反物質と重力とその応用

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イントロダクション

先日NHKのニュースで”「反物質」の重力落下を初観測 日本人2人を含む国際研究G“というものが報道されていた。

反物質は、通常の物質と同じ質量を持ちながら、反対の電荷を持つ粒子で構成されている物質で、通常の物質と反物質が接触すると、お互いを消滅させ、大量のエネルギーを放出するという少し物騒なものとなる。

ニュースでは、この反物質と重力の関係について長年にわたる物理学の疑問となっていた「反物質は重力に引かれるのか、それとも反発するのか」という問いに対して、日本人研究者2人を含むカナダを中心とした国際研究グループはスイスのジュネーブ郊外にある加速器と呼ばれる巨大な実験装置

などを使って水素の反物質、「反水素」を人工的に作り出す手法を開発し、作り出したおよそ100個の反水素を床から垂直方向に伸びた直径4センチ、長さ25センチあまりの筒状の装置に閉じ込めて、上下どちら側で多く検出されるか観測を繰り返したところ、下側から反水素が多く検出されたという結果を報告し、「反物質は重力に引かれる」という結論を得たということを報道している。

今回はこの反物質について述べ見たいと思う。

反物質とは

宇宙にある物質は陽子や電子といった素粒子で構成されており、素粒子とは質量などが同じでも電気的に反対の符号を持つ反陽子などの反粒子も存在し、反粒子が集まった「反物質」が存在することが確認されている。

ビッグバンによって誕生した直後の宇宙には物質と「反物質」のどちらも同じだけ存在していたが、「反物質」は物質と衝突してエネルギーとなる「対消滅」が起きて消え、物質だけが残ったと考えられていて、なぜ宇宙では物質が優勢になったのかは現在でも大きな謎となっている。

反物質の生成は主に、高エネルギーの粒子を物質にぶつけた際に発生したり、高エネルギーの宇宙線粒子が大気中や他の物質と衝突することで生成されたり、陽電子(positron)と呼ばれる電子の反物質では、β崩壊と呼ばれる放射性同位体の崩壊仮定で生成され、今福島原発の処理水で注目されているトリチウムもヘリウムに崩壊する時にβ崩壊を起こす過程で生成される。

反物質は近くに通常の物質があると、引き寄せられすぐに対消滅してしまうため観測が難しく、これまでは様々な仮説を検証することが困難な状況にあった。

今回の報告では、重力の影響を測定できる程度の大きさの反物質(反水素)を加速器で安定定期生成する手法を確立し、さらに生成された反水素を安定して容器に閉じ込めることを可能にしたことで実現されたものとなる。

宇宙が生成されたときには、同数の物質と反物質があったにも関わらず、今の宇宙には反物質がほとんど存在しなくなり、物質のみになっているという謎に対して、粒子群の中で「物質と反物質の寿命がほんの少しだけ違う」という説があるが、この重力に対する反応が物質と反物質で異なり、それらに影響を与えるという仮説が今後導き出されれば宇宙の成り立ちに対する理論に大きなインパクトを与える可能性がある。

反物質は何に利用することができるのか

このような反物質は、様々な利用を想定することができる。一番シンプルな利用方法としては対消滅を利用した兵器としての利用のアイデアで、例えばテレビシリーズのスタートレックでは反物質を装填した兵器「光子魚雷」が使われていたり、

ARMSという漫画では主人公に移植されたARMS「ジャバウォック」が反物質生成能力を持ったり、

アニメの新世紀エヴァンゲリオンでは電子と陽電子の対消滅時に発生するエネルギーを利用した「陽電子砲(ポジトロンライフル)」という兵器が登場している。

これらの使い方をする時に、一番問題になるのが「物質と反応して消滅してしまう反物質をどのようにして安定して閉じ込めるか」だが、先述の記事の中にも、レーザーを使って反物質の動きを制御することが述べられており、全く不可能なことではないらしい。

このようなフィクションの世界ではなくとも、反物質は、その特異な性質を活かしてさまざまな利用方法が検討されている。以下は、反物質の一部の利用方法となる

1. エネルギー生産:反物質は、通常の物質と接触すると対消滅し、巨大なエネルギーを放出する。このエネルギー放出は、理論的には非常に効率的なエネルギー源となり得る。しかし、現在の技術では反物質を大規模に生成し、制御することが難しく、エネルギー生産への応用はまだ実用化段階には達していない。これらに対する研究は進行中であり、将来的には実現される可能性もある。

2. ロケット推進:反物質を利用した推進システムは、非常に高い比推力(ロケットエンジンの効率を示す指標)を提供することが期待される。これにより、宇宙探査ミッションなどでより高速かつ効率的なロケットが設計される可能性があり、反物質の生成と貯蔵の技術的な課題を克服する為の研究が行われている。

3. 放射線治療:陽電子放射線治療(PET:Positron Emission Tomography)は、陽電子と電子の対消滅を利用してがんの診断や治療計画を行う医療診断技術となる。また、高エネルギーの陽電子ビームをがん細胞に照射することで、がん治療にも応用されている。

4. 物質診断:反物質を用いた精密な物質診断や材料評価が行われている。反物質は、物質の性質を詳細に調査するためのツールとして利用され、特に素粒子物理学の研究において重要となる。

5. 宇宙探査:将来の宇宙ミッションにおいて、反物質を利用したプロペラント(推進剤)や高エネルギー検出器が使用される可能性がある。反物質を含む検出器は、高エネルギー宇宙線や宇宙の謎を解明するための観測装置として役立つ。

これらの中で、陽電子放射線治療(PET:Positron Emission Tomography)と反物質を用いた精密な物質診断や材料評価は広く実用化されている技術となる。

反物質の利用には、反物質の生成、貯蔵、制御、および安全性に関連する技術的な課題が存在するが、潜在的な利点は大きく、研究者たちはこれらの課題に取り組み、将来的な応用を模索されている。

参考図書

入門的な参考図書としては”消えた反物質―素粒子物理が解く宇宙進化の謎

Newton 反物質の謎“等がある。

コメント

  1. […] 反物質と重力とその応用 […]

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