核融合とAI技術

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核融合とAI技術

以前述べたマイクロ原子力発電と並んで近年話題となっているのが、核融合技術とAI技術の融合となる。

2020.02.18.のZDNET Japanに以下のような記事が掲載されている。「英国に拠点を置く、Alphabet傘下のDeepMindは現地時間2月16日、超高温で不安定なプラズマ状態を安定的に維持するための磁気制御装置の実現につながると期待できる人工知能(AI)を開発したと発表した。これは、核融合発電技術の開発に向けた新たな1歩といえる。

このAIが適用された装置はトカマク型と呼ばれており、高出力の磁気コイル群をドーナツ状に並べて、太陽の中心核と同程度の温度となるプラズマを閉じ込め、制御しようというものだ。プラズマを安定的に閉じ込めることで、水素分子同士を核融合できるようになる。核融合はサステナブルな発電方法として研究が進められている。

DeepMindと、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のスイスプラズマセンター(SPC)の研究者らは、Natureに発表した新たな論文で、格納容器内でプラズマの形状を制御できるDeepMindのAIアルゴリズム群の開発について詳しく説明している。

SPCは、核融合に向けたプラズマの閉じ込めをテストするための「Variable Configuration Tokamak」(TCV)を構成するための真空容器を保有している。SPCは、プラズマを閉じ込めるための制御システムに与える各変数(印加する電圧など)の適切な値を高い信頼性で求められる確実な方法を必要としていた。

SPCによると、既に十分な知見を得られるシミュレーターを有しているが、制御システム内の各変数を適切な値に決定する上では、依然として時間のかかる計算処理を実行する必要があるという。

この制御システムに適切な値を設定すればプラズマを閉じ込めることができ、TCVを構成する真空容器の壁にプラズマが衝突し、その状態が破壊されるといった事態を避けられる。

研究者らは、「トカマク型の磁気制御装置の設計において、すべての制御コイル群の制御方法を自律的に学習する画期的なアーキテクチャー」を生み出したと記している。このアーキテクチャーにより、新たなプラズマ配位を作り出すために必要な取り組みを低減できるという。

SPCのブログによると、シミュレーター上で訓練されたDeepMindのAIは、特定のプラズマ配位を生成、維持できるという。論文で詳述されているような「従来の細長い形状とともに、負の三角形や『スノーフレーク(snowflake)』といった形状を作り出すより高度な配位」が含まれている。

DeepMindとSPCは、SPCが保有する本物のTCV上でも該当アルゴリズムの実行を成功させた。さらに両者は、格納容器内で2つの独立したプラズマの「ドロップレット」を安定して維持させる設定についても示してみせた。

DeepMindは現在のところ、この研究成果を発表していないものの、いずれ公開リンクされるだろう。」

上記に記載のNatureの論文は「Magnetic control of tokamak plasmas through deep reinforcement learning」となっている。Abstructを見ると「磁場閉じ込めを利用した核融合、特にトカマク型は、持続可能なエネルギーへの道として有望視されています。その中心的な課題は、トカマク容器内で高温のプラズマを形成し、維持することです。そのためには、磁気アクチュエータコイルを用いた高次元・高周波の閉ループ制御が必要であり、さらに、様々なプラズマ形状に対応するための要求が複雑になります。本研究では、トカマク磁気制御装置の設計において、自律的に制御コイルを学習する未発表のアーキテクチャを紹介します。このアーキテクチャは、高いレベルで指定された制御目標を満たすと同時に、物理的・運転的な制約を満たすものです。この手法は、これまでにない柔軟性と汎用性を持っており、新しいプラズマ形状を作り出すための設計労力を大幅に削減することができます。私たちは、トカマクà構成変数1,2において、細長い従来の形状から、負の三角形や雪の結晶のような高度な形状を含む多様なプラズマ構成の生成と制御に成功しました。私たちのアプローチは、これらの構成の位置、電流、形状を正確に追跡することに成功しました。また、2つのプラズマを同時に維持する「ドロップレット」をTCVで実証しました。これはトカマクフィードバック制御の顕著な進歩であり、核融合領域の研究を加速させる強化学習の可能性を示しているとともに、強化学習が適用された実世界のシステムの中でも最も困難なものの1つです。」となっている。

プラズマとは、気体を構成する分子が電離し、陽イオンと電子に分かれて運動している状態のことをいう。実用化されたプラズマで有名なものだと、ICや太陽電池等に用いられる半導体の成膜に使われるプラズマCVDがある。これは、半導体の原料ガス(Si系だとSiH4ガスとか)を低圧にして、チャンバーの中を通し、電極で高周波(一般的なものは電子レンジ等でも用いられるISM(工業用周波数)である13.56MHz)をかけて分解し、成膜したい基板に熱をかけて活性化することで成膜を行う。

この場合は、電気的に中性な分子が大部分を占める低音プラズマとなり、プラズマ自体はそれほど温度を持たない。また、プラズマの安定性も電極のインピーダンスを最適化(高周波電極はコイル形状であることが多いので、可変コンデンサで調整する)すれば確保されるものとなる。

それに対して、核融合ではプラズマをイオンと電子に完全分離した完全電離状態にすることで超高温にしなければならないため、特殊な電磁場(ドーナッツ上の真空容器にコイルが巻かれたトカマクと呼ばれるもの)を形成する装置が用いられる。

このときの課題としては、トカマクで発生した磁場により閉じ込められたプラズマが完全電離してイオンと電子の流れとなることにより発生する電磁場によって、トーラスの閉じ込め磁場を妨害し、プラズマが安定しないことにある。そのため、トカマクは一つのコイルだけでなく、複数のコイル(TFコイル(プラズマをドーナツ状にまとめる)、PFコイル(プラズマを内周方向に押し込める)、CSコイル(トロイダル方向のプラズマ電流を誘導する)等)を制御して安定した状態を作ることが技術的な味噌となっているのだろう。

これらの論文では、このプラズマの安定化のために本ブログでも述べている強化学習の技術を利用してパラメータを学習したというものらしい。システムの構成としては以下のようなものが提示されている。

基本的には、シミュレーションのデータを学習して生成したモデルを利用して、コイルのインピーダンスや電流あるいは炉に設置したセンサーの値(光学的なセンサーでプラズマの形状や温度を測定?)をフィードバックしながら制御する形となる。

センシングの仕方を考えるだけでも、一般的なCCDでプラズマの形状を撮影し画像処理で特徴量を抽出するアプローチ、あるいは少し帯域広い撮像装置を使ってプラズマのスペクトル分析まで行うアプローチ、複数のアンテナを設置して放射される電磁波パターンを測定するアプローチ等さまざまなものが考えられる。また学習のアプローチとしてもDeepMindの行った強化学習でもモデルの仮説の仕方でさまざまなアプローチがあるし、多変数を使った解析としてはスパースモデリング劣モジュラ最適化などのアプローチも利用可能だと思われる。更に変化するプラズマを安定させるために、リアルタイムのセンサーデータ処理等やそれらを用いたオンライン学習等さまざまな技術を適用可能な非常に興味深いタスクだと思う。

コメント

  1. […] さらに近年では以前「核融合とAI技術」で述べたような核融合のシミュレーションデータを使った強化学習によるブレークスルーなども生まれている。 […]

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