グラフエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例

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グラフエンべディングの概要

グラフ埋め込み(Graph Embedding)は、グラフ構造を低次元のベクトル空間にマッピングすることで、グラフのノードやエッジを密な数値ベクトルで表現して、機械学習アルゴリズムによって処理したグラフ理論と機械学習を組み合わせたアプローチとなる。

グラフ埋め込みの目的は、グラフ構造の情報を保持しながら、各ノードを密なベクトルで表現することであり、この表現を使うことでさまざまな情報を扱うことが可能となる。また、従来エッジによって表されていたノード間の距離をベクトル間の距離とすることで、計算コストを下げ、並列・分散アルゴリズムを適用した形で、ノード分類、ノードクラスタリング、グラフ可視化、リンク予測などりタスクに利用できるようになる。それらの応用は”A Survey on Network Embedding“にまとめられている。

ノードエンべディングの利点は、多くのノード属性情報を加味した上での構造情報のベクトル化による学習を可能にし、深層学習のアルゴリズムの適用を容易にしているところにある。このようなノードエンべディングの適用タスクとしては、従来のグラフデータアプローチでは困難であったノードの属性情報を加味した構造情報の次元圧縮などがある。グラフエンべディング代表的な手法としては、DeepWalkLINEnode2VecGraRepGCNGraphSAGE変分グラフオートエンコーダ(Variational Graph AutoEncoder)などがある。

グラフエンべディングのアルゴリズム

以下に代表的なグラフ埋め込みアルゴリズムについて述べる。

1. DeepWalk:

アイデア: DeepWalkは、グラフ内のランダムウォークを用いて、各ノードのシーケンスを生成し、これをWord2Vecのような手法で処理することで、ノードの表現を学習するものとなる。ランダムウォークに関しては”ランダムウォークの概要とアルゴリズム及び実装例“を参照のこと。

手順:
1. ランダムウォークにより、グラフ内をランダムに移動しながらノードのシーケンスを生成する。
2. 生成されたシーケンスを元に、Word2Vecのような手法で各ノードのベクトル表現を学習する。
3. Word2VecのCBOW(Continuous Bag of Words)またはSkip-gramモデルを用いて、ノードの周囲のコンテキストを予測するような学習を行う。

特徴: ランダムウォークを通じて、グラフの局所的な構造とグローバルな構造の両方を考慮したノードの表現が得られる。

DeepWalkの詳細については”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

2. Node2Vec:

アイデア: Node2Vecは、ランダムウォークに基づいてノードの表現を学習するが、ランダムウォークのパラメータを制御することで、異なる表現を得ることができるものとなる。

手順:
1. ランダムウォークを用いて、各ノードの近傍ノードを訪れるシーケンスを生成する。
2. ランダムウォークの遷移確率を設定することで、深さ優先探索(DFS)や幅優先探索(BFS)など、異なる探索戦略を模倣する。
3. 生成されたシーケンスを元に、Word2Vecのような手法で各ノードのベクトル表現を学習する。

特徴: ランダムウォークのパラメータを変更することで、局所的な構造に注目したり、グローバルな構造に注目したりすることが可能となる。

Node2Vecの詳細は”Node2Vecの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

3. GraphSAGE (Graph Sample and Aggregated):

アイデア: GraphSAGEは、”機械学習におけるメッセージパッシングの概要とアルゴリズム及び実装例“に述べているような手法を用いてノードの近傍情報を集約して、ノードの表現を学習する。これにより、グラフ全体の情報を使用せず、スケーラビリティが向上する。

手順:
1. 各ノードに対して、その近傍ノードから特徴量を収集する。
2. 収集した特徴量を集約(Aggregate)する際に、平均や最大値などの関数を使用して、ノードの新しい表現を生成する。
3. これを階層的に繰り返すことで、より大域的な情報を考慮しつつ、各ノードの表現を学習する。

特徴: 近傍情報の集約を通じて、各ノードの表現が更新されるため、局所的な構造とグローバルな構造の両方を考慮した表現が得られる。

GraphSAGEの詳細は”GraphSAGEの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

4. Graph Attention Networks (GAT):

アイデア: GATは、”深層学習におけるattentionについて“でも述べている注意機構を用いてノードの表現を学習し、ノード間の関係性に重みをつけ、より重要なノードに注目するアプローチとなる。

手順:
1. 各ノードに対して、その近傍ノードから情報を収集する。
2. 注意メカニズムを用いて、各ノード間の重みを計算し、これにより、重要な隣接ノードにより多くの重みが与えられる。
3. 重み付けされた情報を用いて、各ノードの新しい表現を計算する。

特徴: 注意機構により、各ノードがどの他のノードに注目すべきかを学習し、表現を更新している。

GATの詳細は”GAT (Graph Attention Network)の概要とアルゴリズム及び実装例について“も参照のこと。

グラフエンべディングの適用事例について

グラフ埋め込み(Graph Embedding)は、さまざまな分野で幅広く活用されている。以下にそれら適用事例について述べる。

1. ソーシャルネットワーク分析:

友人推薦: ソーシャルネットワーク上での友人推薦は、グラフ埋め込みを利用して行われている。ノード(ユーザー)の特徴や接続性をベースに、新しい友人の推薦がなされる。

コミュニティ検出: ソーシャルネットワーク内のコミュニティを発見する際に、ノードの表現を埋め込んで、類似性やクラスタリングを行う。例えば、同じ興味や関心を持つ人々を同じコミュニティにグループ化することができる。

2. 推薦システム:

商品推薦: グラフ埋め込みは、商品やユーザーの関係性を表現し、個々のユーザーに最適な商品を推薦するために利用され、類似したユーザーや商品のベクトル表現を使用して、推薦を行っている。

3. 情報検索と類似性:

文書の類似性: 文書間の類似性を理解するために、文書を単語やトピックのベクトル表現に変換し、グラフ埋め込みを使用している。これにより、似たような文書を検索する際に役立つ。

4. バイオインフォマティクス:

タンパク質相互作用: タンパク質の相互作用ネットワークにおいて、グラフ埋め込みはタンパク質を表現するために使用されている。これは、タンパク質の構造や機能を考慮し、その相互作用パターンを理解するのに役立つ。

5. ノード分類と異常検知:

グラフ分類: グラフ埋め込みを利用して、ノードのラベル付けや分類を行う。例えば、ユーザーの属性をグラフで表現し、その属性に基づいてユーザーを分類することなどがある。

異常検知: グラフ内の異常な振る舞いやパターンを検出するために、グラフ埋め込みが使用される。例えば、不正なネットワークトラフィックや異常なユーザー行動の検出に役立てられている。

6. 言語処理と自然言語処理:

単語の意味表現: グラフ埋め込みは、単語の意味を理解するための手段としても利用され、単語の共起関係をグラフで表現し、そのグラフ埋め込みを使用して単語のベクトル表現を学習することを可能としている。

グラフエンべディングの実装例について

グラフ埋め込み(Graph Embedding)の実装には、さまざまなライブラリやフレームワークを利用して実装することができる。以下にそれらについて述べる。

1. DeepWalkの実装

  • ライブラリ: gensim(Pythonのライブラリ)
from gensim.models import Word2Vec
from gensim.models import DeepWalk

# グラフを元にDeepWalkモデルを学習
model = DeepWalk(graph, walk_length=10, num_walks=80, workers=4)
model.train(window_size=5, iter=3)

# ノードのベクトル表現を取得
node_embeddings = model.wv

2. Node2Vecの実装

  • ライブラリ: stellargraph(Pythonのライブラリ)
from stellargraph import StellarGraph
from stellargraph.data import BiasedRandomWalk
from stellargraph import Node2Vec

# StellarGraphにグラフを読み込む
G = StellarGraph(graph)

# Biased Random Walkを定義
rw = BiasedRandomWalk(G)

# Node2Vecモデルを学習
model = Node2Vec(G, walk_length=10, num_walks=80, workers=4)
model.train(window_size=5, iter=3)

# ノードのベクトル表現を取得
node_embeddings = model.wv

3. GraphSAGEの実装

  • ライブラリ: stellargraph(Pythonのライブラリ)
from stellargraph import StellarGraph
from stellargraph.mapper import GraphSAGENodeGenerator
from stellargraph.layer import GraphSAGE

# StellarGraphにグラフを読み込む
G = StellarGraph(graph)

# GraphSAGENodeGeneratorを定義
generator = GraphSAGENodeGenerator(G, batch_size=50, num_samples=[10, 5])

# GraphSAGEモデルを構築
model = GraphSAGE(
    layer_sizes=[128, 128], generator=generator, bias=True, dropout=0.5
)
x_inp, x_out = model.in_out_tensors()

# モデルをコンパイル
model.compile(optimizer="adam", loss="sparse_categorical_crossentropy", metrics=["acc"])

# モデルを学習
history = model.fit(generator.flow(train_node_ids, train_node_labels, shuffle=True), epochs=5)

# ノードのベクトル表現を取得
node_embeddings = model.predict(generator.flow(G.nodes()))

4. Graph Attention Networks (GAT)の実装

  • ライブラリ: stellargraph(Pythonのライブラリ
from stellargraph import StellarGraph
from stellargraph.mapper import FullBatchNodeGenerator
from stellargraph.layer import GAT

# StellarGraphにグラフを読み込む
G = StellarGraph(graph)

# FullBatchNodeGeneratorを定義
generator = FullBatchNodeGenerator(G, method="gat")

# GATモデルを構築
model = GAT(
    layer_sizes=[8, 8], activations=["elu", "elu"], generator=generator, bias=True, in_dropout=0.5, attn_heads=8, dropout=0.5, normalize="l2"
)
x_inp, predictions = model.in_out_tensors()

# モデルをコンパイル
model.compile(optimizer="adam", loss="sparse_categorical_crossentropy", metrics=["acc"])

# モデルを学習
history = model.fit(generator.flow(train_node_ids, train_node_labels), epochs=5)

# ノードのベクトル表現を取得
node_embeddings = model.predict(generator.flow(G.nodes()))

これらは一般的なPythonのライブラリであるgensimstellargraphを使用したシンプルな実装例となる。

グラフエンべディングの課題と対応策について

グラフ埋め込み(Graph Embedding)は強力なツールだが、いくつかの課題もある。以下にそれら課題と対応策について述べる。

1. スケーラビリティ:

課題: 大規模なグラフの場合、グラフ埋め込みの計算や学習に時間がかかる。

対応策:
サンプリング: グラフの一部をサンプリングして計算を行うことで、大規模なグラフに対応できる。
ミニバッチ処理: ミニバッチを使用して、学習を効率化する。
分散処理: 複数のマシンやGPUを使用して、計算を並列化することでスケーラビリティを向上させることができる。

2. グラフの構造の理解と表現:

課題: グラフの構造が複雑であり、適切な表現方法を見つけることが難しい場合がある。

対応策:
適切な埋め込み手法の選択: グラフの性質や特徴に応じて、適切なグラフ埋め込み手法を選択する。
特徴量の設計: ノードやエッジの特徴量を適切に設計することで、埋め込みの性能を向上させることができる。

3. ノードの階層性とグラフのスパース性:

課題: グラフ内のノードは、階層的な関係性を持つことがある。また、スパースな接続性を持つ場合もある。

対応策:
階層的埋め込み: 階層的なグラフ埋め込み手法を使用して、階層構造を反映した埋め込みを取得する。
スパースな表現: グラフのスパース性に対処するために、隣接行列の近似や畳み込み演算の利用など、適切な手法を選択する。

4. ドメイン特有の課題:

課題: 特定のドメインにおいて、グラフ埋め込みの性能が低下する可能性がある。

対応策:
ドメイン適応: ドメイン特有の特徴や構造を考慮に入れることで、性能を向上させる。
トランスファーラーニング: 他のドメインで学習済みの埋め込みを利用し、目的のドメインに適応させることも有効なアプローチとなる。

5. 評価と比較:

課題: グラフ埋め込み手法の評価や比較が難しいことがある。

対応策:
グラフ埋め込みの評価尺度: ノードの類似性、クラスタリング、分類などのタスクにおける性能を評価する尺度を用いて比較する。
ベンチマークデータセット: 標準的なベンチマークデータセットを使用して、手法の性能を評価・比較する。

参考情報と参考図書

Graph Neural Networkの先端的な研究を行っているGoogleReasearchの”A Gentle Introduction to Graph Neural Networks“、また国内では東工大の村田研のサイトにさまざまなGNNの研究事例が掲載されている。

グラフデータの詳細に関しては”グラフデータ処理アルゴリズムと機械学習/人工知能タスクへの応用“を参照のこと。また、ナレッジグラフに特化した詳細に関しては”知識情報処理技術“も参照のこと。さらに、深層学習全般に関しては”深層学習について“も参照のこと。

参考図書としては”グラフニューラルネットワーク ―PyTorchによる実装―

グラフ理論と機械学習

Hands-On Graph Neural Networks Using Python: Practical techniques and architectures for building powerful graph and deep learning apps with PyTorch

Graph Neural Networks: Foundations, Frontiers, and Applications“等がある。

コメント

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  3. […] “グラフ畳み込みニューラルネットワーク(Graph Convolutional Neural Networks, GCN)の概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているグラフ畳み込み、”グラフエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているグラフエンべディング、”Structural Deep Network Embedding(SDNE)の概要とアルゴリズム及び実装例“に述べているグラフオートエンコーダ等では、主に静的グラフを対象にモデルを構築していた。それに対して、現実のデータでは動的なグラフで表される関係性が数多く存在しており、”時間と共に変化していくグラフデータを解析する手法について“に述べているようにさまざまなアプローチが行われている。 […]

  4. […] GNNは、半教師あり学習や教師なし学習の両方に適用され、また、”CNNの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べている畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN)と組み合わせたもの(詳細は”グラフ畳み込みニューラルネットワーク(Graph Convolutional Neural Networks, GCN)の概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと)や”RNNの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているリカレントニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network, RNN)と組み合わせたもの(詳細は”グラフエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例“を参照のこと)のような他のニューラルネットワークと組み合わせることも可能であり、最近の研究では、GNNを用いたグラフ生成や、シーケンスデータとグラフ構造を同時に扱うことで、より高度なタスクに取り組むことが行われているものとなる。 […]

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