波乗りの島

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ジェリーロペスとハワイの海の神様ナルオラが映ったサーフフォト(by佐藤傳次郎)

1980年に出版されて今は絶版となっている片岡義雄の「波乗りの島」。この図書にはハワイとサーフィンに関する5つの短編が掲載されている。

片岡義男は、日本の小説家、エッセイスト、写真家、翻訳家、評論家で、父親は米国の市民権を持つハワイ出身の日系二世、日本に来て山口の老舗の娘である母親と見合い結婚し、すぐに米国に帰る予定が、戦争が始まったことでアメリカには戻れず、母親の希望で東京で暮らし、そこで生まれたという経歴を持つ。父親は英語しか話さず、家庭は英語と山口弁が飛び交うという特殊な環境で育ったらしい。そのようなバックグラウンドが影響した「日本語の外へ」や「英語で日本語を考える」などの独特の語学エッセイを出版している。

また「悪党パーカー 犯罪組織」などのミステリー小説、ジョンレノンの著書である「ビートルズ革命」、野球の写真エッセイである「ベースボール この完璧なるもの」等様々なジャンルの本を翻訳も行なっている。

彼の父はGHQ関係の仕事をしており、そこで廃棄されるはずだったペーパーバックを大量に家に持ち帰り、大量のアメリカの書物に囲まれて育った。そのため「本についての、僕の本」や「半分は表紙が目的だった -100冊のペーパーバックスにアメリカを読む」などのアメリカの本に対するエッセイも多く出版している。

さらに「彼のオートバイ、彼女の島」や「赤いボディ、黒い屋根に2ドア―アメリカの雑誌広告でたどる275台の自動車の容姿」などオーバイや車などのアメリカンな乗り物に関する小説やエッセイなども出版しており、まさに男の趣味をすべて網羅しているような人物となる。

また、片岡義男と聞くと、ある程度の年代以上にとっては、浅野温子が主演した「スローなブギにしてくれ」原田貴和子が主演した「彼のオートバイ、彼女の島」薬師丸ひろ子が主演した「メインテーマ」村田博美が主演した「ボビーにくびったけ」などの角川映画を思いうかべる人も多いのではないだろうか。

話は大きく逸脱してしまったが「波乗りの島」に戻る。最初に述べた通り、この本はハワイとサーフィンに関する5つの短編が掲載されている。片岡義男の紙の出版物はほとんど絶版になっており、この本自体は古書で買うしか入手方法はない。ただし、公式サイト(片岡義男.com)において全著作の電子化が進められており、本書に掲載されている、「白い波の荒野へ」「アロハ・オエ」「アイランド・スタイル」「シュガートレイン」「べイル・アウト」はそれぞれが単行本となってkindleで楽しむことができる。

その中から「白い波の広野へ」、ハワイの波に乗るサーフフィルムの記述を抜粋する。

「盛り上がった海が、僕らの方に押し寄せてくるのが見えた。丸みを帯びたその波の壁の頂が、朝日を受けて輝いていた。… 海底そのものがいきなり高く持ち上げられるような錯覚と共に、サーフボードに乗った僕らの体は空中にほうりあげられ、そのとき、大波の波頭は、僕らのボードのすぐ下にあった。最も高く上り切ってそこに停止する一瞬、全身のあらゆる感覚が、極限までとぎすまされる。… 飛沫と共に波の上の空気をいっぱいに吸い込む。ボードは波と共に走っていく。そのボードの上に立ち上がり、両手を伸ばしてバランスを取り終えた次の瞬間には、海を巻き上げつつ岸へ向かう大波の斜面を滑り降りている。…」

まるで自分が波乗りしている瞬間を感じるような描写が続いている。片岡義雄の描くサーフィンは海外のサーフエッセイとは異なり時間が止まった絵画のような描写が特徴となる。彼はいくつかのサーフィン小説を執筆しているが、その中でもベスト3に入る本だと思う。清々しい休日の朝にそれらを読むと心地よい時間を与えてくれると思う。

次回も引き続き、片岡義男のサーフィン小説とエッセイについて述べたいと思う。

コメント

  1. […] 前回紹介した「波乗りの島」と合わせて心地よい気持ちを味合わせてくれるサーフフィクションだと思う。 […]

  2. […] Juman(Juman++)は、Recurrent Neural Network Language Model(RNNLM) を用いた形態素解析システムで、文を入力すると単語の並びの意味的な自然さを考慮した解析を行って単語に分割し、それぞの単語ごとに文法・辞書等を出力する。例えば以前紹介した「波乗りの島」の一節「盛り上がった海が、僕らの方に押し寄せてくるのが見えた。」を入力とした時のJuman++の出力は以下となる。 […]

  3. […] これらのカレーは”波乗りの島“で紹介した片岡義男の「カレーライス漂流記」にも述べられている。 […]

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