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菜根譚と呻吟語
「別冊NHK100分de名著 菜根譚×呻吟語 成功から学ぶのか、失敗から学ぶのか」から。「100分de名著」はNHKEテレで毎週月曜日1025-1050で放送されている番組だ。世界中の名著を25分x4回で放送するもので、様々な本を読むためのきっかけとなる。
「菜根譚(さいこんたん)」は、中国明時代の洪自誠による処世訓の書。日本では江戸時代に和刻本として刊行されて大いに普及して、近年だと田中角栄や吉川英治、川上哲治等多くの著名人が座右の書として、高度経済成長期にブームとなった古典となる。「呻吟語(しんぎんご)」は、同じく明時代の呂坤によるもので「菜根譚」に比べると知名度は大きく劣るが、こちらも処世訓として名著となる。
この二冊の特徴は、これまでの孔子や老子等の為政者や貴族階級の知識人向けに書かれた書物ではなくふつうの老若男女が社会でどう生きれば幸せになれるのかを穏やかに説いた「大衆向けの処世訓」となる。
菜根譚
「菜根譚」は全50巻で構成されており、巻ごとにテーマが設定されている。 菜根譚の特徴は、多様な話題を扱っていることで、その中でも、民間故事に重点を置いており、主に当時の民間故事・風俗・道徳・諺など、実話をベースにした物語や、ある人物がどのように道徳的な判断を下したかを描いた話、日常生活でのちょっとした出来事に対しての教訓を含む話、詩や文学に関するエピソードなど、多様な話題が収録されている。
また、「菜根譚」には、「菜根」という単語がタイトルに使われていることからもわかるように、謙虚さや地道な努力を称揚する思想が顕著に表れている。「菜根譚」の物語の中では、ささいな出来事や小さな行為が、後々まで大きな影響を与えることが描かれており、それらにより広く一般的な観念として、些細なことでも謙虚であることや、自分自身を改善しようとする努力が大切であることを示している。
これは例えば「三人行、必有我師焉」という言葉で表される。この言葉の意味は、誰かと一緒に行動するときでも、必ず自分の先生がいるということを意味しており、常に自分自身が真実を追求し、学び続ける姿勢を持つことが、人生哲学として大切なことであると示す言葉となる。
また、菜根譚には、物語の中で語られる諺や故事が豊富に収録されているため、それらを覚えることで、人生において役立つ教訓を得ることができる。これらには、「苦中作乐(苦難の中でも楽しむこと)」や、「三思而後行(よく考えてから行動すること)」など、多くの人々に愛されている言葉が含まれている。
「菜根譚」を読むことによって得られる知恵の一つは、逆境をいかにして過ごしていくかについてで、「菜根譚」における逆境とは「苦心の中、常に心を悦ばしむるの趣を得、得意の時、便ち失意の悲しみを生ず」(あれこれと苦心している中に、とかく心を喜ばせるような面白さがあり、逆に、自分の思い通りになっているときに、すでに失意の悲しみが生じている)という言葉にあるように、苦難の中でも楽しむことができ、うまくいっているときにすでに逆境は芽生えている。それは次のステップに向かう前の雌伏の時であり、それを急いで抜け出そうとせず、ゆっくり時間をかけて鍛錬することが大切なものとなる。
このように「菜根譚」はさまざまな生きるための知恵が述べられている書物となる。
呻吟語
呻吟(しんぎん)とは病気に苦しんでいるうめき声という意味で、病気になったときの苦しみは病気になった者だけが知っているが、病気が治るとその苦しみをすぐに忘れてしまう。呻吟語の作者である呂新吾は社会生活や人間関係のなかでいろいろな壁にぶつかり、自分を厳しく見つめながら日々の迷ったこと・悩んだこと・反省したことを忘れないように約30年間に渡って記録し、それをいつも身に付けて自分の常備薬としたものが、「呻吟語(しんぎんご)」である言われている。
「呻吟語」も「菜根譚」と同様に、乗り越えたい壁が現れたときに、それらを乗り越えられる言葉が多く収録されている。それらの中からいくつかをピックアップする。まずは人としてのあり方について述べられたもので
「心から人々のために尽くしていても、感謝されることを期待する気持ちが少しでも混ざっていれば偽奉である。心から善を行っていても、それを他人に知られたいという気持ちが少しでも混ざっていれば偽善である。心では9割しか達成していないと思っているのに外に向かっては成し遂げたように見せかけるのは偽勢である。このようなことは自分だけが気付いている偽である。私はこの偽を自分の中から取り除くことができていない。やがて偽が自分の中で広がっていき、言葉や行動にも蔓延してくるのではないかと恐れている」
「人の欲望には窮まりがなく、人の活力には限界がある。限りある活力で窮まりない欲望を満たそうとしても無理である。挙句の果ては、精も根も使い果たし身を滅ぼしていく」
次に修養について述べられたものには以下のようなものがある。
「自分の過ちを指摘してくれるのは、必ずしも過ちがない人とは限らない。過ちの無い人に過ちを指摘して欲しいと思っていたら、生涯に一度も自分の過ちを耳にする機会はないだろう。相手がどんな人であろうと、過ちを指摘してもらえるのはありがたいことだと思わなければならない。相手に過ちがあろうとなかろうと、そんなことを気にしている暇はない。どんどん、自分を向上させていくことだけに気を遣うべきである」
「人を責めない。これが自分を向上させる第一の要点である。人を理解する。これが自分の器を大きくする第一の要点である。」
そして処世について述べられたもの
「私は50歳になってから5つのことで、人と争わないことの妙手を悟ることができた。そのことについて、人から尋ねられたので私は答えた。資産を蓄えている人とは、富を争わない。
功名を逸る人とは、地位を争わない。上辺を飾る人とは、名声を争わない。傲り高ぶっている人とは、礼節を争わない。感情的な人とは、是非を争わない。」
最後にリーダー論について
「その人が本来果たすべき責務(本分)をわきまえる必要があり、過剰な私利私欲があっては組織が滅びるとあり、民衆(部下)の心情を把握して、あまりに不平や不満が多いときには、色々な方向にその流れが向かうように勢いを緩め、正しい流れが起きていると思えるときは、本流だけに水が流れるようにしてその力を集中するのが望ましい」
別冊NHK100分de名著 菜根譚×呻吟語 成功から学ぶのか、失敗から学ぶのか
本書では、これら以外に「人付き合いの極意」「人間の器の磨き方」「真の幸福とは」について二冊それぞれのスタンスと共通するものについて述べられているが、それらの話題に関してはまた別の機会に述べてみたい。
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