科学的思考(1)科学とは何か

人工知能技術 機械学習技術 オントロジー技術 デジタルトランスフォーメーション技術 知識情報処理技術  強化学習技術 確率的生成モデル技術 説明できる機械学習技術 自然言語処理技術 問題解決と思考法及び実験計画 life Tips&雑記 本ブログのナビ
科学的思考(1)科学とは何か

「論理学をつくる」の作者である戸田山和久氏による「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス」より。科学的に考えるとはどういうことなのか?について。

科学的思考のレッスン

まずファーストステップとして、「科学が語る言葉」と「科学を語る言葉」の2つの違いを明確にする。「科学が語る言葉」はDNAやエントロピーなどの「科学的概念」でありそれらは科学的理論の中で定義される。これに対して、「科学を語る言葉」は理論、仮説、法則、方程式などの様々な理論に現れる「メタ科学的概念」であり、科学的に考えるためにはこの意味を正確に理解しなければならないものとなる。

それらの「メタ科学的概念」の中でまず取り上げられるのが「理論」と「事実」となる。ここで、聖書に書いてあるとおりに生物や地球の歴史を理解しようとする人々(クリエーショニスト(創造論者))が「進化論は理論であって事実ではない」と否定している例(現在のアメリカにもそのような人々は一定数いるとのこと)を挙げている。これは、絶対的な神の存在(100%の存在)を仮定して、この世の物事はその神に裏付けされた事実のみが100%の真実(この場合は創造論)として認織されるものであり、不完全な人間が考え出した進化論を含めた科学的理論は、完全でないために真実ではないという考え方(二分論)になっている。つまり二分論では真か偽かの1/0しか存在せず中間の状態は認められていない。

それに対して科学の理論や仮説は、世界は不確定で曖昧であるという前提のもとに(100%の真実は存在しないか、あるいは一生かかってわからない)、1か0の絶対的なものではなく、より良い理論/仮説かどうかという相対的な視点で作られている。

このより良い理論/仮説について、プトレマイオスの天動説とニョートン物理学に即したコペルニクスの地動説の比較が例に説明されている。これらは共に天体の動きを説明するという「理論」ではあるが、プトレマイオスの説は事実(データ)に合わせるために、後から複雑な仮説を継ぎ足して行ったものなのに対して、ニュートンのそれはシンプルなフレームワークで多くの事柄を説明でき、更に新しい事実(未知の惑星の存在)の予言も可能としている。この場合は、ニュートンの理論の方が、プトレマイオスの理論よりもよりフレキシビリティがあり良い理論であろうということができる。

上記に現れた「より良い仮説/理論」の基準は以下の3つにまとめられる。

  1. より多くの新規な予言を出してそれを当てることができる
  2. アドホック(その場しのぎ)の仮定や、正体不明・原因不明の要素をなるべく含まない
  3. 既にわかっているより多くの事柄を、できるだけ沢山/できるだけ同じ方法で証明してくれる。

このように科学的な思考とは、単に静的にこれらの基準を満たすものではなく、動的に変化して常に改善されていくものになる。この辺りの考え方は以前述べた禅の思想に近い。

ここで科学に期待される機能をあげると「予測する」「応用する」「説明する」等が挙げられる。これらの中で前述でも頻繁に現れる「説明する」について述べる。

この「説明する」には以下に示すような3つのパターンがある。

  1. 原因をつきとめること
  2. 一般的・普遍的な仮説/理論からより特殊な仮説/理論を導くこと
  3. 正体を突き止めること

まず最初の原因を突き止める「説明」について。これは文字通り、物事の因果を理解して根本となる原因をつきとめて明らかにするということで、以前述べたものごとの根本にある相関関係をあきらかにするものとなる。。

2つめのケースは、ニュートンの場合を例に取ると、まずケプラーが惑星の動きの3つの法則(惑星の動きは円でなく楕円、惑星は直径が短い部分では早く、遠い部分では遅く回る(面積速度一定の法則)、惑星の公転周期の法則)を発見し、次にガリレオが慣性の法則(ある速さで動いている物体は、外部から力が加わらなければその速さでどこまでもいく)と落体の法則(物を落とすとだんだん早くなる)を発見したのを受けて、それらを融合する法則を導き出したように、いくつかの特殊な理論の中にある普遍的な理論を抽出するものとなる。

そして3番目の説明は、水の沸点は、なぜ同じくらいの分子量であるメタンと比べて高いのか?という疑問に対して、水の分子はイオン化して水素結合するために沸点が高くなるという、マクロな話(沸点)を、ミクロな話(分子のイオン化)に還元していくものとなる。

3のアプローチは、物事を細分化して見ていく「下への関係性」のアプローチで、2のアプローチはより抽象的なものを見ていく「上への関係性」、そして1では物事の間の「横への関係性」とそれぞれ見ることができ、説明とは、何らかの繋がり(関係性)に起因するものであるということができる。

ここで、宗教的な世界ではこの関係性が神の存在からスタートするにの対して、科学的な世界では別の(よく確かめられた)科学的な根拠もしくは理論からスタートする必要がある。

次回はこれらの関係を推論するための各種手法について述べる。

コメント

  1. […] 前回述べた様々な事実の関係性をたどる手法(推論パターン)には、ある文や命題の集まりから別の命題を導く演繹法と、演繹方以外の推論手法として、帰納法、投射法、類比法、アブダクション法の4つの非演繹法がある。 […]

  2. […] 以前、「説明する」には(1)原因をつきとめること(2)一般的なな仮説からより特殊な仮説を導くこと(3)正体を突き止めることの3つのパターンがあることを述べた。機械学習を「説明する」とは、主に(1)の原因(結果に影響を与えているパラメータ)を明確にすることになる。 […]

  3. […] 科学的思考(1) 科学とは何か […]

  4. […] どのようにして調べられてきて、何が明らかになってきたかという方法論は、”科学的思考(1)科学とは何か“でも述べている科学的なアプローチとなる。科学は、万物には「法則がある」という考えからスタートしており、それらは16世紀のコペルニクスやケプラー、ガリレオなどによる天文学と物理学の飛躍的な発展から始まっている。 […]

タイトルとURLをコピーしました