オントロジー・DSL・BTはどうやって効率的かつ正確に作るのか ― 判断構造を設計する実践的方法 ―

これまでの記事では、
なぜ判断を外在化する必要があるのかを説明してきました。

その中核となる三つの構造要素は:

  • オントロジー
  • DSL(判断契約)
  • ビヘイビアツリー

しかし、当然次の問いが生まれます。

それらを実際にどう構築するのか?

設計を誤れば、

  • 硬直化しすぎる
  • あるいは柔軟すぎて曖昧になる

本稿では、
オントロジー・DSL・ビヘイビアツリーを
効率的かつ正確、そして持続可能に構築する方法を整理します。


1. オントロジー ― 分類ではなく「摩擦」から始める

オントロジー設計でよくある誤りは、

「すべてを分類しようとする」ことです。

その結果、

  • 抽象的すぎる分類
  • 哲学的議論
  • 終わらない命名論争
  • 実務価値の欠如

が起こります。

オントロジーは理論から始めるべきではありません。

判断の摩擦から始めるべきです。


Step 1:繰り返し発生する判断衝突を特定する

次の問いを投げてください。

  • どこで議論が繰り返し止まるか?
  • KPI定義はどこでずれているか?
  • 「それはケースによる」が頻出するのはどこか?
  • 事後説明が食い違うのはどこか?

オントロジーは、こうした不安定領域を固定するためのものです。

「来場」の定義で揉めるなら、それはオントロジー問題です。
「VIP」の意味が部署ごとに違うなら、それはオントロジードリフトです。

オントロジーは、その境界を凍結する作業です。


Step 2:境界を運用契約として定義する

悪い定義:

来場とは、施設に入ること。

良い定義:

来場 = ジオフェンス内に3分以上連続滞在すること。

良いオントロジーの条件:

  • 測定可能
  • 検証可能
  • 監査可能
  • バージョン管理可能
  • モデル出力に依存しない

オントロジーは意味の美しさではありません。

境界の精度です。


Step 3:すべてをバージョン管理する

意味は変化します。

上書きしてはいけません。
バージョンを付けます。

例:

visit.v1
visit.v2(滞在時間条件を追加)

バージョンがなければ、
過去の判断を再現できません。

再現性は監査可能性の基盤です。


2. DSL ― 表現力ではなく「変更耐性」で設計する

DSLはプログラミング言語ではありません。

それは判断契約言語です。

目的は高度な表現ではなく、

  • 明確性
  • 監査可能性

です。


Step 1:最小の演算子から始める

最初から

  • ネストされた論理
  • 複雑な量化
  • 任意関数

を入れてはいけません。

まずは:

  • 比較演算子
  • AND / OR
  • 明示的なSignal参照

から始めます。

例:

rule: high_value_user
when:
  - signal: purchase_intent
    op: ">="
    value: 0.8
then:
  action: issue_voucher

柔軟性を早く入れすぎない。

柔軟性は曖昧さを生み、
曖昧さは責任を破壊します。


Step 2:SignalとRuleを分離する

DSL内でSignalを計算してはいけません。

誤り:

if purchase_intent_score(user) > 0.8:

正解:

signal: purchase_intent

Signalはモデルの出力。
DSLはSignalを参照する。

この分離により:

  • モデル更新は独立
  • 判断ロジックは安定

が実現します。


Step 3:Diffで判断変更が見える設計にする

0.8 → 0.7 の変更がGitで明確に見えなければ、
それは失敗したDSLです。

良いDSLの条件:

  • 行単位で変更が見える
  • 閾値変更が明確
  • 所有者メタデータを付与可能
  • バージョン管理可能

次の問いに答えられる必要があります。

  • 誰が変更したか?
  • なぜ変更したか?
  • 誰の承認か?

答えられないなら、それは契約ではありません。


3. ビヘイビアツリー ― ロジックではなくリスクから設計する

多くのチームはロジックの流れから木を設計します。

それは誤りです。

リスク封じ込めから設計する。


Step 1:停止すべき場所を先に決める

問い:

  • どこで実行を止めるべきか?
  • 何がFail-Closedであるべきか?
  • どの分岐が優先か?
  • どこでフォールバック可能か?
  • どこでフォールバックは危険か?

ビヘイビアツリーは単なるフローチャートではありません。

安全意味論を持つ実行トポロジーです。


Step 2:Fail-Closedを標準にする

不確実な場合:

  • 続行するか?
  • フォールバックするか?
  • 停止するか?

判断基盤は原則停止。

Fail-openは利便性を最適化します。
Fail-closedは責任を最適化します。


Step 3:ツリーは浅く保つ

深いツリーは可読性を破壊します。

深くなるなら、
オントロジーかDSLが過負荷です。

良いBT設計:

  • 2〜4層
  • 明確な優先順位
  • 明示的なフォールバック
  • 再帰の隠蔽なし

複雑さはSignal層に置く。

実行構造は単純に保つ。


4. 統合戦略 ― ボトムアップで構築する

一度に全体を作ろうとしない。

順序:

  1. 重要なオントロジー概念を3〜5定義
  2. 最小DSLルールを2〜3作成
  3. 1つの判断経路の浅いBTを構築
  4. 監査シミュレーション実施
  5. 境界修正

徐々に成長させる。

構造は摩擦とともに進化する。


5. 核となる原則

オントロジーは意味を定義する。
DSLは許容判断を定義する。
ビヘイビアツリーは実行責任を定義する。

効率は制約から生まれる。
正確さは境界の明確さから生まれる。
持続可能性はバージョン管理から生まれる。


結論

問うべきは:

「どうすればより賢いモデルを作れるか?」

ではない。

問うべきは:

どうすればより明確な判断構造を設計できるか?

モデルは時間とともに進化します。

しかし、
誤って設計された判断構造は
制度的リスクになります。

責任あるAIを構築するなら、
判断は:

  • 定義され
  • 外在化され
  • バージョン管理され
  • 監査可能で
  • Fail-Closedでなければならない

それが、
オントロジー・DSL・ビヘイビアツリーを
効率的かつ正しく構築する方法です。


もし、

  • 自社の判断基盤を外在化したい
  • DSL設計のレビューをしてほしい
  • 既存AI基盤を監査可能構造に再設計したい
  • 段階的信用スコアやFail-Closed設計を導入したい

などがあれば、

詳細はぜひ直接お問い合わせください。

実装レベル・組織設計レベルの両面から具体的にご相談可能です。

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