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源氏物語絵巻
源氏物語絵巻(げんじえまき)は、現在NHKで放映中の大河ドラマ「光る君へ」の舞台でもある平安時代の文学作品「源氏物語」を絵画と文章で表現した日本の絵巻物となる。
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「光る君」のタイトルの「光る君」とは、源氏物語の主人公である光源氏と、”興福寺と武芸の聖地“でも述べている時の権力者・藤原道長を指し、源氏物語の作者である紫式部と藤原道長の関係を中心に貴族社会が描かれている。
この絵巻は、”ゆらぎの美 -日本画と和様の書について“でも述べている日本絵画史の中で非常に重要な位置を占めており、特に平安時代末期の作とされている。
源氏物語絵巻は、現存する部分だけでも非常に精巧な描写と細密な描線が特徴で、当時の貴族文化や生活様式を知る上で貴重な資料となっており、絵巻の構成は、絵(絵画部分)と詞書(文章部分)が交互に配置されており、物語の一場面を視覚的に再現し、補足する形で物語が展開されている。
現存する源氏絵巻は部分的で、全体像を知ることはできないが、特に有名な部分としては、「東屋」「夕霧」「竹河」などの巻が知られており、これらは、東京国立博物館や五島美術館などで保存され、2024年では名古屋にある徳川美術館で公開が予定されている。
源氏絵巻は、絵巻物としての完成度が非常に高く、また絵と物語が融合した表現方法が日本美術に与えた影響は大きく、日本の国宝としても指定されている。
源氏物語絵巻に用いられている技法
この『源氏物語絵巻』には、以下に示すような平安時代の日本絵画に特徴的なさまざまな技法が用いられており、それらが絵巻全体の美しさと物語性を高めている。
1. 吹抜屋台(ふきぬけやたい): 建物の屋根や壁を取り除き、内部の様子を見せる技法で、これにより、建物の中で展開される出来事や人物の配置が一目でわかり、物語の進行が視覚的に理解しやすくなる。また、 吹抜屋台により、同じ画面内で複数の人物や場面が同時に描かれることが可能となり、場面の連続性や関係性を強調できる。
2. 引目鉤鼻(ひきめかぎはな):人物の顔を単純化し、目を細い線で表現し、鼻を鉤状の線で描く技法であり、顔の表情を省略しながらも、人物の感情や性格を巧みに表現するものとなる。 引目鉤鼻により、登場人物の個性や感情を誇張せずに、品格や抑制のある描写が可能となり、作品全体の優雅さを保つことができる。
3. 雲気(うんき): 絵巻の中で雲や霞を描くことで、場面の区切りを表現する技法で、この雲や霞は、場面転換や登場人物の心情を象徴的に表現するために使用される。 雲気により、異なる時間や場所が同じ画面内で描かれていても、自然な場面転換が行われ、物語の進行が滑らかになる。また、絵巻全体に幻想的で神秘的な雰囲気を与える。
4. 色彩のグラデーション: 襲色目(かさねのいろめ)など、衣装や背景に複雑な色彩のグラデーションを用いる技法で、色の重ね方やぼかし技法により、立体感や陰影が生まれ、画面に奥行きが与えられる。この技法により、平面的な画面に深みが生まれ、登場人物や物語の情景がより豊かに描写され、また、色彩の使い方が物語の情緒や季節感を強調する。
5. 構図の工夫: 絵巻の構図には、画面の中で重要な要素を効果的に配置する技法が見られる。特に、対角線や三角形の構図を用いることで、安定感や動きが生まれている。構図の工夫により、視覚的なバランスが保たれ、見る者が自然と視線を導かれるようになっている。また、物語の中で重要な要素やキャラクターが強調されることで、物語の理解が深まる。
6. 金泥(きんでい)や銀泥(ぎんでい)の使用: “街道をゆく 佐渡の道“でも述べているように古来日本では金や銀が多く算出され、それらは貨幣としてではなく装飾として用いられていた。そのような装飾の一つに金泥や銀泥がある。金泥。銀泥は純粋もしくはそれに近い金・銀を粉状にして膠水(膠が入った水)で溶かした絵具のことを指す。これらは豪華さや荘厳さを表現する技法となり、源氏物語絵巻では特に、衣装の縁取りや背景の部分に使われている。 金泥や銀泥が絵巻に光沢を与え、高貴な雰囲気を醸し出し、また、光の加減によってキラキラと輝き、見る角度によって異なる表情を見せるため、視覚的な魅力が増すものとなる。
7. 連続場面表現: 一つの画面の中に複数の時間や場面を同時に描く技法であり、これにより、物語の流れを一枚の絵で連続的に表現することができる。連続場面表現により、物語の進行が一目でわかり、画面に動きが生まれ、また、登場人物が複数のシーンに登場することで、その行動や感情の変化をより深く理解することができる。
これらの技法は、『源氏物語絵巻』が単なる物語の視覚化に留まらず、繊細な感情表現や物語の進行を巧みに伝えるための重要な要素となっており、それぞれの技法が相互に作用し合い、絵巻全体に豊かな物語性と美的価値をもたらしている。
源氏物語絵巻のデザイン構成の特徴
ここで、さらに『源氏物語絵巻』のデザイン構成の特徴について述べる。
1. 断章構成: 『源氏物語絵巻』は、原作である『源氏物語』の全54帖(章)から選ばれたシーンを描いている。全体を通して物語を順に描くのではなく、特定の重要な場面を選んで描くことで、物語のハイライトを視覚的に伝えている。
2. 詞書と絵の組み合わせ: 各巻には、物語のシーンを描いた「絵」と、その場面に関する説明や登場人物の感情などを記した「詞書」がセットになっており、詞書は、物語の内容を補完し、絵の理解を深める役割を果たし、詞書がまず最初に書かれ、その後に絵が続く形式が一般的となる。
3. 場面転換の手法: 絵の中では、同じ画面内で異なる時間や場所を表現する手法が使われている。これにより、1枚の絵の中に複数の場面を組み合わせ、物語の流れや登場人物の動きを視覚的に追うことができる。
4. 絵のスタイル: 絵は、”雪舟と自由自在“でも述べている平安時代の「大和絵」のスタイルで描かれており、繊細な線と柔らかな色彩が特徴で、風景や建物の描写は細部にまでこだわられている。また、人物の表情や姿勢から、その感情や関係性を読み取ることができる。
5. 建物の透視図法(吹抜屋台): 建物の内部を描く際に、屋根や壁を省略し、内部を見せる技法が使われている。これにより、人物の動きや場面の展開をわかりやすく描写している。
これらの特徴芸術作品としての観点だけではなく、優れたUXデザインのためのヒントにもなる。以下にそれらについて述べる。
アプリケーションのUXへの応用
このような特徴のある『源氏物語絵巻』の構成から得られる、アプリケーションのUXデザインのためのヒントとしては、例えばメタバース設計に応用することを考えると、以下のような応用が考えられる。
1. 断章構成: メタバース内で、全体的なストーリーやテーマを持たせつつ、ユーザーが特定の場所やシーンを選んで体験できるように設計することが考えられ、たとえば、ユーザーが特定のエリアに入ると、特別なシーンやイベントが展開されるような仕組みを作ることで、メタバースの中で物語を断片的に体験することができる。
2. 詞書と絵の組み合わせ: メタバース内のインタラクティブな要素として、環境やアバターの動きに合わせて情報やナレーションを表示することができ、ユーザーが特定の場所やオブジェクトに近づくと、その背景や意味を説明するテキストや音声ガイドが自動的に表示される仕組みを取り入れると、より深い理解と没入感を与えることができる。
3. 場面転換の手法: メタバース内では、同じエリアで時間や場所を変えるような演出を取り入れることで、複数のストーリーラインや出来事を同時に展開させることができ、たとえば、特定の視点から見ると過去の出来事が再現され、別の視点から見ると未来のシナリオが展開されるような設計が考えられる。
4. 絵のスタイル(大和絵の美学): メタバースのビジュアルデザインにおいて、平安時代の「大和絵」の美学を取り入れることで、伝統的かつエレガントな空間を作り出すことができ、色彩や構図にこだわったエリアを設計し、視覚的に魅力的で心地よい環境をユーザーに提供することができる。
5. 建物の透視図法(吹抜屋台): メタバース内の建物や構造物のデザインにおいて、透視図法を用いてユーザーが内部を覗き込むことができるようにすることで、空間の奥行きや複雑さを感じさせることができ、また、これによりユーザーが建物の外にいても内部の状況を把握できるため、インタラクションの幅が広がる。
『源氏物語絵巻』の構成特徴は、メタバースの設計においてストーリーテリングやインタラクション、ビジュアルデザインに多くのインスピレーションを与え、ユーザーに対して深い物語体験を提供し、視覚的にも洗練された空間を設計することで、メタバース内での没入感と魅力を一層高めることができるものとなる。
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