GAT (Graph Attention Network)の概要とアルゴリズム及び実装例について

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GAT (Graph Attention Network)の概要

深層学習におけるattentionについて“でも述べている深層学習におけるattention(注意機構)は、 画像や自然言語の特定の部分に注意を向けるよう学習させる手法であり、これは”GNNにおけるエンコーダ/デコーダモデルの概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているEncoderDecoderモデルで用いられ成功している手法となる。attention機構は、異なるノード間の関係や接続パターンに基づいて、各ノードの重要度を自動的に決定することが可能なアプローチであり、具体的には、各ノードの表現は、そのノードとその近傍ノードの特徴を組み合わせた加重平均として計算され、この重みは、異なるノード間の関係の重要性に基づいて計算され、学習されるものとなる。

このようなEncoderDecoderモデルにおけるattentionは、query(クエリ)とkey-value(キー・ バリュー)のペアの集合を出力へとマッピングすることができる。 ここでのquery、 key、 valueはすべてベクトルであり、 queryに一致するkeyを見つけ、それに対応するvalueの重み和として出力を求めるものとなる。 従来このような依存関係の学習においては、 “RNNの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているRNNを用いることが多かったが、 “Transformerモデルの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているTransformerでは、attention機構を使用したEncoder-Decoderモデルにより、RNNやCNNを用いずに精度も計算量も改善したモデルの構築に成功している。このTransformerモデルは、自然言語処理における最近の有力モデル(“BERTの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているBERTや”GPTの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているGPTなど)のベースとなっている。

グラフ畳み込みにおける集約では、近傍からの情報をすべて対等に扱うものや、あらかじめ重みが与えられているものが多かったが、近傍からの影響は一般に大きく異なるものであり、あらかじめ重みを与えるより訓練中に学習する方がより自然なアプローチとなる。 Velickovicらにより”Graph Attention Networks“で報告されているGATは、 sequence(自然言語の単語列など)系のタスクにおいてデファクトスタンダードとなっているattention をグラフ学習に適用したものとなっている。

Velickovicらは畳み込みでなく、attentionを用いることの特徴として以下を挙げている。

  • 並列化可能のため効率的な計算ができる。
  • 近傍に任意の重みを割り当てることで次数の違うノードにも適 用可能である。
  • 帰納的なアプローチであり、 モデルは未知のグラフ構造にも一 般化可能である。

GATにおいてattentionを実現するgraph attention layerは、 ノード 特徴集合\(\mathbf{h}=\{\vec{h}_1,\vec{h}_2,\dots,\vec{h}_N\},\ \vec{h}_i\in\mathbb{R}^F\)(Nはノード数、Fは各ノー ドの特徴数)およびグラフを入力として、新たなノード特徴集合\(\mathbf{h}’=\{\vec{h’}_1,\vec{h’}_2,\dots,\vec{h’}_N\}\ \vec{h’}_i\in\mathbb{R}^{F’}\)を出力する。入力された特徴集合を変換する十分な表現力を持つために、少なくとも1つの学習可能な線形変換が必要であり、そのために重み行列\(\mathbf{W}\in\mathbb{R}^{F’\times F}\)が各ノード に適用される。 次に attention\(a:\mathbb{R}^{F’}\times\mathbb{R}^{F’}\rightarrow\mathbb{R}\) をもとに以下の式に示すattention係数(attention coefficient)を計算する。 これはノードi に対するノードj の特徴の重要度を示している。 いわば2つのノード表現間の関連の強さを表している。

\[e_{ij}=a(\mathbf{W}\vec{h}_i,\ \mathbf{W}\vec{h}_j)\]

ここでは任意のj であるため、 グラフでノードiの近傍である\(j\in N_i\)に対してだけ\(e_{ij}\)を計算するグラフ構造を加味したmasked attentionを導入する。 GATでは(i自身を含む)距離1の近傍を考慮する。他のノー ドの値と同等のものにするため、以下のsoftmax関数を用いて正規化を行う。

\[\alpha_{ij}=softmax x_j(e_{ij})=\frac{e^{e_{ij}}}{\sum_{k\in N_i}e^{e_{ik}}}\]

この枠組みはattentionの選択によらない汎用のものであるが、GAT の論文ではattention aとして一層の順伝播型ニューラルネットワークを 使用しており、これは\(\vec{a}\in\mathbb{R}^{2F’}\)の重みベクトルとして表せる。また活性化関数としてLeakyReLUを用いる。 その結果\(\alpha_{ij}\)は以下の式で計算される。 ここで・Tは転置を、 || は連結(concatenation)を表す。

\[\alpha_{ij}=softmax x_j(e_{ij})=\frac{e^{LeakyReLU(\vec{a}^T[\mathbf{W}\vec{h}_i||\mathbf{W}\vec{h}_j])}}{\sum_{k\in N_i}e^{LeakyReLU((\vec{a}^T[\mathbf{W}\vec{h}_i[\mathbf{W}\vec{h}_k])}}\]

自己注意(self-attention)の学習過程を安定させるうえで、Transformerなどと同様に、マルチヘッド注意(multi-head attention)が非常に都合が良い。 それぞれが異なるパラメータを持つK個の独立な attentionによって計算され、その出力は連結や加算によって集約される。

GATは、グラフデータにおいてノードの表現を学習する際に、従来のグラフニューラルネットワーク(GNN)よりも優れた性能を示すことが知られており、特に、大規模なグラフにおいても高いスケーラビリティを持ち、効率的に学習することができる手法とされている。

Graph Attention Networks“で報告されている実験ではtransductiveな学習として、Cora、Citeseer、Pubmedを用い たノード分類を行っており、”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べられているDeepWalkや”ChebNetの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているChebNet、GCNなどと比較し てGATが高精度な分類を行っていることを示している。またinductive な学習として、タンパク質間相互作用(protein-protein interaction,PPI)データセットを用いたグラフ分類を行っており、MLPや”GraphSAGEの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているGraphSAGEな どと比較してGATが高精度な分類を行っていることを示している。

GATで利用可能なコードは筆者らのGitページにて利用することができる。

GAT (Graph Attention Network)に関連するアルゴリズムについて

GAT(Graph Attention Network)のアルゴリズムは、グラフ構造におけるノードの表現学習を目的としている。以下に、GATアルゴリズムの要点を示す。

1. 入力グラフの表現: GATは、ノードの特徴表現が与えられたグラフを入力として受け取る。各ノードは、特徴ベクトルで表現されている。

2. 注意機構の定義: GATでは、異なるノード間の関係を表現するために注意機構が使用されている。通常は、各ノードのペアに対して注意の重みを決定するための関数が定義される。

3. 注意の計算: GATでは、各ノードの注意機構により、そのノードと近傍のノードとの間の注意の重みが計算される。この重みは、そのノードと近傍ノードの特徴の類似性や重要性に基づいて決定され、典型的には、これはノードの特徴ベクトルの内積や類似度関数を使用して計算される。

4. 重み付き特徴の集約: 計算された注意の重みを用いて、各ノードの近傍ノードからの特徴を重み付きで集約する。これにより、各ノードの新しい表現が得られます。通常は、加重平均が使用される。

5. 非線形変換と出力: 集約された特徴を非線形変換層(例えば、ReLUなど)に通し、ノードの最終的な表現を得ている。これらの表現は、タスクに応じて異なるアーキテクチャに渡される。

6. 学習と最適化: GATは通常、ノードの表現が与えられたラベル付きデータセットを使用して、損失関数を最小化するように学習される。典型的には、勾配降下法やその変種が使用されている。

このようにして、GATはグラフデータに対するノードの表現学習を行い、その表現を使用してさまざまなグラフ関連のタスクを解決することが可能となっている。

GAT (Graph Attention Network)の適用事例について

GAT(Graph Attention Network)は、その柔軟性と性能の高さからさまざまな領域で幅広く適用されている。以下に、GATの適用事例について述べる。

1. グラフ分類: GATは、グラフ全体の構造に基づいてノードまたはグラフをカテゴリに分類するタスクに使用されている。例えば、ソーシャルネットワークのユーザーグループの分類や、生物学的ネットワークのタンパク質分類などが挙げられる。

2. ノード分類: GATは、ノードごとのラベルを予測するタスクにも使用され、例えば、ソーシャルネットワークのユーザーの属性予測や、化学分子の構造に基づく化合物の活性予測などがある。

3. リコメンデーション: GATは、ユーザーとアイテム間の関係を表現するために使用され、推薦システムでのユーザーへのアイテムの推薦に応用されている。

4. グラフ生成: GATは、既存のグラフ構造を学習し、新しいグラフを生成するために使用され、例えば、分子のグラフ構造の生成や、グラフデータのデータ拡張などが挙げられる。

5. トランスファーラーニング: GATは、異なるグラフドメイン間で知識を転送するために使用され、例えば、一つのドメインで学習されたモデルを別のドメインに転移する際に使用される。

GAT (Graph Attention Network)の実装例について

GAT(Graph Attention Network)の実装例をPythonとPyTorchを使用して示す。以下のコードは、簡単なグラフ分類タスクを解決するためのGATモデルの実装で、この例では、Coraデータセットを使用している。

import torch
import torch.nn as nn
import torch.nn.functional as F
from torch_geometric.nn import GATConv
from torch_geometric.datasets import Planetoid
import torch.optim as optim
from torch.utils.data import DataLoader

# GATモデルの定義
class GAT(nn.Module):
    def __init__(self, num_features, hidden_dim, num_classes, num_heads):
        super(GAT, self).__init__()
        self.conv1 = GATConv(num_features, hidden_dim, heads=num_heads, dropout=0.6)
        self.conv2 = GATConv(hidden_dim * num_heads, num_classes, dropout=0.6)

    def forward(self, data):
        x, edge_index = data.x, data.edge_index

        x = F.dropout(x, p=0.6, training=self.training)
        x = F.elu(self.conv1(x, edge_index))
        x = F.dropout(x, p=0.6, training=self.training)
        x = self.conv2(x, edge_index)

        return F.log_softmax(x, dim=1)

# データセットの読み込み
dataset = Planetoid(root='/tmp/Cora', name='Cora')
data = dataset[0]

# モデルの初期化と訓練
device = torch.device('cuda' if torch.cuda.is_available() else 'cpu')
model = GAT(dataset.num_features, hidden_dim=8, num_classes=dataset.num_classes, num_heads=8).to(device)
optimizer = optim.Adam(model.parameters(), lr=0.005, weight_decay=5e-4)
criterion = nn.NLLLoss()

def train(epoch):
    model.train()
    optimizer.zero_grad()
    out = model(data)
    loss = criterion(out[data.train_mask], data.y[data.train_mask])
    loss.backward()
    optimizer.step()
    print(f'Epoch: {epoch}, Loss: {loss.item()}')

for epoch in range(1, 201):
    train(epoch)

# テスト
model.eval()
_, pred = model(data).max(dim=1)
correct = int(pred[data.test_mask].eq(data.y[data.test_mask]).sum().item())
acc = correct / int(data.test_mask.sum())
print(f'Test Accuracy: {acc}')

このコードでは、PyTorch Geometricを使用してGATを実装し、Coraデータセットでモデルを訓練およびテストしている。PyTorch Geometricは、グラフニューラルネットワークを簡単に扱えるようにするPyTorchの拡張ライブラリとなる。

GAT (Graph Attention Network)の課題とその対応策について

GAT(Graph Attention Network)は優れた性能を持つが、いくつかの課題に直面している。以下に、課題とその対応策について述べる。

1. 計算負荷の増加:

課題: GATは、注意メカニズムを使用して異なるノード間の関係をモデル化するため、計算量が増加する傾向があり、特に大規模なグラフや多くの注意ヘッドを使用する場合、計算負荷が増加する。

対応策: ミニバッチ化、グラフサンプリング、およびモデルのパラメータ数の削減などのテクニックを使用して、計算負荷を削減することができる。また、ハードウェアの性能向上や分散処理を利用することも有効となる。

2. 過学習:

課題: GATは、大規模なグラフや複雑なデータに対して非常に柔軟なモデルであるため、過学習のリスクがあり、特に、ノード数が多い場合やデータにノイズが含まれる場合に起こりやすい。

対応策: ドロップアウト、正則化、データ拡張、またはモデルの複雑さを調整するなどの方法を使用して、過学習を防ぐことができる。また、交差検証や早期停止などのテクニックを使用して、モデルの一般化性能を向上させることも重要となる。

3. 異なるスケールのグラフ:

課題: GATは、異なるスケールや密度のグラフに対して適切な重み付けを行うことが難しい場合があり、特に、グラフ内のノード数やエッジの数が異なる場合に問題が生じる。

対応策: グラフの前処理や特徴エンジニアリングを行い、ノードやエッジの特性を均一化することで、異なるスケールのグラフに対処することができる。また、異なるスケールのグラフに対するロバストなモデル設計や、スケーリングや正規化の手法を使用することも有効となる。

参考情報と参考図書

グラフデータの詳細に関しては”グラフデータ処理アルゴリズムと機械学習/人工知能タスクへの応用“を参照のこと。また、ナレッジグラフに特化した詳細に関しては”知識情報処理技術“も参照のこと。さらに、深層学習全般に関しては”深層学習について“も参照のこと。

参考図書としては”グラフニューラルネットワーク ―PyTorchによる実装―

グラフ理論と機械学習

Hands-On Graph Neural Networks Using Python: Practical techniques and architectures for building powerful graph and deep learning apps with PyTorch

Graph Neural Networks: Foundations, Frontiers, and Applications“等がある。

 

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