論語と算盤
今年活躍した大谷翔平選手は、恩師である栗山英樹元日本代表監督から「論語と算盤」を紹介され、その生き方を実践していると言われている。”孔子の論語 総合的”人間学”の書“でも述べている『論語と算盤(ろんごとそろばん)』は、明治から大正時代の日本を代表する実業家である渋沢栄一によって著された書籍で、彼の思想や経済観をまとめた作品となる。
タイトルの『論語と算盤』は、孔子の教えである『論語』と、商売や経済を象徴する「算盤」(そろばん)を組み合わせたもので、道徳と経済が密接に結びついているべきだという渋沢の信念を表している。この著書は、ただの利益追求にとどまらず、倫理や社会の幸福を重視した経済活動を促す内容で、現代においてもビジネス倫理やCSR(企業の社会的責任)に関する考え方の原点として注目されている。
渋沢栄一の主張する『論語と算盤』には、次のようなポイントが含まれている。
1. 道徳と経済の一致: 渋沢は、道徳と経済活動が対立するものではなく、むしろ両立するべきだと考えた。『論語』が説く人間の倫理や徳といった価値観は、経済活動においても重要であるとし、経済は社会や人々のために役立つ形で営むべきだと説いている。また、単なる利益追求ではなく、社会全体の幸福や発展に貢献することを目指し、正しい道を歩むことこそが真の成功であるとしている。
2. 公益と私益の調和: 渋沢は、企業や個人が利益を追求するだけでなく、公益にも配慮するべきだと主張している。公益を追求することが、最終的には自分や企業にとっても利益をもたらすと考え、「利他」や「奉仕」の精神を大切にした。経済的利益を社会のために活用し、それによって社会全体の発展が促進され、企業や個人も長期的に繁栄できるとする、いわば「ウィンウィン」の関係を理想としていた。
3. 教育の重要性: 渋沢は、次世代の人材育成に大きな関心を寄せ、教育の重要性を強調した。経済の発展には人材が不可欠であり、倫理的な教育がなければ、社会の秩序が失われてしまうと考えた。彼は、優れた人材を育成することで、より道徳的な社会が築けると信じ、多くの学校や教育施設を支援した。
4. 誠実な経営: 渋沢は、商人や実業家が誠実であることの重要性を説いた。取引や交渉において正直であること、信頼を重んじることは、長期的な経営において不可欠であるとした。顧客や取引先に対する誠実な姿勢が信頼関係を築き、その結果として企業の成長や繁栄がもたらされると考えていたのである。
5. 勤勉と節制: 勤勉さや自己制御の重要性についても強調されている。渋沢は、自分自身を律し、真面目に働くことが、豊かな生活や社会的成功につながると信じていた。無駄な浪費や怠惰を戒め、地道な努力こそが成功への道であるとしていた。
『論語と算盤』は、現在の企業経営やビジネス倫理にも影響を与えており、特にCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の考え方と通じる部分が多くある。また、渋沢の「利他」の精神は、サステナブル経営やソーシャルビジネスといった分野でも重要視されている。
渋沢栄一が提唱する道徳と経済の融合は、現代社会においても有効で、企業や個人がただ利益を追求するだけでなく、社会全体の幸福と調和する形での経済活動を促進することが、持続可能な未来の実現につながる考え方だということができる。この教訓は、グローバル化や情報化が進む現代において、ますます重要な意味を持つようになってきている。
論語と算盤の思想によるビジネスモデル
『論語と算盤』の思想に基づいたビジネスモデルは、利益の追求だけでなく、社会の幸福や倫理的な行動を重視し、企業と社会の両方に利益をもたらすことを目指すものとなる。渋沢栄一の「道徳と経済の一致」の理念に基づいたビジネスモデルを以下のように考えられる。
1. 利他と社会貢献を中心に据えたビジネスモデル
– 目的:単なる利益ではなく、社会に貢献することを目的とする。サービスや製品の提供によって、社会的な課題解決に資するビジネスを目指す。
– 具体例:B2B、B2Cでの販売において、たとえば社会問題に特化したサービスや製品(環境に優しい商品、健康を支えるサービス)を提供することで、消費者が企業の商品を購入すること自体が社会への貢献につながるようにする。
– 事例:オーガニック製品やエコフレンドリーな製品の提供は、社会と顧客双方に利益をもたらし、企業のブランド価値を高める。また、売上の一部を社会貢献活動に還元する事業もこのモデルに含まれる。
2. 倫理的かつ透明なガバナンス
– 目的:企業運営において、正直さ・透明性を確保し、ステークホルダーの信頼を得る。
– 具体例:全ての取引での透明性、ステークホルダーに対する情報公開、持続可能な行動をとることにより、長期的な信頼を得る。
– 事例:例えば、持続可能なサプライチェーンの確立や、環境に配慮した企業運営の実施がこれにあたる。特に消費者や投資家が企業の社会的影響を重要視する現代では、ガバナンスの透明性が企業価値を高める。
3. 従業員とコミュニティの幸福を重視した経営
– 目的:従業員を単なる「労働力」としてではなく、企業の重要な一部として尊重し、成長と幸福を支援する。
– 具体例:従業員の教育機会や成長を促進するプログラムの実施、仕事と生活のバランスを尊重した働き方を提供する。
– 事例:従業員向けにスキルアップやキャリア支援プログラムを導入し、福利厚生を充実させ、離職率を低下させることで長期的に企業の成長を支える。また、地域社会のためのボランティア活動や地域プロジェクトへの参加も従業員と社会に貢献する方法となる。
4. 公益と私益の両立
– 目的:企業活動の中で、自分たちの利益だけでなく社会の利益も追求する。
– 具体例:例えば、企業が利益を上げると同時に、地元経済の発展や雇用機会の創出に貢献するような事業展開を行う。
– 事例:ソーシャルビジネスやBOP(Base of the Pyramid)ビジネスのモデルを採用し、途上国の経済発展や生活向上に貢献しつつ、利益を得る事業展開が可能となる。特に小規模農家の支援やフェアトレードの推進などはこの精神に基づいている。
5. 長期的視点の持続可能な経営
– 目的:短期的な利益よりも、長期的な社会的価値と企業の成長を重視する。
– 具体例:短期的な利益を追求するよりも、持続可能な製品・サービスを提供し、企業と社会の長期的な発展を支える。
– 事例:企業のESG(環境・社会・ガバナンス)戦略を重視し、再生可能エネルギーの活用や廃棄物の削減などの取り組みを実施することが挙げられる。これにより、社会の発展に寄与しながら企業の成長も実現できる。
6. 教育・人材育成とリーダーシップ育成
– 目的:次世代を担うリーダーの育成に投資し、社会全体の知識・技能の向上に寄与する。
– 具体例:社内の研修制度の充実、地域の学校や教育機関との連携、奨学金制度の設立など。
– 事例:企業が地域の教育に貢献するために、学生向けの奨学金やインターンシッププログラムを提供し、地域社会の発展と自社のリーダー育成を同時に図る。
『論語と算盤』に基づくビジネスモデルは、単なる「稼ぐ」行為ではなく、企業の存在意義を社会貢献や倫理的行動にまで広げたものと考えることができる。これは短期的な利益だけを追求するのではなく、長期的な視点で社会にとって価値ある存在になることが目標としたものとなる。これによって、企業のブランド価値や信頼が高まり、従業員、顧客、投資家、地域社会といったステークホルダーとの良好な関係を築くことが可能となる。
論語と算盤から導き出される人生訓
『論語と算盤』の思想から導き出される人生訓は、単なる成功の追求にとどまらず、他者や社会に貢献することで人生を豊かにするための指針が含まれている。渋沢栄一が掲げた「道徳と経済の両立」は、人生における幸福や成功をより意義あるものにするための教訓として、今でも多くの人に影響を与えた。以下にそれらの人生訓について述べる。
1. 利他の心で生きる
– 教訓:自分の利益だけでなく、他者の幸福や社会全体の幸福にも目を向け、貢献する心を持つことが重要。
– 解説:渋沢栄一は、自分が得る利益だけでなく、社会にとっての意義や価値をもたらすことが重要だと考えた。利他的な行動は、長期的に見て自分にも多くの恩恵をもたらし、周囲との信頼関係も築ける。人を助けることで得られる満足感や成長は、人生を豊かにする大きな力になるとした。
2. 誠実と正直を貫く
– 教訓:どんな状況でも誠実さと正直さを大切にし、信頼関係を築くことが人生の成功につながる。
– 解説:渋沢は、どのような仕事でも誠実さと信頼が重要であると説いた。正直に生きることで周囲からの信頼を得ることができ、困難な状況でも助けや協力が得やすくなる。真摯に生きる姿勢は、最終的に自分の人生に大きな成功をもたらすとした。
3. 道徳と経済のバランスを保つ
– 教訓:道徳を忘れずに、経済的な活動を通じて社会に役立つ人間であることを心がける。
– 解説:渋沢の「論語と算盤」の教えは、道徳と経済の調和を目指すものであった。仕事や経済的な目標を追求する際に、倫理や誠実さを忘れないことが重要となる。こうした姿勢を保つことで、周囲から尊敬され、長期的な成功を収めることができるとした。
4. 教育と自己研鑽を怠らない
– 教訓:生涯にわたって学び続け、自分を成長させる努力を続ける。
– 解説:渋沢は教育や人材育成を重視していた。人生を通じて学び続けることは、新しい知識や視点を取り入れ、自己を向上させるために重要なものとなる。常に学び、自分を磨き続けることで、より良い人間関係や仕事の成果につながり、充実した人生が得られるとした。
5. 公益を追求し、社会と共に成長する
– 教訓:個人や会社の利益だけでなく、公益を考えて行動し、周囲と共に成長することを目指す。
– 解説:渋沢は、企業や個人が社会に対しても責任を持ち、公益に貢献することが重要だと考えた。社会全体の利益を考えることで、周囲からの支持や協力が得られ、結果として自分自身の成長や成功にもつながる。社会の一員として、貢献しながら生きることで、充実感と達成感が得られるとした。
6. 長期的視野で人生を考える
– 教訓:目先の利益や成功にとらわれず、長期的な目標を見据えた行動をとる。
– 解説:渋沢は、短期的な成功ではなく、持続的な発展を目指すことを重視した。人生においても、短期的な欲望や利益にとらわれることなく、長期的な視点で計画を立てることで、より豊かで安定した人生を築くことができ、今の行動が将来にどう影響を与えるかを考え、慎重に判断することが重要だとした。
7. 困難な時こそ倫理的な行動を取る
– 教訓:困難な状況でも道徳的な判断を大切にし、正しい行動を心がける。
– 解説:渋沢は、どのような状況でも道徳心を保つことが大切だと考えていた。特に厳しい状況や困難なときこそ、道徳的な判断が必要で、倫理的な行動を取ることで、周囲からの信頼を維持し、逆境を乗り越える力となるとした。
8. 勤勉と節制を大切にする
– 教訓:地道に働き、節制を心がけることが、充実した人生につながる。
– 解説:渋沢は、努力と勤勉が成功の鍵であると考えた。怠惰や浪費を避け、目標に向かってコツコツと努力することが、成果と充実感をもたらし、また、節制を心がけることで、将来に向けた資源やエネルギーを蓄え、安定した生活を築くことができるとした。
論語と算盤と大谷翔平
渋沢栄一の『論語と算盤』の教えと大谷翔平選手の生き方には、多くの共通点があり、現代においても自己実現や社会貢献の重要な指針となり得る考え方となっている。
1. 道徳と成果の両立: 渋沢は「道徳と経済の両立」を説き、大谷選手は成績だけでなく人間性も重視して行動している。
2. 自己研鑽: 渋沢が終生学び続けたように、大谷選手も日々トレーニングと自己管理を徹底し、成長を追求している。
3. 利他の精神: 渋沢の「社会への貢献」の教えに通じ、大谷選手はチームやファンを大切にし、利他的な行動を心がけている。
4. 長期的視野: 渋沢が説く「長期的視点」に基づき、大谷選手は持続可能なキャリア構築を目指している。
5. 謙虚さ: 成功しても謙虚であるべきとする渋沢の思想は、大谷選手の品格や誠実な姿勢に現れている。
6. 挑戦の精神: 渋沢が変化を恐れないことを大切にしたように、大谷選手も二刀流という挑戦を続けている。
参考図書
『論語と算盤』に関連した参考図書を以下に述べる。
1. 『論語と算盤』 渋沢栄一 著
3. 『渋沢栄一の「論語と算盤」の思想入門』
4. 『「論語と算盤」の経営』
5. 『道をひらく』 松下幸之助 著
– パナソニック創業者である松下幸之助の書いた本で、道徳と経済の調和を重視する渋沢栄一の思想と重なる部分が多くある。日本の企業経営やリーダーシップの観点から、渋沢の思想との共通点が見つかる。
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