情報としての生命 – 目的と意味

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情報は生命の中にある

WHAT IS LIFEより。

この本の作者であるポール・ナースはある早春の日、庭に舞い込んできた蝶の姿を見て、自分とはまったく違うけれど、蝶は自分と同じく紛れもなく生きていて、動くことも感じることも反応することもできて「目的」に向かっているように感じ、「生きているということはいったいどういうことなんだろう」という疑問を持っている。

「WHAT IS LIFE」は、物理学者エルヴィン・シュレディンガー「命とはなにか」からのオマージュとなる。

シュレディンガーは物理を勉強するものには馴染みの深いシュレディンガー方程式(“時間と空間を結ぶ方程式“や”量子力学と人工知能と自然言語処理“でも述べている)を見つけ出したことでも有名な物理学者となる。彼はその図書の中で、熱力学の第二法則によれば、つねに無秩序や混沌へと向かっていく森羅万象の中で、生き物たちがどうやって、こんなにも見事な秩序と均一性を何世代にもわたって保っていられることが、大問題であることを的確に捉えていた。そこで彼は、世代間で忠実に受け継がれてゆく「遺伝」を理解することが鍵だと考え「命とはなにか」でそれらについて述べている。

「WHAT IS LIFE」でもシュレディンガーと同様に遺伝の観点から生物の成り立ちを述べているが、本の最後に「情報としての生命」の章がある。

「情報としての生命」は、生命の存在や進化を情報の観点から理解しようとするアプローチであり、この視点では、生命は単なる物質の集合体ではなく、情報処理や遺伝子伝達などのプロセスによって定義されるものと見なしている。

生命は、遺伝子を通じて情報を受け継ぎ、進化の中で変化し続けるという特徴があり、遺伝子は生物の形質や機能をコード化するため、これを情報の媒体と見なすことができ、また、生命体は環境から情報を収集し、それに対応して反応する能力を持っていると考えることができる。

このように情報を中心においた視点により、生物学や進化生物学、情報科学などの複数の分野が交わり、「情報としての生命」のアイデアが形成され、生物が情報処理のシステムとして捉えられ、例えばこの考え方では、進化は情報の複製や変異といったプロセスによって駆動されるとされる。

この「情報としての生命」は以下のような文から始まっている。

「街の中を飛んでいる蝶はなぜ飛んでいるのか?蝶のふるまいの理由をするすべはないが、はっきり言えることは、蝶は周りの世界と相互作用して、行動をとっていたということと、そのために、蝶は情報を管理していたということになる。

情報は、蝶という存在の中心にあるし、あらゆる生命の中心にある。生体が、組織化された複雑なシステムとして効果的に機能するためには、自分達が住む外の世界と身体の内側世界との、両方の状態について、情報を絶えず集めて利用する必要がある。内側と外側の世界は変化するから、生命体にはその変化を検出して反応する方法が必要となる。そうでなければ、あまり長生きできないだろう。

蝶の場合は、飛び回りながら、五感でその場の詳細な絵を作り上げていく。目で光を検出し、触覚で辺りの様々な化学物質の分子を集め、体毛は空気の振動を感知しながら膨大な情報を集め、それらから、すぐに行動をまとめて役に立つように「知識」とする。

その知識は、鳥や好奇心旺盛な子供の影を検出し、鼻から漂う蜜の香りを認織していたのかもしれない。これが、鳥を回避したり、花にとまって蜜を吸うかのどちらかへと蝶を導く、秩序だった一連の羽の動きへと繋がっていく。蝶は多くの異なる情報源を組み合わせ、自分の未来が良くなる決定を下すために利用しているのである。

このような情報への依存は、生物が目的意識を持って行動することと密接に関連している。蝶が集めた情報には、なんらかの「意味」があり、蝶はそれを利用し、特定の目的を達成するために、次に何をすべきかを決める。つまり、蝶は目的を持って行動していたということもできる。

生物学では、目的について論じても、あまりおかしいとは思われない。一方、物理学では、川や彗星や重力波の目的について問うことはない。でも酵母のcdc2遺伝子の目的や、蝶が飛ぶ目的を問うことには意味がある。

あらゆる生体は、自らを維持し、組織化し、成長し、そして増殖する。これらは、生物が自分と子孫を永続させたいという、基本的な目的を達成するために発達させてきた目的となる。」

ここでは、生命と非生命との違いは「目的」を持っていることであると述べられている。この「目的」により、生命の周りにある情報に「意味」がつけられ、それにより次に何をすべきか決めているとしている。

「生物の目的」と「情報の意味」

ここで、生物の持つ目的と情報の意味との関連性についてもう少し考えてみる。

以前”意味とは何か(1)哲学入門“でも述べた戸田山 和久「哲学入門」では「目的手段推論」という言葉が述べられている。

「目的手段推論」とは、人間は、目的をもって行動することができ、ある目的を達成するためにどの手段を選ぶか考える(推論する)ことができるということであり、この目的手段推論により、いますぐには達成できない夢や目標(つまりは目的)をもって努力するということが可能となり、そのような手のこんだ考え方を持てるようになったことが、人間と他の動物との違いであると「哲学入門」の中で述べられている。

この目的と手段について更に考察を深めたものに、デイヴィッド・パピノーの考えた生き物の認知デザインの進化がある。これらよると生き物の認知デザインにはいくつかの段階があり、まず「モノトマータ」、次のレベルとして「機会主義者(opportunisy)」、そして「ニーズを持つもの(deeder)」と進化していくとしている。

「モノトマータ」は最も単純なデザインであり、「Rしろ」という命令にだけ従う生き物となる。つまり、この生き物はいつも同じことしかしない。たとえば、口を開けたままランダムに絵ゴキまわり、入ってきたものを何であれ消化して栄養にするものとなる。

この生物は、コンピューターのプログラミングで言うと、シンプルな手続き型のアルゴリズムであると言うことができる。

次の「機会主義者(opportunisy)」は「もしCならRせよ」に従って行動する生物であり、環境の条件Cに行動Rを合わせることができる。CとしてRがうまくいく条件を考えると、Rがうまくいく場合だけRをするので、無駄がなくエネルギーを節約できる。これは例えば、目の前に黒い小さいもの(たいていはハエ)が現れたときだけ、舌を伸ばしてそれを食べるカエルのようなものとなる。

これはプログラミングで言うと、if-thenの分岐であり、”ルールベースと知識ベースとエキスパートシステムと関係データ“で述べているエキスパートシステムのようなものとなる。またもう少し進んだものだと、”機械学習における類似度について“に述べているような機械学習を用いたロバスト性のある条件の一致を用いたアルゴリズムとなる。

第三段階の「ニーズを持つもの(deeder)」は「もしCでDならRせよ」という命令に従っている生物となる。これは行動Rが外部環境Cだけでなく、そのときの生き物の内部環境、つまりニーズDにも左右される生き物と定義されている。これは例えば、栄養が必要でないときは虫を見ても食べないような生き物となる。

これはプログラミングの世界でいうと、”オートマトン理論の概要と実装、参考図書“で述べられているオートマトンや、”有限状態マシン(FSM:Finite State Machine)の概要と実装、参考図書“で述べられているFSM、あるいは”ペトリネット技術の概要と人工知能技術との組み合わせ、各種実装について“で述べられているペトリネットで記述される状態と、前述の分岐を組み合わせるものとなり、より複雑なアルゴリズムとなる。

「機会主義者(opportunisy)」では外部の情報を内部の条件分岐のアルゴリズムで動作可能な情報Cに変換(情報の記号化)しており、「ニーズを持つもの(deeder)」では同様に外部情報の記号化が行われると共に、記号化された内部状態Dにより行動Rがドライブされる。

この外部の情報が内部で利用可能な形となったCが、「意味」と呼ばれるもので、行動をドライブする記号化された内部状態が「目的」と呼ばれるものに繋がっていく。

自然言語の観点からの抽象と具体“で述べているように言葉の意味は、現実の事物から離れた抽象世界にあり、”人工無能が語る禅とブッダぼっど“で述べているようにその世界は無限の「空」の世界にとなり仏教で言う唯識論(全てのものは認織で作られる)で生成される。その世界に秩序をもたらすものが「目的」であり、それがあることが生物を生物たらしてめているということができる。

「目的」と「意味」の議論はルース・ギャレット・ミリカンによるオシツオサレツ(pushmi-pullyu)表象や、ジェイムス・ギブソンによるアフォーダンスの議論に繋がっていくがそれらについては次の機会に述べたいと思う。

コメント

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  4. […] や型のそもそもの意味を考える必要があり、さらに意味を考える上では”情報としての生命 – 目的と意味“でも述べているように目的を考えることが重要となる。混沌とした世界 […]

  5. […] “チューリングテストとサールの反論と人工知能“でも述べているように、人間のように考えることができる機械をつくることが人工知能技術の目標であり、単純な計算しかできない機械と、知能との根本的な相違点は、”情報としての生命 – 目的と意味“でも述べている「目的」の導入となる。 […]

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