GraREPの概要とアルゴリズム及び実装例

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GraREPの概要

GraREP(Graph Random Neural Networks for Representation Learning)は、グラフ表現学習のための新しい深層学習モデルとなる。グラフ表現学習は、ノードとエッジから成るグラフ構造データから、それぞれの要素(ノードやエッジ)の表現を学習するタスクで、ソーシャルネットワーク、分子構造、コミュニケーションネットワークなど、さまざまな分野で重要な役割を果たしている。

GraREPは、CaoとLuにより”GraRep: Learning Graph Representations with Global Structural Information“で提案された行列分解に基づく”グラフエンべディングの概要とアルゴリズム及び実装例“でも述べているグラフエンべディング手法となる。

GraREPは大域的な構造情報、すなわちエッジを複数回たどって繋がるノード間の関係も考慮したエンべディングを行っている。GrREPでは、同じくグラフエンべデング手法である”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているDeepWalkの学習過程において明確ではなかった損失関数を明確にするとともに、距離k(k=1,2,3…)で繋がったノード間の関係を”Skipgramの概要とアルゴリズム及び実装例“でも用いているSkipGramの欠点を回避している。

LINE(Large-scale Information Network Embedding)の概要とアルゴリズム及び実装例について“で述べているLINEでは、1次近接性と2次近接性に基づく損失関数を用いていたが、これをk次(k>2)に一般化することは容易ではない。GraREPは、高階の遷移確率行列をk=1,2,…,Kについて求め、それを元にした”スパースモデリングと多変量解析(11)RによるSVD、PMD、NMFの実践例“でも述べている特異値分解(SVD)によってk次の表現を得て、最後にそれぞれのk次の表現を連結させることによってエンべディングを行っている。これは重み付きグラフにも適用可能なものとなる。

このモデルの特徴を要約すると以下の様になる。

1. ランダムウォークの組み合わせに基づく特徴表現: GraREPは、グラフのランダムウォークを利用して、ノード間の関係を捉える特徴を生成し、これにより、グラフ全体の情報を効果的にエンコードすることが可能としている。

2. グラフ構造の特性のキャプチャ: ノードが持つ近傍情報に加えて、GraREPはグラフの全体的な構造を考慮している。これにより、より豊かな特徴表現を学習することが可能となる。

3. 潜在空間での表現の学習: GraREPは、ノードやエッジの表現を学習するための潜在空間を定義している。これにより、異なるノードやエッジ間の類似性や関連性を計算することが容易になる。

4. スケーラビリティと効率性: GraREPは、大規模なグラフに対してもスケーラブルであり、効率的に学習を行うことができる。

以下にGraREPのアルゴリズムの詳細について述べる。

GraREPでは、ノードωからcにちょうどkステップで遷移する確率を\(p_k(C|\omega)\)とする。kステップの遷移確率行列を\(\mathbf{A}^k=\mathbf{A}\dots\mathbf{A}\)としたとき、\(p_k(c|\omega)=\mathbf{A}_{\omega,c}^k\)となる。ノードωからのkステップの損失関数\(L_k(\omega)\)は以下の様に定義される。

\[L_k(\omega)=\left( \displaystyle\sum_{c|in V}p_k(c|\omega)log\sigma(\vec{\omega}\cdot\vec{c})\right)+\lambda\mathbb{E}_{c’\sim p_k(V)}\left[log(-\vec{\omega}\cdot \vec{c’})\right]\]

ここでσはシグモイド関数(\(\sigma(x)=(1+e^{-x})^{-1})\)、λはnegative samplingの数を表すハイパーパラメータ、\(p_k(V)\)はグラフのノード上の分布、\(\mathbb{E}_{c’\sim p_k(V)}[\cdot]\)はnegatove samplingで得られたc’が分布\(p_k(V)\)に従う時の期待値となる。

Grepのアルゴリズムは以下の3ステップからなる。

  1. k次の遷移確率行列\(\mathbf{A}^k\)を求める(\(\mathbf{A}=\mathbf{D}^{-1}\mathbf{S}\)[\(\mathbf{S}\)は隣接行列、\(\mathbf{D}\)は次数行列]から\(\mathbf{A}^a,\mathbf{A}^2\dots,\mathbf{A}^K\)を計算する。ここで\(\mathbf{A}_{ij}^k\)はノードiからノードjへのk次の遷移確率\(p_k(j|i)=\mathbf{A}_{ij}^k\)となる)
  2. 各々のk次の表現を求める。各k=1,…,Kに対して
    1. 正のlog確率行列を求める。\(\Gamma_j^k=\sum_p\mathbf{A}_{pj}^k\)を求めてから、\(\mathbf{X}_{ij}^k=log\left(\frac{\mathbf{A}_{ij}^k}{\Gamma_j^k}\right)-log(\beta)\)を求め(βは定数)、\(\mathbf{X}^k\)の負の値を0にする。
    2. \(\mathbf{X}^k\)を特異値分解して表現\(\mathbf{W}^k\)を求める。\[\mathbf{U}^k,\Sigma^k,(\mathbf{V}^k)^T]=SVD(\mathbf{X}^k),\mathbf{W}^k=\mathbf{U}_d^k(\Sigma_d^k)^{\frac{1}{2}}\]
  3. すべてのk次の表現を連結させる\(\mathbf{W}=[\mathbf{W}^1,\mathbf{W}^2,\dots,\mathbf{W}^K]\)

GraRep: Learning Graph Representations with Global Structural Information“では、20-Newsgroup、Blogcatalog、DBLPなどのデータセットを用いてクラスタリング、多ラベル分類、可視化を行っており、LINE、DeepWalk、E-SGNS、Spectral Clusteringと比較して良好な結果が得られたことを報告している。

GraREPに関連するアルゴリズムについて

GraREPに関連するアルゴリズムとしては以下の様なものがある。

1. DeepWalk: DeepWalkは、グラフ表現学習の古典的なアルゴリズムであり、”ランダムウォークの概要とアルゴリズム及び実装例“で述べているランダムウォークと”Word2Vec“で述べているWord2Vecを組み合わせた手法となる。ランダムウォークによってグラフ上を移動し、それぞれのランダムウォークを文として扱い、Word2Vecの学習を適用することでノードの表現を学習している。DeepWalkは、GraREPの基礎となるアイデアの一部として捉えることができる。詳細は”DeepWalkの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

2. Node2Vec: Node2Vecは、DeepWalkの拡張版で、ランダムウォークを制御するパラメータを導入することで、異なるタイプのノード間の関係性をキャプチャしたものとなる。これにより、グラフのさまざまなクラスタリングや分類タスクにおいて、より性能が向上している。詳細は”Node2Vecの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

3. GraphSAGE(Graph Sample and Aggregation): GraphSAGEは、グラフからサンプリングされた隣接ノードの情報を集約し、ノードの表現を学習する手法となる。GraREPと同様に、グラフの構造とノードの特徴を両方活用して表現学習を行い、異なる階層の隣接ノードの情報を収集することで、より豊かな表現を得ることができる。詳細は”GraphSAGEの概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

4. Graph Convolutional Networks (GCNs): GCNは、グラフ構造に対する畳み込み演算を可能にするニューラルネットワークの一種であり、隣接ノードとの情報を利用してノードの表現を更新することで、グラフ上での畳み込み演算を実現しているものとなる。GCNは、GraREPの基盤となるグラフニューラルネットワークの一つとして位置付けられる。詳細は”グラフ畳み込みニューラルネットワーク(Graph Convolutional Neural Networks, GCN)の概要とアルゴリズム及び実装例について“を参照のこと。

GraREPの適用事例について

GraREPさまざまな分野で幅広く適用されている。以下にそれら適用事例について述べる。

1. ソーシャルネットワーク分析: ソーシャルネットワークにおけるノード(ユーザー)間の関係を学習し、それに基づいてノードの特徴表現を獲得することが重要であり、GraREPは、ソーシャルネットワーク内のユーザーのクラスタリング、影響力の予測、コミュニティ検出などのタスクに応用されている。

2. 分子グラフ: 化学分野では、分子をグラフとして表現することが一般的となる。GraREPは、分子間の相互作用パターンや化学的性質を捉えるために使用され、これにより、新しい化合物の特性予測や薬物デザインに役立てられている。

3. 推薦システム: ユーザー間の関係をグラフとしてモデル化し、GraREPを使用してユーザーの嗜好や関連性を学習することができる。これにより、個々のユーザーに最適な推薦が可能となる。

4. 生物情報学: タンパク質間の相互作用ネットワークや遺伝子間の関係性をモデル化する際に、GraREPが活用されている。これにより、タンパク質の機能予測や遺伝子の相互作用パターンの解析が可能になる。

5. ノード分類: グラフ内のノード(例:Webページ、文書、画像)を異なるカテゴリに分類するタスクにおいて、GraREPは有効なアプローチとなる。これには例えば、ウェブページのカテゴリ分類や画像のタグ付けなどがある。

6. リンク予測: グラフ内でノード間のリンクを予測することは、推薦システムやソーシャルネットワーク分析などにおいて重要なタスクとなる。GraREPは、ノードの表現学習を通じて新しいリンクの予測を行うことができる。

GraREPの実装例について

GraREPは、PythonやDeep Learningフレームワークを使用して実装することができる。以下に、GraREPの実装例として、PythonとPyTorchを使用した基本的なコード例を示す。この例では、シンプルなグラフデータセット(例えば、Karate Clubグラフなど)を使用して、ノードの表現学習を行っている。

まず、必要なライブラリをインストールする。

pip install torch torchvision
pip install networkx

次に、GraREPの実装例を示す。

import torch
import torch.nn as nn
import torch.nn.functional as F
import networkx as nx
import numpy as np

class GraREP(nn.Module):
    def __init__(self, input_dim, hidden_dim, output_dim):
        super(GraREP, self).__init__()
        self.input_dim = input_dim
        self.hidden_dim = hidden_dim
        self.output_dim = output_dim

        # ノードの特徴を埋め込むための層
        self.embedding_layer = nn.Linear(input_dim, hidden_dim)
        
        # グラフをランダムウォークして表現を集約するための層
        self.aggregation_layer = nn.Linear(hidden_dim, output_dim)

    def forward(self, graph, node_features):
        # ノードの特徴を埋め込む
        embedded_features = self.embedding_layer(node_features)
        
        # グラフ内の各ノードに対してランダムウォークを行い、特徴を集約する
        aggregated_features = []
        for node in graph.nodes():
            neighbors = list(graph.neighbors(node))
            neighbor_features = embedded_features[neighbors]
            aggregated_feature = torch.mean(neighbor_features, dim=0)
            aggregated_features.append(aggregated_feature)
        
        aggregated_features = torch.stack(aggregated_features)
        
        # 集約された特徴を活性化関数で処理する
        output = F.relu(self.aggregation_layer(aggregated_features))
        return output

# シンプルなグラフを作成(例:Karate Clubグラフ)
def create_karate_club_graph():
    G = nx.karate_club_graph()
    # ノードの特徴を設定(ここでは単純にノードの次元数を2とする)
    for node in G.nodes():
        G.nodes[node]['features'] = np.random.rand(2)
    return G

# グラフデータとノードの特徴を作成
graph = create_karate_club_graph()
num_nodes = len(graph.nodes())
input_dim = 2
hidden_dim = 64
output_dim = 32
node_features = torch.randn(num_nodes, input_dim)

# GraREPモデルを定義
model = GraREP(input_dim, hidden_dim, output_dim)

# グラフとノードの特徴を入力して、表現学習を行う
output_representation = model(graph, node_features)

print("Output Representation Shape:", output_representation.shape)

この例では、GraREPクラスがGraREPモデルを定義し、forwardメソッドでは、与えられたグラフとノードの特徴を用いて、ノードの表現学習を行っている。create_karate_club_graph関数は、Karate Clubグラフというシンプルなグラフを作成し、ノードの特徴をランダムに設定している。

最後に、このモデルを使ってグラフとノードの特徴を入力し、表現学習を行う。出力されるoutput_representationは、各ノードの学習された表現を含むテンソルとなる。

GraREPの課題とその対応策について

GraREP(Graph Random Neural Networks for Representation Learning)は、優れた性能を持つグラフ表現学習モデルだが、いくつかの課題も存在している。以下にそれら課題と対応策について述べる。

1. 大規模グラフへのスケーラビリティ:

課題: GraREPは、大規模なグラフに対しても十分な性能を発揮するが、計算コストやメモリ使用量が増大する可能性もある。
対応策:
ミニバッチ学習: ミニバッチ学習を使用して、グラフの一部のサンプルに対してのみ学習を行うことで、メモリ使用量を削減し、効率的な学習を行うことができる。
グラフサンプリング: グラフのランダムサンプリングやサブグラフの抽出を行うことで、大規模なグラフに対する処理を効率化することができる。
分散学習: 複数のマシンやGPUを使用して学習を並列化し、スケーラビリティを向上させることができる。

2. ノードの次元の異なり:

課題: グラフ内のノードは、異なる次元の特徴を持つことがある。これにより、ノードの表現学習が難しくなる。
対応策:
特徴の正規化: ノードの特徴を正規化することで、異なる次元の影響を均一化し、学習を安定化させることができる。
モデルの調整: 異なる次元の特徴に対応するために、モデルのアーキテクチャを適切に調整することが重要となる。これには異なる次元に対応するための層を追加するなどの対策が考えられる。

3. グラフの構造のノイズ:

課題: 実世界のグラフは、ノイズや欠損が含まれることがある。これにより、学習された表現が歪んだり、不正確になる。
対応策:
データのクリーニング: ノイズや欠損を削除するなど、データの前処理を行うことで、学習の品質を向上させることができる。
ノイズロバストなモデル: ノイズに対してロバストなモデルを使用することで、学習の安定性を向上させることができ。これには例えば、正則化やドロップアウトなどの手法がある。

4. ドメイン適応:

課題: 異なるドメインのグラフに対してモデルを適応させる際には、ドメイン適応の課題が存在する。
対応策:
ドメイン適応の技術: ドメイン適応の手法を使用して、異なるドメイン間での学習を効果的に行うことができる。例えば、ドメイン適応のための損失関数や転移学習の手法を適用することが考えられる。

5. 過学習:

課題: モデルが訓練データに過度に適合し、未知のデータに対する汎化性能が低下することがある。
対応策:
ドロップアウトや正則化: ドロップアウトや正則化などの手法を使用して、過学習を抑制することができる。
データ拡張: 訓練データを変換したり増やしたりすることで、汎化性能を向上させることができる。

参考情報と参考図書

グラフデータの詳細に関しては”グラフデータ処理アルゴリズムと機械学習/人工知能タスクへの応用“を参照のこと。また、ナレッジグラフに特化した詳細に関しては”知識情報処理技術“も参照のこと。さらに、深層学習全般に関しては”深層学習について“も参照のこと。

参考図書としては”グラフニューラルネットワーク ―PyTorchによる実装―

グラフ理論と機械学習

Hands-On Graph Neural Networks Using Python: Practical techniques and architectures for building powerful graph and deep learning apps with PyTorch

Graph Neural Networks: Foundations, Frontiers, and Applications“等がある。

 

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