緑能の創業者であり、会長の李振国氏は5月23~26日にかけて上海で行われた太陽光発電に関する国際展示会(SNEC2023展示会)に出席、その基調講演において今後の業界見通しについて次のように話している。 「クリーンエネルギーへの転換はすでに世界のコンセンサスとなっており、業界全体の規模は今後も拡大するだろう。しかし、その発展は直線的ではなく、段階的に進む。現在はその停滞段階にあり、今後2~3年で半分以上の企業が淘汰されるだろう」

このような停滞段階(供給過剰)が発生するのは、発展が段階的に進むことに起因する。技術進歩は直線的に進むわけではないのだ。証券日報は上海交通大学太陽エネルギー研究所の沈文忠所長の意見として、「太陽電池は現在、PERC(Passivated Emitter and Rear Cell)技術が主流だが、今後3~5年の間でTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)への転換が起こるだろう」といった予想を伝えている。  その先は、薄くて、軽く曲げることができ、これまでは難しかった自動車ルーフのようなところにも設置することのできるペロブスカイト型太陽電池が代替することになりそうだ。こうした段階的な技術進歩によって、従来の設備が更新される。技術進歩についていけない企業は淘汰され、それと同時に新技術の開発に特化したベンチャー企業に発展のチャンスが生まれ、全体として市場は段階的に大きく成長する。」

と述べられている。日本で1973年に始まったサンシャイン計画により数十年の技術的蓄積を得て大きく華開いた太陽電池技術も、一つの踊り場に到達し、次のステップに向かって進もうとしている。今回はその太陽電池の概要とその未来について述べたいと思う。

太陽電池について

クリーンエネルギーの筆頭技術である太陽電池は、半導体材料を使用して光エネルギーを受け取り、それを電子の動きに変換する太陽光エネルギーを直接電気エネルギーに変換するデバイスとなる。

この半導体は”コンピューターを構成する計算要素と半導体チップについて“で述べているように、膜中の電子(と正孔)を制御することができる材料であり、特定の波長の光を当てることでその光が吸収されそのエネルギーにより電子(あるいは正孔)が励起(光起電力効果(photovoltaic effect))される特徴を持つ、太陽電池はこのを原理を利用し、下図で示すように、光を当てるとマイナスの電荷(電子)とプラスの電荷(正孔)を生成する2種類の材料をつなげて直流電力を生成することを原理としている。

東京電力 EV DAYSより

 

この光起電力効果を持った半導体の組み合わせには様々なものがあるが、Si系の太陽電池は、”半導体製造技術の概要とAI技術の適用について“に述べているチップ作成技術がそのまま適用でき、さらに微細加工技術が不要であることから低コストでの大量生産が容易であるという利点を持ち、現在の主流の構成となっている。このSi系の太陽電池には、以下に示すような様々な形態の構造が存在する。

  • 結晶シリコン太陽電池:  結晶シリコン太陽電池は、単結晶シリコンまたは多結晶シリコンのウェハ(薄い円盤状のシリコン基板)から作られている。シリコンは半導体材料であり、光子がシリコンに当たると、電子が活性化されて電気エネルギーを生み出す。結晶シリコン太陽電池は、現在のソーラーパネルでの主流となる(2022年の統計でシェア97%)。
  • 多結晶太陽電池: 多結晶シリコン太陽電池は、主に結晶シリコンより作られているものとなる。多結晶にすることにより、低コスト化、高効率化が期待されている材料となる(現在のシェアは1%未満)。
  • 薄膜太陽電池: 薄膜太陽電池は、薄いシリコンまたは他の半導体材料の薄膜で作られており、薄膜太陽電池は結晶シリコン太陽電池よりも材料の使用量が少なく、柔軟性がありますが、効率はやや低い傾向があるものとなる(シェアは3%程度)。

このようなSi系の太陽電池には以下のような課題が存在する。

太陽電池の課題
  • 効率向上の課題: 現在の太陽電池技術は、太陽光を電力に変換する際の効率に制約があり、一部の太陽電池は、太陽光の一部しか捕捉できず、光のエネルギーを最大限に活用することができない。
  • 材料の希少性: 現在の太陽電池には、一部の材料が希少で高価であるという課題があり、特に結晶シリコン太陽電池に使用されるシリコンの供給が限られているため、価格の上昇や供給不足のリスクがある。
  • 耐久性と安定性の課題: 太陽電池は、長期間にわたって安定してパフォーマンスを発揮する必要があるが、外部の環境要因によって劣化する可能性がある。
  • 製造コストとスケーラビリティの課題: 太陽電池の製造コストを低減し、大規模な製造プロセスに対応することも課題となる。

これらの課題に対処するために、次世代太陽電池と呼ばれるものが開発されている。以下にそれらについて述べる。

次世代太陽電池について

次世代太陽電池は、従来の太陽電池よりも効率的で、より持続可能なエネルギー変換技術を提供することを目指して開発されているもので、材料としてはSi系以外の半導体や、有機半導体、あるいはそれらのハイブリッド構造などに対して研究が行われている。以下に、それらの中からいくつかについて述べる。

  • 化合物半導体太陽電池 : 化合物半導体太陽電池は、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム砒素(InAs)、ガリウムアーセン化インジウム(GaInAs)などのIII-V族の化合物半導体材料を用いた太陽電池で古くから検討が行われているものとなる。これらの材料は、高い光吸収係数と優れたキャリア移動特性を持っており、高い太陽光電変換効率を実現することができることが期待されているが、製造コストがSiより高くなるという課題を持つ。
  • 有機太陽電池(Organic Solar Cells): 有機太陽電池は、炭素ベースの有機材料を使用して太陽光を捕捉するもので、構成材料としては、有機半導体、電荷輸送材料、基板材料などで構成されている。有機材料は柔軟で軽量であり、低コストで大面積の太陽電池パネルを作成することができるという特徴を持つが、現在の有機太陽電池の効率はSiに比べると低い。
  • マルチジャンクション太陽電池(Multi-Junction Solar Cells): マルチジャンクション太陽電池は、複数の異なる材料層を組み合わせた構造を持ち、太陽スペクトルの広い範囲を効率的に変換する構造を持ったものとなる。この太陽電池は、特に集光型太陽電池システムや宇宙航空産業など、高エネルギー密度が求められる応用分野で使用されているが、製造コストや複雑な製造プロセスの課題もあり、より実用的な展開にはさらなる研究と技術の進展が必要なものとなる。
  • 量子ドット太陽電池:ナノスケールの半導体結晶である量子ドットを利用した太陽電池で、高い変換効率、多重効果と熱安定性、柔軟性等の特徴を持つが、量子ドットの安定性や製造の課題など、さまざまな課題も残されており実用までは遠い技術となる。
  • ペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cells): ペロブスカイト太陽電池は、特殊な結晶構造を持つペロブスカイト材料を使用して光を変換します。この太陽電池は、低コストで製造でき、効率も高いとされています。しかし、ペロブスカイト材料は湿度や熱に敏感であり、耐久性の向上が課題とされている。

これらの中で次世代太陽電池として最も注目を浴びている有機太陽電池とペロブスカイト太陽電池について更に述べる。

有機太陽電池

有機太陽電池は、炭素ベースの有機材料を使用して太陽光を電力に変換する太陽電池となる。用いられる材料としては、電子伝導や光吸収の役割を持つ有機半導体(ペロブスカイト(perovskite)や各種ポリマー(polymer)等)光から生成された電子と正孔を効果的に集めて電流を生成するために必要な電荷輸送材料(フラーレン(fullerene)やペロブスカイト等)、柔軟性と軽量性の特徴を活かすために必要な基板材料(ポリエステル(PET)やポリイミド(PI)等)などで構成されている。以下に、この有機太陽電池の利点と課題について述べる。

利点:

  • 低コスト: 有機材料太陽電池は、従来のシリコン太陽電池よりも低コストで製造することができる。有機材料は比較的安価で、製造プロセスも印刷や塗布などの簡便な方法で行えるため、生産コストを削減することが可能となる。
  • 柔軟性: 有機材料太陽電池は、柔軟な素材で作られているため、曲げたり曲げたりすることができる。これにより、フレキシブルな電子機器や可撓性のある表面に組み込むことが可能となる。また、軽量性もあるため、様々なアプリケーションに適している。
  • 低光条件での性能: 有機材料太陽電池は、弱い光や間接光に対しても比較的高い変換効率を示す。これは、有機材料が広範な波長の光を吸収する能力を持っているためで、そのため、屋内や曇りの日など、日光の弱い状況でも効果的に電力を生成することが可能となる。
  • 環境への配慮: 有機材料は一般に環境に優しいものであり、再生可能な資源から作られることが多い。また、製造プロセスにおいても、従来の太陽電池に比べてエネルギー消費や環境への負荷が低い場合がある。これにより、持続可能なエネルギー発電の選択肢として注目されている。
  • 製品の柔軟性: 有機材料太陽電池は、その柔軟性と軽量性から、従来の太陽電池では困難だった領域での利用が可能となっている。これは例えば、携帯電話やウェアラブルデバイス、屋根材料、フレキシブルディスプレイなどになる。

課題:

  • 効率の向上:有機材料太陽電池の変換効率はまだ低く、従来のシリコン太陽電池には及ばない。現在の有機材料太陽電池の効率は、10%から15%程度であり、商業化にはより高い効率が求められている。
  • 安定性と耐久性:有機材料は環境条件に対して比較的脆弱であり、光や酸素、湿度などの要因により劣化しやすい傾向がある。これらの太陽電池の長期的な安定性と耐久性の向上のためのブレークスルーが求められている。
  • スケーラビリティ:有機材料太陽電池の製造は、現在は比較的小規模であり、大規模な商業生産にはまだ適していない。製造プロセスのスケーラビリティを改善し、大量生産に対応できるようにする必要がある。
  • 材料の有害性:一部の有機材料は環境に対して有害であり、廃棄物処理における問題を引き起こす可能性がある。これに対しては、環境に配慮した材料の開発と使用が重要となっている。
  • レベル化の難しさ:有機材料太陽電池は、太陽電池パネルの表面に直接塗布することができるため、柔軟性がある。しかし、均一な薄膜形成やパターニングの難しさなどの技術的な課題があり、均一な効率の高い太陽電池の製造には工夫が必要となっている。

このように低コスト、製品の柔軟性などの特徴を持った有機太陽電池だが、効率が低いという課題があり普及までのハードルが高かった。これに対してペロブスカイト太陽電池は、この効率の低さという課題を解決した技術として近年特に注目されているものとなる。

ペロブスカイト太陽電池の概要

ペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell)は、ペロブスカイト構造を持つ光吸収層を使用した薄膜太陽電池の一種であり、ペロブスカイト構造とは、化学組成式がABX3と表される結晶構造のことを指す。

上記はABX3型ペロブスカイト構造の模式図となる。立方体の角にAイオン(CH3NH3,CH”(NH2)2,Csなど)、中心にBイオン(Pb,Sn)、免震の位置にXイオン(I,Br,Cl)が入る構造となっている。

一般的な半導体では、前述のように光を照射すると、自由に移動することのできる電子と正孔が形成されるが、ペロブスカイト半導体では消えるまでの時間が従来の半導体に比べてかなり長く、これが高い性能を示す主な要因となっている。しかしながら、半導体中を動き回る電子や成功の速さが従来の半導体に比べて遅く、電気伝導性はそれほど優れておらず効率を低下させるという課題も持っている。

この課題は、ペロブスカイト半導体の格子が柔らかく電子が周囲の格子系を歪めやすいことから生じていると考えられている。これはポーラロンと呼ばれる電子の状態で、イメージ的には格子が歪められることにより、ちょうどスポンジの上に重いボールをおくとボールがスポンジを歪めて沈み込み、実効的に電子の重さが増大したようになって引き起こされると考えられている。

このような課題を解決するためにペロブスカイト太陽電池では、光吸収層に光起電力効果の効率の良いペロブスカイト材料を用い、そこから取り出した電子や正孔を、電子輸送層や正孔輸送層でサンドイッチすることで、電気伝導性を向上させて全体の効率を上げる構造となっている。

ペロブスカイト太陽電池は、2010年代初頭に注目を浴び、急速に発展している。その特徴的な点は、低コストで製造でき、非常に高い太陽光電変換効率を実現できることで、実験室内では、ペロブスカイト太陽電池の効率は既存の太陽電池技術よりも高くなる可能性が示されている。

現在、ペロブスカイト太陽電池はその安定性向上と商業化に向けて取り組みが盛んに行われている。これらに関しては、先の記事で「中国の南京工業大学は2022年11月、「スクリーン印刷技術に基づくペロブスカイト型太陽電池」に関する研究成果をイギリスの科学誌「Nature」に掲載している。  また、ペロブスカイト型太陽電池の製造を目的としたベンチャー企業の大正(江蘇)微納科技が2018年に誕生している。上場企業では隆基緑能が積極的に開発を続けており、前述のSNEC2023展示会において、ペロブスカイト型太陽電池の試作品が世界第3位となる31.8%の変換効率(ドイツFraunhofer ISEによる検査結果)を達成したと発表している。」と述べられている。

このように将来性を期待されているペロブスカイト太陽電池だが、以下に示すようないくつかの課題も存在している。

ペロブスカイト太陽電池の課題

以下に、ペロブスカイト太陽電池の主な課題について述べる。

  • 安定性と耐久性: ペロブスカイト材料は湿度や酸素といった外部の環境条件に対して比較的不安定であり、劣化しやすい傾向がある。そのため、長期的な安定性と耐久性の確保が課題となっており、劣化の原因としては、湿度や酸素によるペロブスカイト層の分解、金属電極の腐食、界面の劣化などが挙げられている。
  • 毒性の問題: 一部のペロブスカイト材料には、鉛(Pb)などの有害な元素が含まれる場合があり、環境への影響や廃棄物処理の問題が発生する可能性がある。このため、日本を含む先進国では、その活用に躊躇する動きが見られ、環境に優しい代替材料の開発が検討されている。
  • 構造の制御と均一性: ペロブスカイト太陽電池の効率を向上させるためには、薄膜の均一性と結晶構造の制御が重要となる。ペロブスカイト材料の結晶成長には制御が難しく、欠陥や不均一な層の形成が起こる可能性があり、これにより効率低下や安定性の問題が生じる。
  • スケーラビリティと製造コスト: ペロブスカイト太陽電池の商業化には、大規模な製造能力と低コストの製造プロセスが必要となる。現在の製造方法は高度な工程や専門的な設備を必要とし、コストが高い傾向があり、効率的かつ経済的な製造プロセスの開発が課題となっている。

これらの課題に対して、中国等の太陽電池開発メーカーは早期の市場導入に向けて改善を進めている。

太陽電池と人工知能

最後に、人工知能技術による太陽電池技術の改善のアプローチについて述べる。それらは主に、エネルギーの効率化やシステムの最適化に用いられている。

  • パフォーマンスの予測と最適化: 人工知能技術は、太陽電池のパフォーマンスを予測し、最適化するために使用される。AIモデルは、気象データ、日射量、温度、太陽電池の特性などの複数の入力パラメータを分析し、太陽電池の出力を予測することができる。これにより、太陽光発電システムの効率を向上させ、電力生成の最適なタイミングや量を把握することができる。
  • メンテナンスとトラブルシューティング: 人工知能技術は、太陽電池システムのメンテナンスやトラブルシューティングにも活用される。AIアルゴリズムは、太陽電池の出力データやセンサーデータをリアルタイムで分析し、異常なパフォーマンスや故障の兆候を検知することができ、これにより、問題を早期に検出し、保守作業や修理の効率化が可能となる。
  • システムの最適化と制御: 人工知能技術は、太陽電池システム全体の最適化と制御にも活用される。AIモデルは、太陽電池の出力データ、電力需要、電力価格、エネルギー貯蔵システムなどの情報を継続的に分析し、最適な電力供給戦略を提案する。これにより、電力の効率的な利用や電力ネットワークとの連携が可能となる。
  • セル設計と材料探索: 人工知能技術は、太陽電池のセル設計や材料探索にも応用される。AIモデルは、材料データベースや物性データから情報を学習し、新しい材料の特性を予測することができ、これにより、より効率的な太陽電池の開発や新しい材料の探索が促進されている。

 

コメント

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