パラグラフライティングと課題分析に基づいた論文や提案書の書き方

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パラグラフライティングと課題分析に基づいた論文や提案書の書き方

論文の教室 レポートから卒論まで」よりパラグラフライティングと課題分析に基づいた論文や提案書の書き方についてについて述べる。

本書は「論学をつくる」の著者である戸田山和久による著書となる。戸田山は分析哲学を主戦場としている研究者であるため、他のノウハウ本とは少し異なったアプローチで「論文」について述べられている。まずこの本の冒頭では、論文とは何かという問いに応えるために、以下のようなよ4つの切り口での検討を行うと述べられている。

  1. 論文を書くときの心構えのようなものを明らかにする
  2. 内容の面から「論文とは何か」にアプローチする
  3. 論文は書き下すことはできない
  4. 形式の面から論文へとアプローチする

1の論文に対する心構えは、言葉通り、論文を書くときに考えておくべきこととして、3つの鉄則を挙げている

  • 自分を高める為の手段として論文を位置付ける
  • 辞書に投資を惜しんではいけない
  • 剽窃(ひょうせつ)は自分を高めるチャンスを自ら放棄する愚かな行為だ。誇り高く生きたければ、決して行ってはならない

論文を書くことによる対価は、あくまでも自己が高められることであって、それにより対外的なポイントを稼ぐことではない。この本質から外れて論文を書いてしまうと、内容の薄い論文となってしまうとここでは述べられている。2番目の辞書への投資も、自分を高める手段の一つと考えると分かりやすい。三番目は、言うまでもないこととなる。

次に論文の内容の面からのアプローチとしては、まず第一に必要なものは「論文には、問いと主張と論証が必要」というものがある。「問い」とは「なぜ…なのか」や「我々は…すべきか」や「…と…の違いは何か」のようなもので、「主張」はそれらの問いに対する答えであり、「論証」は自分の答えを論理的に支持する証拠を効果的に配列したものとなる。

戸田山はこの中でも特に「問い」について明確なロジックを持って徹底的に分析しながら考えるべきであると述べている。この「問い」は、特に人文系の領域では「問題を自分で見つけ出しそれを論じること」が最も難しいことであると述べられている。

ここで戸田山はすべての論文ビギナーがそのような大変な思いをする必要はなく、最初の問題設定としては、自ら頭をひねってゼロから問題を考えるのではなく、外から探してくることを勧めている。その際に注意すべきことは、ネット等の信頼性の評価が難しい情報ではなく、図書(新書や百科事典等)を見ることだと述べられている。

更に、図書を読んで問題点を見つけた(と思った)としても、それを更に精査して、その問題を深く分析することを勧めている。分析するときのポイントとしては、問題をなるべく細かく分解し、問題を「えっ、こんな小さな問題で良いの?」というレベルまで絞り込んで深く検討することにあると述べられている。そのようにして問題を分割していくことで問題の規模を具体的かつ手が届くものとし、(1)一生かかってもこたえがでないような大きすぎる問題(2)手がかりも研究方法もおそらくでないような問題(3)そもそも答えが無いような問題(4)一生まではいかないがかなりの時間をかけても検討しきれないような問題のように具体的な検討ができない、抽象的で大雑把な議論になってしまうことを避けるべきであると述べられている。

実際に戸田山が主に述べている人文系以外の、企業の中で作られる提案書のような”論文”においても、問題を大きな状態のままで書き下してしまうことで、抽象的で大雑把な中身のないものを書いてしまうということは多々あり、この問題を細かく砕き具体的な施策が記述できるような書き方をするということは非常に重要なポイントとなる。

この細かく分析する手法のひとつとして彼は「ビリヤード法」と呼んでいる「問いをぶつける手法」が重要であると述べている。これは例えば「大学生の学力低下問題」という最初の議題を考えた時に、そこら、例えば「本当に?」という問いをぶつけ、その結果として「学力低下という現象は本当に生じているのか?」という問いが生じたり、あるいは「どういう意味?」という問いをぶつけると「学力低下って言われているければ、どういう意味で使われているのか、みな同じ意味で使っているのか」とか「そもそも、学力低下ってどういう意味なのか」といった問いが現れる。

このようなぶつける問いのバリエーションは前述の「本当に?」(信憑性)や「どういう意味?」(定義)だけではなく、「いつ(から/まで)?」(時間)、「どこで」(場所)、「だれ?」(主体)、「いかにして?」(経緯)、「どうやって?」(方法)、「なぜ?」(因果)、「他ではどうか?」(比較)、「これについては?」(特殊化)、「これだけか?」(一般化)、「すべてそうなのか?」(限定)、「どうすべきか?」(当為)など様々なものがある。トヨタの改善活動で有名な「なぜなぜぶんせき」(問題が起きた時に5回以上の何故?という問いを投げかけて分析する)もこの「ビリヤード法」の一つとも言える。

このような「ビリヤード法」の導入により最初の主題は問いにより連鎖された階層構造となっていく。

さらに戸田山は、この階層構造をまとめていく上で、重要なことの一つは「カテゴリ・ミステイク」を起こさないことであると述べている。この言葉はギルバート・ライルという哲学者が作った言葉で、例として、大学説明会に行って、はじめて大学の中を案内された時、教室、図書館、グラウンド、研究室、事務室と一通り案内された後で「でも、大学はどこにあるんですか、学生が勉強する場所も満たし、科学者が実験する場所も見たけれど、まだ大学そのものを見ていないんです」と答えたとする。これのどこがおかしいかというと、教室、図書館、グラウンドは同じカテゴリ、つまり施設・建物というカテゴリに属するけれど、大学はそれとは明らかに違うカテゴリで、その違うカテゴリを同じカテゴリに属するものとして並べたからであり、そのようなものが「カテゴリ・ミステイク」と呼ばれているものであるとしている。

そのようなカテゴリ・ミステイクが起きると項目間の関係がぐちゃぐちゃとなり、それらを追いかけて「論証する」(ある与えられた判断が真であることを妥当な論拠を挙げて推論すること)ができなくなるため、問いの連鎖により作られた階層構造を整理する際には「カテゴリ・ミステイク」が起きないようにするために、階層構造とした問題(カテゴリ)に対して、同一の階層が同じカテゴリの項目だけを含むようにすべきであると述べられている。

上記のようなポイントに気をつけながら問題を分析を行うことで、”システム思考アプローチとSDGs“で述べたように、問題を目の前の現象(問題)だけにとらわれない全体の構造(システム)の観点から捉える(木ではなく森を見る)ことができるようにな。さらに具体的な対応は個々の枝葉をベースとして考えることで、抽象的で大雑把ではなく、実際に解ける問題として考えていくことができるのである。

また上記のようなアプローチは”KPI,KGI,OKRについて(1) 課題の明確化の為の手法“や”問題解決 PDAについて等で述べている様々な問題解決の場でも活用できる。

そのように分析が十分にできた後の3つ目の論文に必要な項目としては「論文は書き下すことはできない」つまり勢いで書くものではなく、段取りをしっかり下から書くものであると述べてられている。ここで言う段取りとは以下のものとなる。

  • 論文の課題の主旨をよく理解すること(例えばそれが「報告型」なのか「論証型」なのか、あるいは、論証型では、それが「問題が与えられた上で論じるもの」なのか「問題を自分で見つけ出しそれを論じるもの」なのか)
  • テーマの見取り図になるような資料を探してきて読むこと

ここで重要なのは、最初の項目である、その論文(あるいは提案書や報告書)を誰に対して、何のために行うのかという点となる。例えば上記に書かれているように、それが「報告型」なのか「論証型」なのかによって書かれる内容や結論は大きく異なってくる。また、企業の中での報告や顧客に対する提案を書く際にも、それを向ける相手の関心事や役職などによって論ずべき内容の粒度やロジックは大きく変わってくる。これは例えば、顧客に対する提案をするときに、現場に近いメンバーに対するものではより、具体的な対策や効果を報告することが求められるし、より上位の顧客に対する報告をするのであれば、経営的な視点(組織改善とか全体最適的なコストの観点)が求められる。

ここで課題と段取りが決まれば、いよいよ論文を書くステップに入っていく。戸田山はそこではなるべく「型にはまって」書くことを奨励している。

論文を書くにはまず「アウトライン」を作ることがその第一歩となる。アウトラインは論文設計図あるいは種となるものであり、それを大事に育てていくことが重要となる。そもそも、論文は明確に構造を持った文章であり、その「構造を持つ」という点が他の文章から区別されているものとなる。論文自体は「アブストラクトと本文とまとめ」という三つの部分からなり、それぞれの部分が異なる役割を持っている。さらに「本体」部分は「問題提起、結論、論証」の三つのパートからなる。

つまり論文を書くということは、つれづれなるままに心に浮かんできたことを認めるのではなく、まず第一にこうした構造を作り上げることが重要で、この作業がわかりやすい論文とわかりにくい論文を区別する要因となる。

前述のアウトラインは、この論文の構成を作り上げるスケルトンになり、そのスケルトンに肉付けされたものが論文の本体を構成していくものとなる。その例として例えば以下のようなものが挙げられている。

タイトル(仮)「チャレンジャー号爆発事故はなぜ起こったか」

1. はじめに
 ・問題設定
 ・各節の内容の概要
2. チャレンジャー号爆発事故の概要と背景
 ・事故の概要
 ・事故の原因
3. 事故はなぜ防げなかったのか
 ・打ち上げ決定に至る意思決定の経緯
 ・打ち上げ直前の会議でサ社はなぜ打ち上げ3世に態度変更したのか
4. 防ぐためにはどうするべきか
 ・チャレンジャー事故の分析から得られる教訓
 ・他の大事故との比較
 ・技術者の役割
5. まとめ

このようなアウトラインを書き、論文を書いている途中で調べが進み、考えが深まるにつれそれらを変えていくことが重要であると述べられている。またアウトラインを書くことにより次に何をすべきかが明確になり、調べたり、考えたり、書いたりするなかでアウトライン自体が膨らみ論文に近づくと同時に、少しずつ変化していく、そのようなステップが重要であると述べられている。

このとき全体の流れは以下のようなシーケンシャルな関係になることはほとんどなく。

以下の右側のように部分的な順序が積み重なって逆木のような形になったり、あるいは左側の図のように一つには収束しないリゾーム状の構造になる場合もある。

それらを詳細に検討していくと以下の図のような複雑な相関関係になっていく場合もしばしばある。

これを論文にするには、最終的にシーケンシャルな流れに近いものにするため、全体の流れの中で重要度の高いものを取捨選択していくことがアウトラインを考えていくうえでの流れとなる。

このアウトラインを書き進めていくと、その一つ一つの項目はパラグラフというものに育っていく。このパラグラフを構成する文をたかにして読みやすく、わかりやすく書くということが論文を書く次のステップとなる。

このパラグラフを使った論文作成手法である「パラグラフ・ライティング」は欧米における作文教育の基本中の基本であり、さまざまな参考図書が出版されている。

パラグラフはふつう「段落」と訳されるが、日本でいう「段落」とは全く違うものらしい。戸田山はこのパラグラフに対して、「パラグラフ」は一つの文章を、あとから読みやすいように切る日本語での「段落」ではなく、論文を作り上げるための最小構成単位であり、パラグラフを接続詞などをうまく使って論理的な関係を明治しつつ組み上げたものが論文となる。と述べている。例えていうと、「段落」は粘土の塊を掴みやすくちぎったものとすると、パラグラフは煉瓦のようなもので、それを使って構造物を作っていくものと言っている。

パラグラフを書く際に重要なことは、「一つのパラグラフには一つのこと」を書くということであり、この一つのことは単文1個でいえるものとなり、それを表した文を「トピック・センテンス」と呼んでいる。さらにパラグラフに現れる「トピック・センテンス」以外の文は①トピック・センテンスの内容についてのより詳しい説明や具体例、②トピック・センテンスの内容についての簡単な根拠づけ、③トピック・センテンスを別の言い方で捉えたもの、④前後のパラグラフとのつながりをつける文、のいずれかすべきであると述べ、この①〜④を「サブ・センテンス」と呼んでいる。

またトピック・センテンスはパラグフの先頭におくのがパラグラフ・ライティングの基本である。とも述べられている。つまり、パラグラフの頭の部分だけを読むことで全体のロジックの流れがほぼわかるということとなる。

このような書き方は、パワーポイントでの提案資料の書き方にも適用できる。つまり、一枚のシートが一つのトピックとなり、そのタイトルがトピック・センテンスで、その中に書かれているものがサブセンテンスとして①〜④のいずれかにあたるものにするということになる。

「論文の教室レポートから卒論まで」では、この後、論証の組み立て方について述べられている。それらに関しては、同じ戸田山の著書である「科学的思考のレッスン」をベースに述べた”科学的思考(2)仮説検証の為の推論パターン“等を参照のこと。

また具体的な査読付き論文の書き方や手続きについては査読の仕組みと論文投稿上の対策松尾ぐみの論文の書き方:英語論文を参照のこと。

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